New Food Industry 2007年 3月号

α-リポ酸の脂質代謝関連遺伝子に与える影響

金森 拓也、下田 博司

α-リポ酸(チオクト酸)1) は,2004年6月に加工食品への使用が許可された含硫黄脂肪酸で2), 今日までサプリメント製剤や清涼飲料水を中心に,加工食品への配合が進んでいる。従来α -リポ酸は,重度の糖尿病患者に対して,末梢神経障害の疼痛緩和を目的に注射剤として使用されてきた。また近年の研究では,抗肥満作用や3, 4),肝臓5)や筋肉6)における糖産生抑制作用が明らかにされている。著者らも,α -リポ酸の機能性を調べるため,各種評価系を用いて抗肥満作用及び美容機能の検討を行った結果,これまでに筋肉細胞増殖作用,脂肪細胞における脂肪蓄積抑制作用,メラニン生成抑制作用,線維芽細胞増殖作用および皮膚細胞のターンオーバー促進作用を見出している7-9)。

α-リポ酸γ-シクロデキストリン包接体のバイオアベイラビリティ

内田 典芳、諏訪 桃子、浦野 明人、岡田 利孝

α-リポ酸は,1940年代の中頃に微生物の成長促進因子として発見され,1951年Reedらが,ウシ肝臓から単離してα-リポ酸と命名された1)。それ以来現在に至るまで様々な研究がなされ,抗酸化作用2-12)及びこれに基づく美容効果13-21),抗糖尿病作用12,22-29),抗肥満作用 13,30-32),重金属毒性軽減作用33-38)など様々な生理学的役割が見いだされた。詳細については多くの論文が発表されているので参照されたい。

α-リポ酸投与によるエネルギー産生促進効果

八木 可奈子、高下 崇、野崎 勉、松尾 達博

近年,生活習慣病やメタボリックシンドロームを発症する人が増えており,その予防意識の高まりから,スポーツ選手のみならず一般の人々も積極的に運動を行うことが多くなっている。スポーツ選手が,成績の向上を図るために日々厳しいトレーニングを行っている一方で,一般の人々においてはダイエットを中心とする健康づくりや美容が大きな目的である。このような状況下で,スポーツ選手の持久力向上や疲労軽減をサポートし,さらに,一般の人々のダイエットを効率よくサポートするようなサプリメントの需要が高まっている。

α-リポ酸が遺伝子発現に与える影響

生城 真、鎌倉 昌樹、榊 利之、上山 勉

α-リポ酸(図1)は生命維持のために必要とされるため,体内で生合成される物質であり,大部分の原核細胞および真核細胞中に存在する。生体ではごく微量にしか合成されずその濃度は極めて低いが,通常の状態では欠乏することはない。しかし,この濃度は加齢とともに低下すると言われている。代替発生源として食事からも摂取可能であり,主に動物性製品,特に心臓,腎臓,肝臓および脳など代謝的に活動性の高い組織中に比較的多くのα-リポ酸が認められている。

α-リポ酸の放射線防護作用

安西 和紀、Kailash Manda、上野 恵美、盛武 敬

α-リポ酸は生体内に存在する補酵素で,α-ケト酸デヒドロゲナーゼ反応で重要な役割を果たしている1)。一方,α-リポ酸が抗酸化作用を有することが知られている1)。α-リポ酸あるいはその還元体であるジヒドロリポ酸は多くの活性酸素種を水相と脂質相の両方で消去したり,遷移金属をキレートしたり,ビタミンCやグルタチオンと協同して脂質過酸化やタンパク質傷害を防ぐ。このように,α-リポ酸の抗酸化作用は比較的よく調べられているが,放射線防護作用についてはほとんど研究されていない。

α-リポ酸による生体内有害ミネラル排泄の臨床的検討

大森 隆史、井上 俊忠、山崎 政一

20世紀中頃から,日本の高度成長に伴って種々の化学物質が充分な処理をされずに自然環境中に放出され,様々な健康障害を引き起こした。水俣病,イタイイタイ病を始とする公害病がその最たるものとして知られている。問題発生時から原因究明が積極的に行われ,水俣病に対しては無機水銀から変化したメチル水銀,イタイイタイ病に対してはカドミウムなどの有害ミネラルが原因であることが明らかになった。また,同時期に発生したカネミ油症事件では,熱媒体として使用されたPCBなどの有機塩素化合物が原因として明らかになり,その後,ダイオキシン類の有害性が広く知られることになった。

ヘムオキシゲナーゼ発現に及ぼすリポ酸ならびにチオペンタールの影響

中原萌生子、赤塚 大輔、阿部 文明、田口 瑠美、西田 浩志、小西 徹也、松郷 誠一

1937年にPotato Growth Factorとしての報告1)から10年以上経過した 1951年,Reedらにより中性の水には難溶性のα-リポ酸(R-(+)-α-LA)が精製分離された2)。α-リポ酸(LA)はヨーロッパでは糖尿病の治療薬として長い間用いられてきたが,心筋梗塞3)や虚血再灌流傷害4),放射線による傷害5)にも防御効果があるというin vitroやin vivoでの研究が多数報告されている。例えば,組織の虚血再灌流時には,虚血組織への血流の再開(再灌流)に伴い供給される酸素から大量のスーパーオキサイド(O2-)が生じる。O2-それ自身の組織傷害性は低いが,再灌流時にカルシウムチャンネルを介した細胞内へのカルシウム流入で活性化されたNO合成酵素により産生される多量のNOと反応して生じるパーオキシナイトライト(ONOO-)は非常に化学反応性が強く,組織傷害性も高い。

