New Food Industry 2012年 2月号

米および米加工食品に適用可能なタンパク質分析技術

重光 隆成、増村 威宏

イネは日本を含むアジア圏の主要作物であり,国内では唯一の完全自給可能な穀物である。近年の食生活の欧米化により,炭水化物中心から畜産物や脂質へと摂取エネルギー源が変化しており,その影響により米の消費量が年々減少している。現在,国産米の消費量を拡大することが,農業上の大きな課題となっている。農林水産省では米を加工食品の原料として利用することで,米の消費量を増加させようとする施策を始めており,特にパンの原料として米粉を利用する動きが進んでいる。米の主な成分は炭水化物であり,次いでタンパク質が約6〜8%の割合を占めている。米タンパク質はデンプンと共に,米の品質を決定づける重要な因子であり,米タンパク質の種類とその含有量が炊飯米の食味との間に密接な関連性があると指摘されている。一般的に,米粒中のタンパク質の量が少ない方が良食味だとされ,米タンパク質含量は食味計の重要なパラメーターの一つとなっている1)。また,炊飯米だけでなく米加工品の品質にも関与していると報告されており,日本酒や米菓,米粉パンの品質にも深く影響すると指摘されている2, 3)。米タンパク質に関する研究は,タンパク質含有量やその組成に着目してこれまで行われてきた。しかし,米粒中における米タンパク質の分布が米品質を評価する上で非常に重要であることが明らかにされ,米タンパク質を組織化学的手法により分析することが必要であると考え始められている。これまで登熟期前半の種子について米タンパク質の組織化学的解析が行われ,多くの詳細な知見が得られている。

市販洋生菓子の製造小売形態によるミクロフローラの相異点

高橋 正弘、池田 恵、中村丁次

洋生菓子とは,菓子類のうち小麦粉,卵,牛乳,乳製品,チョコレート,果実などを主原料としたものであって,出来上がり直後の水分含有量が40%以上含むものである1)。
 ショートケーキ,シュークリーム,カスタードプリンなどが洋生菓子に該当する。これらは,水分含有量が多く,また,主原料の微生物汚染などの影響により,衛生の確保および向上が重要な課題となっている。
 洋生菓子に対する消費動向は,長引く景気低迷による低価格志向の中で,製品の小型化,販売単価の低下傾向がみられる。一方,素材や品質にこだわる製品を求める消費者が増えるなど,消費の二極分化の傾向がみられる。メーカーは,これらニーズに対応する製品を開発し,提供している。
 生菓子製造業は,小規模メーカーが大半で,総事業所数に対し従業員3人以下の事業所が約4割を占め,製造小売の形態をとる事業所がほとんどである。一方,大量生産を基本とする大規模メーカーでは,系列の小売店で販売する形態がある。そこで,洋生菓子の製造小売形態の異なる,すなわち,小規模メーカー製造小売店舗と大規模メーカー小売店舗から洋生菓子を購入し,店舗間,洋生菓子の種類間に分け,生菌数,ミクロフローラを調べ,製造小売形態別の衛生学的な相異点を比較検討した。

