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New Food Industry 2011年 8月号

パン酵母β-グルカン,ブドウ皮粉砕物,ビタミンCおよびビタミンEの投与で魚の抗病性が向上する理由

酒本 秀一、糟谷 健二、海野 徹也、古澤 修一

前回の報告1)で,「①ニジマスの鰭欠損症や体表の穴開き症はFlavobacterium属細菌感染症の一症状であり,感染防御には体表の粘液が重要な役割を果たしている。②パン酵母β-グルカン(β-1,3/1,6-グルカン)とブドウ種子抽出物は経口投与でFlavobacterium属細菌の感染を予防する効果を持つ。しかしながら両者の併用効果は認められない。③β-1,3/1,6-グルカンとブドウ種子抽出物には至適添加量があり,添加量が少なすぎても多すぎても効果が劣る。④β-1,3/1,6-グルカンとブドウ種子抽出物にビタミンCとビタミンEを併用すると,効果がより強くなる。⑤ビタミンCとビタミンEにも至適添加量がある。⑥ブドウは種子抽出物のみでなく,皮や種の粉砕物にも同様の効果が有る。⑦ブドウ種子抽出物の種類,用いるブドウの種類,皮であるか種であるかなど,多くの要因によって効果の程度が違う。使用する前にそれぞれの至適添加量を確認しておく必要が有る。⑧効果の指標としてスーパーオキサイド消去活性が利用出来る。」などを報告した。さらに,実際の養殖池でFlabobacterium属細菌の分布を調べ,養殖池内での感染拡大機構を推定するとともに対応策について考えた。
 今回はβ-1,3/1,6-グルカンあるいはブドウ皮粉砕物,ビタミンC,ビタミンEを添加した飼料で重要な養殖対象魚であるアユを飼育し,その効果を調べた。さらに,飼育試験終了時に肝臓の遺伝子発現状態を調べ,これらの物質がどの様な機構で効果を表すのかを推定した。
 試験はβ-1,3/1,6-グルカンの効果を調べる試験Ⅰと,生体内で抗酸化作用を有するブドウ皮粉砕物,ビタミンC,ビタミンEの効果を調べる試験Ⅱに分けて行った。それぞれの詳細を以下に順を追って説明する。

機能性素材:アロエベラ高純度エキス/AVGEの生活習慣病改善作用

山田 宗夫、野間口 光治、樋田 知宏、岩附 慧二

機能性成分アロエベラステロールを含むアロエベラ高純度エキスの肝機能異常肥満成人男性に対する生活習慣病改善作用について報告する。生活習慣病改善作用の指標は,腹部脂肪量,肝機能,糖尿病および痛風に関わる臨床検査項目とした。アロエベラ高純度エキス/AVGEの12週間継続摂取により,腹部総脂肪量および腹部内臓脂肪量に減少が認められたが,プラセボ群との間に有意な差は認められなかった。しかし,肝機能検査(血清ALT値,血清AST値,血清γ-GTP値)および糖尿病に関わる臨床検査値のヘモグロビンA1cは,摂取前に比較して有意な低下が認められた。また,糖尿病に関わる臨床検査値の空腹時血糖値および痛風に関わる臨床検査値の尿酸値は,アロエベラ高純度エキス/AVGEの12週間継続摂取により,プラセボ群に比較し有意の低値が認められた。
これらの成績から,アロエベラ高純度エキス/AVGEは,肥満に伴う肝機能,糖尿病および痛風などの生活習慣病の予防・改善が期待される機能性素材であることが示唆された。