皮膚の炎症発生過程におけるリポ酸の働き〜抗酸化剤として,シグナル調節因子として〜

尾藤 利憲

自然環境の破壊,超高齢化社会など,人類は過去経験したことのない領域へと足を踏み入れつつある。その領域において身に降り掛かるであろう様々なストレスに対抗するには,本来人間に備わっている自己防衛能力だけではあまりにも心もとないことが想像される。それゆえ,人類は叡智を集めて対抗手段を開発している。その中でもいわゆる健康食品は大多数が比較的簡便に利用できる防衛手段として太古から研究が重ねられてきている。近代にいたる迄,多くの健康食品は経験則に基づき重用されてきたが,20世紀に入り,科学の急速な進歩のお蔭で分子生物学的な機構が明らかになり,ブラックボックス的なものであったその作用機序が解明されつつある。それとともに健康食品の有効性は必然的により厳しい目にさらされることになった。

FDA食品行政の話(6)人工甘味料の変遷

石居 昭夫

甘味料は,通常,カロリーをもつ栄養甘味料とカロリーをもたない非栄養甘味料(Non-calorie Sweetener)とに分けることができます。栄養甘味料は砂糖,ブドウ糖,果糖のような高カロリー甘味料を,そして,非栄養甘味料はサッカリンやアスパルテームのようにノンカロリーまたは低カロリーの甘味料を意味します。栄養甘味料の多くは天然由来の物質ですが,非栄養甘味料は化学的に合成される人工甘味料(または合成甘味料)(Artificial Sweetener)がほとんどです。しかし,たとえば,南米産の潅木から得られるステビアのように天然産の甘味料でもノンカロリーのものがあるので,必ずしも非栄養甘味料=人工甘味料ではありません。ステビアは,安全性を疑問視する研究発表があること,そして,甘味料としての使用承認を求める申請書が提出されていないこと,この2つの理由によって,米国では食品添加物としての使用を承認されていません。

薬膳の知恵 (10)

荒 勝俊

“薬膳”には,「食材によって病気になる前に体のバランスの崩れを正す」といった予防薬(食養)の働きと,「食材が持つ薬効で疾病の治療を行う」といった治療薬(食療)の両面を併せ持つ。我々の肉体は臓腑,経絡など多くの組織や器官から構成される有機的に統一された整体である。体内の臓器は体表部の五官や手足の筋肉や骨などとお互いに緊密に関係しており,疾病の性質や発病のメカニズムをしっかりと捕らえる事(弁証)ができれば,それに対応した薬膳処方(論治)を組む事ができる。特に,臓と臓や腑との相互依存や相互制約,生理上,病理上の関係などを熟知する事で,薬膳素材の選定において重要な答えを導き出してくれるのである。今回は臓腑と臓腑の関係に関してその機能を述べる。

中国食品通信 ◆トウモロコシの国際貿易は引き続き拡大

馬 桂 華

中国食品日報によると海南省では,日本の“肯定列表制度” (ポジティブリスト制度)に対し十分な対応を行ってきたことから,水産物の輸出は安定的に増加していることを伝えている。海南省の輸出入検査検疫局は,日本が“肯定列表制度”を実施することに対応し,以前に増して輸出検査検疫業務を強化するとともに食品輸出企業に対する管理と改善を進めてきた。
 さらに検査作業員に対する指導育成に力を入れ,検査作業員の検査能力を高めてきた。そのような対応策を取ることによって,輸出食品に対して品質保証を与えた結果,日本に輸出する農水産物の品質を確保することが可能となった。7月末までで海南貿易港より輸出された水産物は125回,1189.75tに上り,金額としては746.31万ドルのものが検査に合格し,順調に日本に輸出された。

FDA食品行政の話(6)人工甘味料の変遷

尾藤 利憲

自然環境の破壊,超高齢化社会など,人類は過去経験したことのない領域へと足を踏み入れつつある。その領域において身に降り掛かるであろう様々なストレスに対抗するには,本来人間に備わっている自己防衛能力だけではあまりにも心もとないことが想像される。それゆえ,人類は叡智を集めて対抗手段を開発している。その中でもいわゆる健康食品は大多数が比較的簡便に利用できる防衛手段として太古から研究が重ねられてきている。近代にいたる迄,多くの健康食品は経験則に基づき重用されてきたが,20世紀に入り,科学の急速な進歩のお蔭で分子生物学的な機構が明らかになり,ブラックボックス的なものであったその作用機序が解明されつつある。それとともに健康食品の有効性は必然的により厳しい目にさらされることになった。