茶カテキンの抗アレルギー作用

芳野 恭士

本論文中、16ページ図1に誤りがあったため、お手数ですが訂正PDFをダウンロードしてください。ダウンロードはこちらから16ページ図1

アレルギー疾患の患者数は,年々増加する傾向にあり,近年では人口の約1/3に上ると予想されている1, 2)。その背景には,環境の変化や食事を含む生活習慣の変化,ストレスの増大等があるものと考えられ,大きな社会問題となりつつある。アレルギーの原因となるアレルゲンとしては,そば,卵,牛乳のような食品中のタンパク質や,花粉,ダニの死骸,各種化学薬品などが知られている。アレルギーは,体外から侵入する細菌やウイルス,あるいは体内で形成される異常細胞である腫瘍細胞などに対する身体の防御システムである免疫系が,生体にとって害のない抗原であるアレルゲンに対して過剰な反応を示し,組織障害を起こす現象を指す。アレルギー疾患は,その発症のメカニズムによりⅠ型からⅣ型までの4種類に分類される3)。Ⅰ型~Ⅲ型は,アレルゲンの暴露から短時間で発症するため即時型アレルギーと呼ばれ,それらは抗体を介して引き起こされる体液性抗体応答である。代表的なアレルギーであるI型アレルギーは,マスト細胞表面で特異的イムノグロブリンE(IgE)抗体と抗原が架橋結合することで,マスト細胞が脱顆粒しヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されて組織傷害を起こすもので,アナフィラキシーショック,花粉症,気管支喘息,アトピー性皮膚炎,食物アレルギー,鼻炎などが例として挙げられる。もう一つの代表的なアレルギーであるⅣ型は,アレルゲンの暴露から症状が現れるまでに1日から数日かかるため遅延型アレルギーと呼ばれ,抗体を介さず,リンパ球の一種である1型ヘルパーT(Th1)細胞が産生する前炎症性サイトカインによって引き起こされる細胞性免疫応答である。ツベルクリン反応,結核病変,移植拒絶反応,うるしや化粧品等で起こる接触性皮膚炎(接触過敏症),リューマチ性関節炎(AR),膠原病などが例として挙げられる。

サラシア茶とIP-PA1混合物による糖尿病予防効果

中田 和江、谷口 芳枝、吉岡 典子、吉田 彩、稲川 裕之、中本 尊、吉村 寛志、三宅 信一郎、河内 千恵、黒木 政秀、杣 源一郎

日本をはじめ先進諸国では,生活習慣と社会環境の変化に伴い糖尿病は急速に増加している。平成19年の国民健康・栄養調査では,潜在的な糖尿病患者数を含めると総数は約2210万人と推測され,将来的にさらに増加すると考えられている1)。近年,糖尿病の予防・改善を目的とした食品や食品素材に関する研究が盛んに行われるようになってきた。この中で,サラシア属植物(Salacia oblongaやS. reticulata)の葉又は幹の抽出物(サラシア茶)はインドやスリランカに古くから伝わる伝承医学のアーユルヴェーダで糖尿病の特効薬として使用されている。この有効成分は,サラシノールとコタラノールである2−4)。摂取した炭水化物が体内に吸収されるためには,腸で単糖まで分解される必要がある。小腸の上皮が分泌するαグリコシダーゼにより二糖類は単糖へ分解され,吸収される。サラシノールとコタラノールはこのαグリコシダーゼの働きを阻害し,腸管での単糖生成を抑制させる。この結果,吸収される単糖量が減少し,食後の血糖値の急激な上昇が抑制される。
 ところで糖尿病は,孤発性であることは希であり,内臓脂肪の蓄積や脂質異常,高血圧などを合併する5, 6)。糖尿病,脂質異常症や高血圧症の治療には,それぞれ異なる機序の治療薬が用いられる。そのため,合併疾患の治療には,薬剤の相乗的副作用が問題になるだけでなく,薬剤投与期間が長期にわたる場合にはQOLも低下するなど,治療に伴う多くの問題が発生する。したがって,糖尿病の予防には,血糖値だけでなく内臓脂肪や血清脂質値,血圧の改善も重要となる。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(4)
—ウェステルマン肺吸虫の感染源となりうるもの(ノート)   36
Food that needs precautionary awareness for infection in human body (4)- Prevention of people from the infection with Paragonimus westermanii in Japan(note)

牧 純、関谷 洋志、玉井 栄治、坂上 宏

Abstract
Maki J, Sekiya H, Tamai E and Sakagami H:Food that needs precautionary awareness for infection in human body (4)- Prevention of people from the infection with Paragonimus westermanii in Japan(note)
Japanese people used to be infected with parasitic helminthes in their daily life. One of the examples is the infectious disease caused by Paragonimus westermanii. It seems that it has been overcome nowadays, forgotten as a local disease. However, learning from case reports, we have to be careful not to get infected with them again in and/or out of Japan. With this background, this paper describes the distribution, life history, symptomatology, diagnosis, treatment as well as the prevention of infection with P. westermanii.