−地域の食資源から抗酸化作用と生理機能の探索 −アピオスの血圧降下作用

岩井 邦久

食品成分には,例えば,消化器系,循環器系,内分泌系などの生理系統に関与して,健康の維持や回復に好ましい効果を及ぼす働きがあることが明らかになってきている。このような食品の三次機能が研究され,注目されるようになった背景には,生活習慣病の増加とそれに対する一次予防の重要性が認識されるようになったことがあげられる。そこで,我々は,地域の食資源の中から生理機能に優れた素材を探索するため,抗酸化活性を指標にスクリーニングを行ってきた。これは,多くの生活習慣病の原因が,生体内で過剰に発生した活性酸素種やフリーラジカルによる酸化傷害であることが明らかになってきたからである1)。
 生活習慣病の中でも高血圧症は代表的な慢性疾患の一つであり,心疾患や脳血管疾患の重要なリスク要因になることが良く知られている2)。また,高血圧は食品成分,特に塩分やタンパク質の摂取量と密接に関連していることも指摘されてきた。従って,治療には薬物療法が必要となるが,高血圧の予防には天然の食品成分を利用することを含めた生活習慣の改善が効果的である3)。その中には禁煙や減塩,カリウムの積極的な摂取なども含まれており,このことは食生活を含めた生活習慣が高血圧に大きく関わっており,その是正が血圧改善を可能にすることを示唆している。また,近年では,種々の食品から派生するペプチドが降圧作用を有し,高血圧の低下に寄与することが幅広く研究されてきた4, 5)。いくつかのペプチドの血圧低下作用は,既に自然発症高血圧ラット (SHR) の実験やヒト・ボランティアにおいて実証されている6, 7)。
 我々は,これまでに行った地域食資源から生理機能の探索において,アピオス (Apios americana Medikus) に抗酸化活性を見出した。後述するが,この食品は様々な保健効果が経験談として言われており,その中には高血圧の緩和も含まれている。また,カリウムが豊富に含まれていることも分った。これらのことから,本稿では,高血圧と脂質代謝に焦点を当てて解明を試みたアピオスの生理作用について紹介する。

パン酵母とそれに特異的なIgGを含むシバヤギ乳IgG分画のマウスI型アレルギー軽減作用

大谷 元


 哺乳類は母乳を介して多量の抗体を新生仔に与える。与えられた抗体は母動物が生息している環境の病原性微生物を認識したものである。そのために新生仔の能動免疫系が成立するまでの間,母乳からの抗体は新生仔の感染防御に寄与する。
 1900年代初期に,ヒトはこのような母乳を介した抗体の受け渡し機構に着目し,牛乳IgGを感染予防に用いることの検討を始めた1)。1950年代後半から研究を進めていたスターリ研究所(Stolle Milk Biological Internationa1社とその後社名変更)は,1987年にヒトの感染性細菌26種類を注射したウシの乳汁を原料にした健康食品の製造法の特許を取得した。同社は1992年にこの特許に基づく食品を開発し,台湾を始めとして,アメリカ合衆国,ニュージーランド,香港,韓国,マレーシア,日本などで販売してきた2)。
 この牛乳IgGを含む食品の摂取による体調の変化に関する各国での聞き取り調査結果は,アレルギー性疾患,リウマチ性関節炎,血清コレステロール,悪性腫瘍,血圧,頭痛,嘔吐,食欲不振,消化不良,便秘などの改善を示した。しかし,それらの改善効果が免疫に用いた病原性細菌を認識した牛乳IgGに由来するという科学的根拠は乏しい3)。
 筆者らは,牛乳タンパク質やその消化物の免疫調節機能を系統的に調べる過程で,大腸菌とその牛乳IgGを経口投与したマウスの獲得液性免疫系が強く抑制されることを観察し,その抑制メカニズムに関する興味深い知見を得た4)。本総説は,牛乳IgGのマウスにおける獲得液性免疫調節機能と,パン酵母に特異的なIgGを含むシバヤギ乳IgG分画のマウスでのI型アレルギー軽減作用を中心にまとめた。

若年女性の味覚感受性について −舌の部位によって味覚感受性は異なるのか−

小林三智子

女子大学に勤務していると,学生の昼食につい目がいく。まして,私が所属するのは食物栄養学科。学生たちは管理栄養士の卵である。手作りのお弁当を毎日持参する学生もいるが,カップ麺だけの学生も多い。また,タバスコや唐辛子を必要以上に使って味付けをする学生も見かける。そんな彼女たちの味覚感受性について,いくつかの測定法を用いて検討した。味覚感受性の測定法には絶対的な方法がなく,いくつかある方法の中からその目的や対象に適したものを選択するのが実際であると思う。本稿では著者が行ってきたいくつかの心理物理学的測定結果1)を中心に紹介し,その中で特に舌の部位によって味覚感受性は異なるのかという点をまとめた。対象者は女子大生に限られており,ここで述べる結果はあくまでも若年女性に限定されることを最初にお断りしておく。
 舌面や口腔内の部位によって5基本味に対する味覚感受性に差があることは古くから言われている。いわゆる“味覚地図(taste map)”と呼ばれるもので,舌尖では甘味に,舌縁では塩味と酸味に,そして舌奥では苦味に敏感に感じるとされている。しかし,最近では,舌の場所によってそれぞれ独特の味に敏感であるという味覚地図は必ずしも正しくないという考え方に変わりはじめており,さらに,舌の部位により味覚感受性の違いはないとまで言い切る研究者すらいる。そこで,舌の上の味覚の局在について検討した内容を紹介する。

