New Food Industry 2008年 2月号

おからドーナツの嗜好性と血糖値上昇抑制効果

舩津 保浩、石下 真人、眞船 直、西尾 由紀夫、上馬塲 和夫

平成18年度総務省の「家計調査」でみると,豆腐の1世帯当たり平均の年間購入数量は,72丁,購入支出金額は6千4百円強となっており,豆腐は食材の豊富多様化の中で,依然多くの支持を得ている食品の一つである1)。しかし,豆腐の製造工程で豆乳を分離する際に副産物として排出される「大豆おから」(以下,おからと略す)の量は年間70万トンを越え,廃棄による経済負担や環境汚染も懸念されている2) 。一方,おからには原料である大豆が含有するタンパク質の他に,ビタミンや無機質のような成分や大豆イソフラボン等の機能性成分も残存していることが報告されている3)。なかでも100gあたりの食物繊維量は豊富であること4)から,最近では健康食品として「おからクッキーやおからパン」等の大豆おから含有食品も市販されるようになってきた。

コーヒーの健康効果,良い情報

藤田 哲

即席コーヒーなどを含めたコーヒーの国内消費は,過去30年間に5倍に増加し,2006年には原料の生豆換算で約46万トンになった。国民一人当たりでは年間約3.6 kgの消費であり,この量はEU の4.8 kgの75%,アメリカの4.2 kgの86%であって,欧米の消費水準に近づいている。緑茶と紅茶の国内消費の合計は約15万トン,一人当たり約1.2 kgで,ほぼ600杯分に相当する。3.6 kgのコーヒーはほぼ450杯であるから,コーヒーは嗜好品としてすっかり定着したといえよう。「コーヒーと健康」の問題に関しては,過去30年間以上にわたって,多くの研究が行われ多数のデータベースが蓄積された。これらによって,コーヒー飲用の利点とリスクに関する十分な検討が可能になっている。コーヒーは広く飲用される故に,コーヒーとカフェインの健康リスクには,数千もの研究があり,数多くの論争を生んできた。毒性については,くどいほどの動物試験と,人の疾病との関連が調べられた。

日本の食料事情 今こそ食育が必要である

橋本 直樹

「食育」という啓蒙活動への関心が高まっている。最近の十年において,飽食や欠食など食生活の乱れがひどくなって生活習慣病が蔓延し始め,一方では食品の安全性に対する不安が急速に高まり,また食料自給率が40%まで低下して,国家の食料需給がにわかに心配になってきた。だから,輸入食料に頼りすぎずに国内農業をもっと重視し,安全な食料を選ぶ知恵を学び,食料を大切にしてバランスのよい食生活をして健康に過ごすようにする「食の教育」が必要になっている。そこで,2005年,食育基本法が制定された。この基本法によれば,食育とは「健全な食生活を実践することができる人間を育てる」ことであり,学校における知育,徳育,体育の基礎として生きるための基本になるものと位置付けられている。

ダイエタリーサプリメントのGMP(製造基準)

石居 昭夫

2007年6月22日,FDAはダイエタリーサプリメント(健康補助食品)に対して「製造基準」,いわゆるGMP(current Good Manufacturing Practice)を定める最終的な規則(21 CFR 111)を確立したことを公表しました。この規則は,ダイエタリーサプリメントが品質管理のもとに製造され,汚染物資や不純物が含まれず,かつ正確に表示されることを意図しています。米国では世界に先駆けて1900年代後半頃から食品に対するGMP規則を施行してきました。この食品GMP規則は食品の製造や加工において業者が順守しなければならない従業員,建物,機械,器具など製造や加工プロセスに関連する作業や設備に対する一般的な基準を定めています。しかし,ダイエタリーサプリメントは食品の範囲に入りますが,これまで特にGMPに関して規定はありませんでした。今回公示されたダイエタリーサプリメントに対するGMP規則は食品の場合と同様に,ダイエタリーサプリメントの製造,包装,表示,それに貯蔵において品質保証に必要な一般的な基準を定めたものです。それは品質管理手順の設定,製造設備の設計と建設,成分と最終製品の検査などに対して必要な事項を規定しています。

モッツアレラチーズ

橋本 英夫

モッツアレラチーズは製造方法による分類では,パスタフィラータ(pasta-filata)チーズのカテゴリーに入る。この種類のチーズはイタリアからギリシャ,バルカン,トルコの地中海北部一帯が起源で,使用される乳は牛,羊,ヤギや水牛と多様である。モッツアレラ(Mozzarella)という語の由来は「引きちぎる」を意味するイタリア語mozzareに由来する説やR. ANDREOLI著の「ナポリ-イタリア語語彙集」によると水牛の乳で作られたチーズのモッツァMozzaから派生したとの説もある。歴史のあるイタリア独特のチーズの一つである。このチーズは純白で薄い表皮を持ち,中身も純白で柔らかい弾力性のあるボディーで水分含有量が高く,滑らかなで緻密な組織を持っていて,食すとほど良い塩味でクリーミーな風味を持ち,穏やかで癖のないものである。このチーズは他のチーズと異なる二つの特徴を有する。

