New Food Industry 2008年 5月号

温州ミカン成分β-クリプトキサンチンの骨代謝調節機能の発見とその骨粗鬆症予防への展開

山口 正義

骨格系は生体の支持組織として重要な役割を果たしている。骨組織には,骨を形成する造骨細胞の骨芽細胞と骨塩溶解(骨吸収)をもたらす破骨細胞が存在し,骨量を保持するリモデリングの仕組みが構築されている。これは,骨の再構築とよばれ,新鮮な柔軟性のある骨組織を維持するためのものである。
 骨粗鬆症は,骨吸収と骨形成の不均衡により発症し,骨量が加齢に伴って減少し,易骨折性をもたらす骨の病気である。これは,多因性疾患であり,骨折による寝たきりの原因として多くの関心を集めている。 
 特に,閉経後(女性ホルモンの分泌低下)には骨量の減少は著しく,閉経後骨粗鬆症をもたらす。本症は,近年の高齢化人口の増大に伴って年々増加しており,医療費の高騰をもたらしている。そのために,本疾患は予防が極めて重要であるとの認識が一般的になりつつある。

アウレオバシジウム培養液による抗癌剤副作用低減効果

長谷川 秀夫

アウレオバシジウム培養液による抗癌剤の副作用低減作用を,マウスを用いた動物試験によって検証した。試験は,Meth-A肉腫をBALB/c系雌性マウスの足蹠に移植し,腫瘍移植日を試験開始日として,抗癌剤もしくはアウレオバシジウム培養液を21日間連日経口投与した。経口抗癌剤は5-FU(20 mg/kg)を使用し,アウレオバシジウム培養液とともに経口摂取させた。副作用の指標として,体重,白血球数,臓器重量を測定した。その結果,抗癌剤単独治療による制癌作用は,対照群と比べて統計学的有意差(p< 0.01)もって認められたが,抗癌剤治療開始21日後には9匹中の4匹がその副作用のために死亡した。その副作用は,体重26%減,白血球数42%減,肝臓重量48%減,脾臓重量72%減,腎臓重量28%減というかたちで現われた。ところが,抗癌剤にアウレオバシジウム培養液を2 g/kg併用すると,これらの副作用が有意に低減され,死亡例を全く認めなかった。

クマザサ抽出液(ササヘルス)の多様な生物作用と代替医療における機能性

坂上 宏、渡辺 悟、横手 よし子、谷口 純子、大泉 高明

ササヘルスの基原植物は,イネ科の植物であるクマザサ属クマイザサ(学名Sasa Senanensis Rehder)又はその他近縁植物のクマザサ属(Sasa albo-marginata Makino et Shibata)である。クマイザサの稈高1〜2 m。基部でまばらに枝を分岐する。稈鞘と葉鞘は無毛である。節は無毛または細毛がある。節間は通常無毛で,しばしば細毛がある。葉は披針状長楕円形,長さ 20〜25 cm,幅4〜5 cmの皮状紙質である。表面は無毛,ときに長毛または短毛が散生し,裏面は軟毛が密生する。肩毛は発達し,放射状であり,しばしば欠如が見られる(図 1)。クマザサ抽出液(ササヘルス:SE)は,クマザサの葉より樹脂分を除去した後,含有するクロロフィル中のMg2+をFe2+に置換して安定化した後,希水酸化ナトリウム溶液にて加熱加水分解した液を,中和して得られた。SEは,黒緑色を呈する液剤で,わずかな苦味と特有の芳香を有し,液性は低粘性の水性であり,pH 8.1〜8.5,比重1.01〜1.05を示す。ササヘルス100 mLには,約5.82 gの凍結乾燥粉末が含まれている。

河川の源流水,上流水,湧き水および名水は安全安心か?

北元 憲利、加藤 陽二

著者らは,これまでに食品衛生の立場から,食中毒やノロウイルス感染症の現状と感染予防法などについて述べてきた。今回は,少し視点を変え,環境衛生を含めた水系・経口感染症にポイントをしぼり,話題提供としたい。
 これまでにも飲料水,井戸水,河川や水浴を媒介としたいわゆる水系感染症が報告されている。特に,O157:H7やO26などの腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生菌)の感染例がいくつか報告されるようになってきた(Ackmanら,1979;Meadら,1999)。2001年,島根県では,谷川の山水の水源貯留配水タンクからのO26感染症が報告されている(保科ら,2001)。腸管出血性大腸菌は家畜や野生動物が保有していることも知られており,野生動物の生態系の変化とともに,山林や家畜・牧場等の周辺が汚染される可能性もある。昨今,アウトドア人気が高まり,山間部へ出かける機会も増えており,河川の源流水,上流水や湧き水を浄水・殺菌を行わずに飲料する可能性がある。