食品中の塩分濃度

堀口 恵子

ヒトは,健康で生活できるよう気をつけているが,知らず知らずのうちに塩分を取りすぎている。日本人の1日当たりの平均塩分摂取量は,10.7gである。50歳以上の中高年男性は平均を大きく上まわっている。厚生労働省は国民の健康維持向上の観点から「日本人の食事摂取基準」で,男性は1日9.0g未満,女性は7.5g未満を目標量としている(2010年版)。日本高血圧学会の目標量は,高血圧の患者に対して積極的な減塩を勧めており6.0g未満を目標量としている。慢性腎臓病ガイドラインでも6.0g未満を目標量とし,世界保健機関では,5.0g以下を目標量としている。
 脂肪の摂取が少なく,健康的であると言われている日本食でも,意外と多くの塩分が含まれている。多くの塩分が含まれている食品には,みそ汁,漬物,梅干しなどがあり,さらに,良く食べられているラーメンやうどん,そばなどの麺類の汁にも多く含まれている。
 そこで,食品の塩分濃度を知ることにより,食生活により目を向けた生活,さらには栄養士として栄養指導の時に役立つことを目的として日常の食で良く口にするみそ汁,しょうゆを使用した料理,カップラーメン,インスタントラーメン,スナック菓子,漬物などの食品の塩分濃度に注目し測定した。

蛍光標識テクノロジーを利用した食中毒細菌エコロジーの理解

澤辺 桃子、澤辺 智雄

細菌の細胞はそれ自身に「色」がついていない。そのため細菌細胞を観察し易くするために様々な染色法や標識法が開発されてきた。その中で「蛍光標識テクノロジー」は近年最も注目され汎用的になった細菌検出技術であり,①蛍光色素を用いる染色法,②蛍光標識物質を用いる方法,③蛍光タンパク質遺伝子を発現させる方法などがその主体的技術として知られている。蛍光色素による染色にはアクリジンオレンジ,DAPI (4', 6-diamidino-2-phenylindole),臭化エチジウムなどが用いられている。これらの色素は細胞内の核酸と特異的に結合する性質があるため,培養困難な細菌も含めた試料中の全菌数を蛍光顕微鏡などにて直接計数することができる。蛍光標識物質を用いる方法には,蛍光抗体法や蛍光in situ ハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization: FISH)がある。FISHは,FITCやTAMRAといった蛍光物質を標識したオリゴヌクレオチドプローブを目的の遺伝子と会合反応させ蛍光顕微鏡などで検出する方法である。細菌の16S または23S rRNAの特異的な配列と相補的なオリゴヌクレオチドプローブを使用することが多く,環境試料1)や腸内細菌叢の群集構造解析2)に利用されている。FISHの最大の利点は,検出したい特定の細菌だけを検出することができる高い特異性である。蛍光タンパク質遺伝子を発現させる方法は,細菌を生かしたまま可視化できる特長がある。オワンクラゲから単離された緑色蛍光タンパク質(Green fluorescence protein: GFP)に代表される蛍光タンパク質遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて細菌ゲノムやプラスミドに導入することで蛍光タンパク質標識細菌を創出することができる。現在は緑色(GFP)だけでなく,シアン(CFP),黄色(YFP),赤色(RFP)による標識が可能となり,デュアルあるいはマルチの蛍光検出系も利用できるようになっている。

業界を変えた驚くべきヒット食品−「こくうま」東海漬物株式会社 −

田形 睆作

2004年(平成16年)5月に発売を開始した「こくうま」キムチの店頭カバー率は発売直後に30%を超え,その後,順調に取扱店を拡大していった。09年7月〜10年6月の漬物POSデータを表1に示した。ベスト10位までの商品のうち,キムチが実に9品(90%)ある。ベスト20位まででは14品(70%)がキムチである。ちなみにベスト50位までのキムチ商品は19品(約40%),ベスト100位まででは29品(約30%)である。このことからキムチ商品の売り上げ順位は上位にあることが分かる。また,ベスト20位までの合計販売金額を100%とすると,東海漬物の「こくうま」キムチのシェアは27.5%である。表2には2011年1月度の漬物POSデータを示した。ベスト20位までに「こくうま」キムチは3品あり,そのシェアは29%である。また,ベスト10位までの商品のうちキムチは9品(90%)あり,ベスト20位まででは12品(60%)である。このようにキムチ商品が売り上げが上位を占めるようになったので,漬物メーカーはさらにキムチ商品を新規商品として発売してきた。こういった状況が起こってきた理由として表1,表2から東海漬物の「こくうま」キムチが漬物業界を牽引し,漬物業界を変えたことは間違いの無いことと推察される。本稿を書くにあたり,東海漬物株式会社 伊藤常務に取材した。