チーズホエイとその成分別調製技術

元島 英雅、野畠 一晃

現在,日本では38,214トン(2005年)のナチュラルチーズが生産されている。その内訳は,ゴーダ(14,758トン),チェダー(11,259トン),カマンベール(4,133トン),モッツァレラ(1,512トン),マスカルポーネ(1,136トン),クリームチーズ(860トン),カッテージ(824トン)などとなっている(日本乳業年鑑,2007年版)。これらのチーズ生産にともなって,ホエイが相当量発生するが,国内大手メーカーのホエイのほとんどはホエイパウダーに加工されていると考えられる。最近,国産ナチュラルチーズ増産の機運が高まり,ホエイの処理に関して再び関心が集まっている。海外においては,ホエイの優れた栄養特性と生理学上の価値が見直されてきたこと,工業的な分離技術が発達したことから,チーズホエイを単にホエイパウダーにするのではなく,成分ごとに分画して製品化されるようになってきている。しかし,世界的に見ると,かなりのホエイがまだ利用されずに廃棄されていると推定されている。ホエイをどのように処理するかは,チーズ工場自体の経済性に直結していることから[R. H. Peters: Int. Dairy J. 15, 537-545, (2005)],本邦においても,工場の規模に合わせた合理的な処理が必要である。そのような観点に立って,本稿では,ホエイの成分別調製技術について概略を述べる。

世界のチーズの生産・輸出入及び消費

伊藤 晋治

現在,世界各国でチーズが生産されているが,全世界の2005年の生産量は約1540万トンといわれており,前年に対し,102%増となっている。また,2000年対比では110%と大きく伸びている。(表1)そのうち約50%がEU諸国(25国)であり,次いで北米が約30%,ロシアを含む東欧諸国が6%,南米が6%,オセアニアが4%の順となっている。国別ではアメリカが抜群の414万トンで世界の27%を占めている。
 蓄種別生乳生産量(2005年 表2)では牛乳が84.0%,水牛乳が12.4%,山羊乳が2.0%,羊乳が1.4%及びその他が0.4%となっているが,特に水牛乳は約50%がインドでパキスタン,エジプト,イタリアの順となっている。したがって水牛乳のチーズはインド,イタリアなどで生産され,また,山羊乳のチーズはフランス,イタリア,オーストリア,等で生産され,そして羊乳のチーズはフランス,イタリア,スペイン,キプロス等で生産されている。

築地市場の魚たち 魚の歳時記 −秋−

山田 和彦

夏が終わると日差しが和らぎ,大都会の中にある築地にも赤トンボが舞う。新橋の高層ビル群を染める夕日も,赤みを増してくる。隅田川を渡る風は涼しさを増し,夏ばてで衰えた胃袋は復活し,魚貝類が美味しくなってくる。食欲の秋である。秋はまた,台風の季節でもある。東京では近年,大規模な台風災害といったものはないが,築地市場では台風の動きが少なからず影響することがある。内陸にある都会に比べると,沿岸部での台風の威力は強大である。2007年の9月に関東地方を直撃した台風9号では,相模湾沿岸に長時間大きな波が押し寄せて,西湘バイパスが崩落した。当然,漁業にも大きな影響があり,漁船の退避や網の引き上げなど,台風通過の前後,数日間にわたって漁ができないこともある。台風のコースによっても異なるが,日本列島縦断などということになれば,築地市場に入荷する魚が大幅に減少してしまう。

連載 薬膳の知恵 (21)

荒 勝俊

臓とは体内に納まっている内臓を指し,これらは中医学においてはそれぞれが持つ生理的・機能的特長によって“臓”,“腑”,“奇恒の腑”の3つに分類されている。臓は五臓を指し,これには肝・心・脾・肺・腎がある。腑は六腑を指し,胆・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦がある。また“奇恒の腑”は,脳・髄・骨・脈・女子胞がある。臓腑はこれまでに述べてきた様に,五臓および六腑の間の各種生理機能は,相互依存・相互制約の関係にあり,それぞれが協調しあってバランスを保っている(臓象学説)。こうした臓腑の生理機能のバランスが崩れる事で障害が起こり,疾病を引き起こす。今回紹介する臓腑弁証法は,中医学における陰陽五行学説や臓象学説の理論から各臓腑における病変を分析し症候を弁証する方法である。

中国食品通信(18)

馬 桂 華

山西省で製造されている醸造酢は古い歴史を有しているものが多い。特に老陳酢は香味,酸味,甘味などのバランスが良く,中国四大伝統酢の中で最も風味が良いとされており,多くの消費者に好まれている。現在,山西省には醸造酢のメーカーが約500企業あり,酢の生産量は30万トンに達している。全国の食酢製造量が300万トンであることから,山西省で1/10を占めることになる。現在,山西省老陳酢は通常の液体酢だけでなくカプセル酢,燻製酢,酢内服液,酢飲料などの製品を製造しており,新たに開発された保健食品として消費者に供給されている。山西省老陳酢を筆頭に,山西省の伝統的な特産酢メーカーを加えた組織経営方式で全国の大都市でチェーン店を開設している。このグループは山西省に4つの農産加工場と物流配送基地を建設している。

連載エッセイ 楊枝の歴史と文化(8) -両方尖った丸い楊枝-

稲葉 修

わが国で通常使われている「丸いようじ」は,欧米ではカクテルピックと呼び料理に用いたり,食べ物を突き刺すのに使うのである。 そのため,どちらでも使えるように両方尖っている。長さも67mmあり,我が国の60mmに比べ長い。更に長い80mmの「両先ようじ」もよく使われる。また,お皿の上や卓上をよりきれいに飾るために,食用色素で全体を染めたカラフルな「パーティピック」も,アメリカ・カナダではよく使われる。「丸いようじ」で片方しか尖ってないのは我が国だけである。
 また,丸いようじを歯の清掃に使っているのも先進国では日本だけである。お皿に盛られたスナックやカナッペの一つ一つに刺し,まるで全体が紅葉の林のようになる。箸を使う我が国との「つまようじ」の使い方の違いを強く感じる。