チーズの食文化

村山 重信

人が最初に口にするのは母の乳。それは誰にも教えられたことではなく本能が要求するしぐさである。その乳は,赤ちゃんのお腹の中で,一旦チーズ様の状態を作り,酵素の働きでそれを栄養として吸収し,成長の原動力となる。子の成長に欠かすことが出来ない乳は,やがて神が与えた神聖なものと考えられるようになった。人の乳と動物の乳との共通性に気づいたのは,子供を生んだ女性だったかも知れない。 
 母牛から子牛と人間の子が仲良く乳を飲んでいる姿を描いた紀元前(BC)4000頃のエジプトの壁画がそれを物語っている。古代エジプトでは男性しかファラオ(王)になれなかった。古代エジプト王朝唯一の女性の王,ハトシェプスト女王は,第18王朝トトメス1世の娘とて生まれたが,王位を正当化するために,自分は神の子だ,神様である「牛」の乳を飲めるのは神の子の証だと主張したのだ。ハトシェプスト女王葬祭殿には,美の神「牛」から直接乳を飲んでいる壁画がある。

チーズとホエイに含まれるたんぱく質の免疫科学

大谷 元

牛乳および乳製品と免疫系とのかかわりで古くから知られているものに牛乳アレルギーがある。牛乳アレルギーは未消化や部分消化された牛乳たんぱく質が腸管から吸収され,それに特異的な血清抗体が過剰に産生されることが引き金となる。例えば,IgEクラスの抗体が原因となる即時型(I型)アレルギーでは,産生された牛乳たんぱく質に対する抗体が肥満細胞表面のIgEレセプターに結合して滞留し,そのIgEに牛乳たんぱく質やその部分ペプチドが結合すると,それが刺激となり肥満細胞が脱顆粒を起こす。その結果,肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学情報伝達物質が放出され,複雑な経路を経てアトピーや喘息などの各種アレルギー症状を生じる1)。

食品の表示〜 栄養表示と健康標榜 〜

石居 昭夫

「連邦食品医薬品化粧品法」(以下,FDC法という)はパン,穀類,缶詰食品,冷凍食品,スナック,デザート,飲料などほとんどの調理食品に対して必要な事項の表示を要求しています。ただ,果実や野菜,あるいは魚介類に対する栄養素の表示は任意とされています。食品の表示(Food Labeling)は現在のFDC法の前身である「食品医薬品法」(Food and Drug Act)(1906年)の1913年の改正法によって,内容量の記載を義務づけられたのがその歴史の始まりです。その後,1938年,この法律に代わって新しく制定されたFDC法によって,加工包装食品のすべてに対してその名称,内容量,製造業者の名前と住所を表示することが要求されました。さらに,1966年に「公正包装表示法」(Fair Packaging and Labeling Act)が制定され,消費者向けの製品に対して,内容量,成分,使用注意または警告の情報を表示することが求められるようになりました。

Report ミニ商品 京風「牛のこごり」 と副生産物「やわらかすじ」の開発

和田 正汎

牛すじのほとんどは,煮込んでもなかなか軟らかくならない。我々が牛すじを酵素で反応処理すると,すじの 40 % 程は溶け,可溶性コラーゲン,ペプチド,アミノ酸などを含む「トロミ」のあるスープになった。一方溶けなかった残りは加熱による変性とそれに続く酵素の働きを受けて噛んで噛み切ることのできる軟らかすじの開発に至ることができた。
 すじの食用化:牛すじは,腱,腱膜,筋膜の部位を構成し,その主成分はコラーゲンで,水,酸にほとんど溶けない。今日では,ほとんどの人が「すじとはアキレス腱である」と思っている。しかし,すじ肉をすじと呼んで販売している精肉店さんも一部にはあるようだ。中国では,古くから牛,豚,鹿などのすじを煮こごりにして賞味している。一方,日本では「凝魚」( こごり ) 或いは「煮凝魚」( にこごり ) というと,冬魚の煮汁が凝固したものを指すことが多い。

随想:アンダマン海のエソ類の活用

岡 弘康

ミャンマーは昔のビルマのことで,首都はヤンゴン(昔のラングーン)である。人口は1997年で4640万人で,その内 2/3がビルマ人で,他は少数民族である。国の面積は678万Km2(日本の1,8倍)である。民族はビルマ,シャン,カレヤー,チン,カレン,リス族等20ほどの民族に分布しており,今でも,写真1のように,それぞれの民族踊りが残されている(金色の船のレストランで見られる)。以前はイギリスの植民地であり,そのためか,街はパコダを中心に栄え,インド人街,中国人街等があるが,かなり整然としており,緑が多いような気がした。しかし,電力,郵便事情が悪く,再々停電するし,先に人が日本に着いているのに手紙や絵ハガキがまだ着いていないケースが多いようである。何年か後に見つかる場合もあるとか。