ユーラシア大陸の乳加工技術と乳製品
第8回 北アジア―モンゴルの遊牧民の事例

平田 昌弘

本稿では,北アジアの乳加工技術と乳製品を,モンゴル遊牧民の事例で紹介してみたい。著者は1999年からモンゴル国を毎年訪れ,モンゴル遊牧民と生活を共に楽しみ,そして,乳加工体系について調査してきた(写真1)。モンゴルは,モンゴルを後にする時,遊牧民の温かさ,笑顔,人情とが心に込み上げ,またモンゴルを訪ねたいときっと思わされる国だ。
 モンゴル遊牧民は器具をほとんど使わずに,草原の中で家畜から乳を搾り取る。また,乳加工は,日常の調理用器具を転用しておこなっている。このような搾乳・乳加工に特化した器具をほとんど持たないモンゴル遊牧民は,草原の中でいったいどのように搾乳し,どのような乳加工技術を利用しているのであろうか。興味がわくところである。モンゴル遊牧民の乳加工の特徴は,アジア大陸北方域の人びとに広く採用されている技術を用いている。つまり,クリームをせっせと取り集め,チーズをつくるための凝固剤として酸乳そのものを用い,馬の乳で酒をつくっていることにある(平田,2008;2010)。モンゴルの乳加工体系が地域毎に多様に発達しているのは,これらの諸技術を自由に取捨選択して組み合わせているためで,実はその基本的な乳加工技術は多くの地域で共通している。本稿では,以下にモンゴル国中央部の事例をもとに,モンゴル式の搾乳の技法を先ず紹介してから,乳加工技術と乳製品とを紹介していきたい。

薬膳の知恵(59)

荒 勝俊

『最近疲れがなかなか取れないの…』といった会話が日常茶飯事になってきた。中医学では,“疲れ”とは体の隅々まで巡っている「気」という生命エネルギーが消費される事で現れると考えている。「気」は人間のすべての生理機能を指すが,「気」は体内に取り込まれた栄養物(精微)が変化したものであり,「気」に変わる為の栄養物質の過剰な消費が原因となる。特に,過度の運動等による肉体疲労は比較的早く気がつくが,精神活動も同様に体力を消耗している事にはあまり注意が払われていない。中医学では感情を「喜,努,憂,思,悲,恐,驚」の七つに分類(七情)している。これらの情動が過剰になったりすると疲労が発生し,次第に回復不能となる。不規則な食事や不摂生な生活,過度の性生活,長期にわたる病気や病後の不養生も「疲労」の原因になる。
 こうした“疲労”の予防は,“疲れ”をためないことである。初期の段階で“疲労”を回復させて,深い病にまで進展させない事が重要である。休養を十分に取り,気分転換をすると同時に日々の食生活の改善が重要となる。
 中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液の状態をこれまで延べてきた診断法にて診断し,そのバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,臓腑に多くの栄養を供給する事で気・血を充実させ,疲労を回復させて健康を維持できると考えている。こうした中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った食養生が“薬膳”なのである。薬膳を日常生活の中に取り入れる事で,疲労を溜め込まない生活を送る事が肝要と考える。

築地市場魚貝辞典(アユ)

山田 和彦

初夏の築地。今年は夏場の電力不足が懸念されているが,魚の仲卸店舗には,もともと冷房設備がない。氷で冷やされた鮮魚や,活魚が泳ぐ水槽は涼しげであるが,やはり暑いときは暑い。仲卸の中には何軒か淡水魚専門の店がある。話をうかがうと,海の魚に比べて需要が少ないとのことであった。店先を見ると,案外いろいろな川魚を見ることができるのであるが,やはりメインはウナギである。天然物ももちろん店先にあるが,養殖物がコンスタントに入荷するので,冬場でもウナギが見えないときはない。しかし,季節が強く入荷する時期を左右している川魚がある。アユである。養殖ものもあるアユであるが,冬場には,ほとんど見かけなくなる。その清楚な姿は,生活史とあいまって,夏の魚である。今回は,アユを紹介する