要約
多くの先進国のように,本邦も食物摂取による寄生虫感染に長い間悩まされてきた。現在では公共衛生対策,なかでも感染ルートの遮断と啓蒙活動が功を奏し,問題が無くなってきたかに見える。しかし油断は禁物だ。地域によっては,風土病病原体のヒトに感染する危険性が依然残っており,侮りがたいものであることが如実に示される。例えば,以前長い間恐れられてきた,いわゆる肺ジストマ(ウェステルマン肺吸虫Paragonimus westermanii)が,寄生虫学者などの専門家は別として,人々の間では忘れ去られている昨今ではあるが,突如として再興する。的確な診断がつけば,現代では優れた治療薬,プラジカンテルpraziquantel (ビルトリシドⓇ) が投与される。しかし,商品価値があって全国的に流通するモクズガニ,サワガニなどはいうに及ばず,地域よっては食される習慣のあるアメリカザリガニから感染しないことが第一である。あまり知られていないが,感染源はこの3つのカニに限らない。イノシシ肉(牡丹肉)などの獣肉からの感染も報告されているので要注意である。これらのことを常に念頭におかねばならない。近縁の感染源となるカニも含めて,カニそのもの及びそれらの老酒漬,および獣肉の生食は慎み,常に完全な熱処理したものを食するなど特段の注意を払う必要がある。しかし海産のカニであるタラバガニ,松葉ガニ,ケガニ,花咲ガニなどはウェステルマン肺吸虫と全く無関係である。また別の再興感染症のひとつである老人性の肺結核が珍しくない現代において,肺疾患の患者の食生活の状況によってはウェステルマン肺吸虫症の可能性も排除されるべきでない。

飼料の違いがシロザケ稚魚に与える影響

酒本 秀一、大橋 勝彦

放流用シロザケ稚魚の生産技術は非常に進んでおり,ほぼ完成の域に達しているのではないかと思われる1-3)。一方,シロザケ用飼料については農林水産技術会議別枠研究「溯河性さけ・ますの大量培養技術の開発に関する総合研究」で一連の研究が行われた4-13)。ところがシロザケ稚魚の放流事業は国が事業主体で行っていたこともあり,国の指定原料を使用した指定配合の飼料でなければならず,しかも入札制であったため,飼料メーカーではシロザケ用飼料の研究・開発が殆ど行われてこなかった。現在は状況が変わっているものの,他の養殖魚用飼料に比べてシロザケ用飼料の開発は遅れているといわざるを得ない。現在,数社がシロザケ用飼料を製造・販売しているが,それぞれの飼料にどの様な特徴が有るのかを調べ,今後のシロザケ用飼料の改善に資することを目的にして本試験を行った。
 シロザケ稚魚は一定の大きさ(1-2g)になるまで人間の管理下で飼育され,河川に放流される。放流された稚魚は河川を下り,海に入る。海に下るのに掛かる時間は稚魚の放流時期によって異なるようで,早期に放流された魚ほど長く河川に滞留するといわれている。その理由として,早期放流の時期には未だ稚魚が海に入るには海水温が低すぎるためであるとされている。放流は何回にも分けて行われるが,一度に数十万尾以上が放流されるのが一般的である。ところが河川にはこの様に多量の魚が一度に入ってきても,これを十分に養えるだけの餌が無いのではないかと思われる。それはシロザケ稚魚が放流される前には,河川に存在している餌の量とその捕食者(魚など)との間で一定のバランスが成り立っており,多量の餌が余っているとは思えないからである。従って,放流された魚は一定の期間飢餓状態に置かれる可能性が高い。この様な状況の下で,放流された稚魚がどの程度の絶食耐性を持っているのかは,魚の質を判断するうえで重要な要因である。また,河川を下った稚魚が容易に海水に入れるか否かも重要である。よって本試験では試験飼料による飼育試験を行った後,絶食試験,回復試験,海水馴致試験なども行った。試験には三社の市販シロザケ用飼料を用いたが,A社とC社の飼料は得られた結果がほぼ同じであったので,A社飼料とB社飼料のみで比較する。