伝える心・伝えられたもの —木簡 —

宮尾 茂雄

2007年11月,穏やかに晴れた秋の奈良(写真1,2)で天平時代の2種類の木簡と出会った。一つは第59回「正倉院展」に展示されていた木簡(木牌(木札)),もう一つは奈良文化財研究所平城宮跡資料館で開かれていた「地下の正倉院展—平城宮木簡の世界」に展示されていた木簡である。平城京木簡の発見は,1961年1月から2月にかけて,SK219土壙から出土した41点が最初であり,各地から平城宮に送られた租税の荷札,宮廷内の物品整理の付札,文書,木簡を削った屑などであった。中国では紙が発明される以前,竹や木が文字を記す素材として用いられ,竹簡,木簡などと呼ばれていた。

築地市場の魚たち 魚以外の水産物の旬(秋,冬)

山田 和彦

アサリ 二枚貝では,旬が春と秋の2回あるものがある。アサリやトリガイである。産卵後に栄養を回復するためと考えられる。場内には貝を専門に扱っている仲卸が何軒かある。その中に,かつて東京湾沿岸で漁獲された貝を加工していた,という方が何人かおられた。その方の話を聞いていると,東京湾が埋め立てられ貝が採れなくなったのも,それほど昔のこととは思えなかった。料理研究家の方から,最近,昔のレシピでアサリ料理を作ると塩辛くなる,と聞かされたことがある。考えてみたところ,アサリは網に入れて水に漬けずに出荷されていたが,最近,海水に入れパックしたものが出回るようになった。網に入れられ長時間置かれたものは海水が抜けているが,海水パックのアサリは,料理中にも殻の中に海水を抱えていると思われる。その分,塩加減が多くなっている可能性がある。

中国食品通信

馬 桂 華

中国食品日報によると,最近,山東農業大学の姜遠茂教授らにより完成された「甘味サクランボの改良技術と普及」に関する成果が技術成果鑑定委員会での審査を通過したことを報じた。鑑定委員会の専門家は,この成果は国際的にも世界水準に達している内容であることを報告している。これらの成果は知的財産権を有する早熟,優良質の甘味サクランボである新品種の岱紅や粘着土壌にも適合する砧木である滕州紅?から選択し,育成した山東甘味サクランボ品種と砧木資源を拡大させたことにある。また,この成果により,山東,?西省の都市でモデル基地が建設され,32万畝(ムー:中国の面積の単位で,1 畝=6.67a(アール))まで栽培面積が拡大された。また,この結果,果物栽培農家の収入は,6.2億元増加し,目覚しい経済と社会効果と利益を上げたことを報じている。

連載エッセイ 楊枝の歴史と文化(11) 狩猟民族と農耕民族

稲葉 修

さて,我が国や中東の「つまようじ」が宗教に深く関わったのに比べ,ヨーロッパの「つまようじ」の歴史となると食生活の関係で多くは金属の「つまようじ」が使われていた。
 農耕民族はその食物の性質上,歯の表面の汚れを取るのに木や竹を用い,狭い歯間部には麦わらや葦を使い,その素材は植物を中心にしたものである。今も中東では乾燥した葦の穂先がつまようじとして使われている。花を支える丸くて細い軸を一本ずつ折って用いるのである。一本の太さは約1〜 1.5mm,長さは5cmから大きいものになると8cmにもなる。レストラン等ではこれをグラスに入れ,各自が自由につかえるようになっているがまるでドライフラワーのようである。他に広く使われたものにバラの刺やサイカチ(豆科)の針がある。これらは手を加えなくてもそのままで立派なつまようじである。

連載 薬膳の知恵 (24)

荒 勝俊

臓器とは体内におさまっている内臓を指し,これらは中医学においてはそれぞれが持つ生理的機能的特長によって“臓”“腑”“奇恒の腑”の3つに分類されている。“臓”は五臓を指し,これには肝・心・脾・肺・腎がある。腑は六腑を指し,胆・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦がある。また“奇恒の腑”は,脳・髄・骨・脈・女子胞がある。
 臓腑はこれまでに述べてきた様に,五臓および六腑の間の各種生理機能は,相互依存・相互制約の関係にあり,それぞれが協調しあってバランスを保っている(臓象学説)。こうした臓腑の生理機能のバランスが崩れる事で障害が起こり,疾病を引き起こす。
 今回紹介する臓腑弁証法は,中医学における陰陽五行学説や臓象学説の理論から各臓腑における病変を分析し症候を弁証する方法である。臓腑弁証は,臨床上きわめ実用性が高く,弁証体系の中でも重要な位置づけがなされている。本弁証法は,大きく“肝・胆病弁証” ,“心・小腸病弁証”,“脾・胃病弁証” ,“肺・大腸病弁証”,“腎・膀胱病弁証”の五つに大別され,今回はその中で“肺・大腸病弁証”に関して述べる。