知っておきたい日本の食文化その一 日本の食文化の伝統 

橋本 直樹

日本の食料事情と食生活はかつて経験したことのない激動期にある。食品産業に携わるものとしては,どのような変化が起きているのかをよく把握して,今後も起きるであろう更なる変化に対処して行かねばならない。そのためには,これまで日本人がどのようにして食料を生産し,調理して,どのように食べてきたのかという食文化の社会的変遷を理解しておく必要がある。
 そもそも,人間は食べ物を生産し,調理をして,家族や仲間と一緒に食べる動物であるといわれている。農耕,漁労,牧畜によって生産した食料を,おいしく食べられるように調理して,家族や仲間とともに楽しむことは人間だけが行うことであり,文化の基本になる行為であった。したがって,世界の各地域には民族固有の食文化が育ち,国際化,ボーダーレス化した現在であっても変わることなく受け継がれているのである。ところが,近代の日本においてはそうではない。とくに,第二次大戦後は伝統の食文化の多くが大きく変貌し続けているのである。
 日本は大陸に近く,南北3500キロメートに連なる列島であるから,古来,異民族の侵略は受けることがなかったが,海を渡れば近い隣国の中国と積極的に交流して先進文化を絶えず受け入れることにより独自の文化を築くことができたのであり,食文化においても例外ではない。古来,どの地域においても民族の食文化は保守的なものであり,容易には変化しないものである。ところが,日本の食文化には諸外国の食文化を積極的に受け入れて劇的に変化できる地政学的な能力が備わっていたと考えなければならない。そうでなければ明治維新や第二次大戦後に起きた急激な食文化の変化を理解することが難しい。

ゼリー飲料市場を創造した 驚くべきヒット食品
−「ウイダーinゼリー」森永製菓株式会社 −

田形 睆作

森永製菓(株)は1899年6月に森永太一郎が米国で11年間,西洋菓子の製法を習得し帰国し,8月に赤坂溜池に西洋菓子製造所を創設,森永商店と称した。この年の主な発売商品はマシマローなどのソフトキャンディー類,キャラメル,チョコレートクリームであった。業界のパイオニアとして近代化を進め,菓子業を産業に育て上げた。終戦直後の飢餓寸前の食糧事情のなか,子供たちの栄養状態は極めて悪く,西洋菓子原料も不足していた。1949年末から原料統制が撤廃され,キャラメルブームが起きた。森永はキャラメルや,ドロップ類,チョコレート類,ビスケット類の最新式大型設備・機械類などを欧米各国から相次いで輸入し,戦前に勝る大量生産システムを完成した。社名も森永食糧工場から森永製菓とし,西洋菓子メーカーとして新たなスタートを切った。その後,ミルクキャラメル,ミルクチョコレート,アイスクリームなどの新商品を発売し順調に規模を拡大していった。

“薬膳”の知恵(63)

荒 勝俊

日常生活の中で,咳嗽・喘息の症状を良くみかける。特に秋から春にかけて咳をする人が増える傾向にある。自然界では,風,寒,暑,湿,燥,火という“六気”の変化に伴い気候が変化するが,これらは万物の成長・発育に大きく影響を及ぼし,六気に異常が起こると邪気となって発病因子に変わる。秋から春にかけて寒さと乾燥が大きな季節変化として起こるので,咳嗽や喘息の原因は寒邪や燥邪が発病因子となる。中医学からみると,寒邪や燥邪は肺,脾,腎を侵す事から,これらの臓器の養生が重要となる。
 中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)に基づいた独自の整体観から構成されている。即ち,人体も自然界の小宇宙として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,脾胃の働きが崩れる事で気・血・津液のバランスが崩れ咳嗽・喘息などの症状が生じると考えている。そこで,中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳料理”を食す事で人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で咳嗽・喘息が改善できると考えている。

築地市場魚貝辞典(マイワシ)

山田和彦

秋の築地。といっても日差しは弱く,冬の足音が近く感じられる。街路樹の葉も落ち,道端に木の葉が舞う。かつて銀座のヤナギは有名であったが,度重なる火災や道路の拡張によって失われ,現在ではいろいろな種類の樹木が植えられているようである。築地市場の周辺も,度重なる道路の拡幅工事で,かなり景観が変わってしまった。現在,築地界隈に植えられている街路樹は,ヤナギ,ケヤキ,サトウカエデなどである。大きなサトウカエデの葉を踏みしめながら市場へ向かうとき,ふと青い空を見あげると,いわし雲が浮かんでいる。巻積雲という雲の呼び名の一つであるらしいが,いかにも魚の鱗のようで,観察力に感心してしまう。巻積雲は秋だけでなく一年中見られるようであるが,秋に多く見られ,高層にあるため空も高く見えるのであろう。天高く。今回は秋の魚,マイワシを紹介する。