管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化

管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化 2015年

第1回 おせち料理(1月号掲載)

 新しい年を迎え、皆様はどんなお正月を過ごされましたでしょうか?
お正月といえばおせち料理です。おせち料理は、もともと節日(節句)に作られる料理のことでした。節句の一番目が正月であることから正月料理を指すようになったといわれています。
 地方により多少の違いはありますが、祝い肴、煮しめ、酢の物、焼き物など多種にわたる食材が使われています。そしてそれぞれの材料に願いを込めた楽しい由緒・いわれがあり日本の食・行事・しきたりの奥深さを感じずにはいられません。

 ところが、最近では自宅で手作りおせちは減少傾向だとか・・・・・・
今年はどこのおせちを注文する?ともっぱら外食産業の目玉商品化やデパート、料理店ではまだ秋だというのに早期予約にヒートアップ商戦。とにかくおせち料理は購入するものという家庭が増えました。「高価な割にはそんなに食べるものないよね〜」との声も良く聞かれます。あなたのお宅ではいかがですか?食卓の飾り物になっていませんか?もしそうだとしたらとてももったいない話です。
 私は手作りマイおせち派、自分の好みの味付けで楽しんでいます。海の幸・山の幸と何十種類という豊富な食材を、ほとんど油を使わずに調理する料理っておせちをおいてほかにはありません。そうなんです。世界無形文化遺産に登録されたほどの優れものの“和食”。おせちはヘルシー料理の代表選手なのです。
 おせち料理の食材は、肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧対策にとても心強い味方です。たとえば煮しめの材料の蓮根・牛蒡・ゆりね・人参・くわいをはじめとする根菜類は血糖値の急激な上昇を抑える食物繊維豊富な食材です。さらに、黒豆は抗酸化作用をもつカロチノイド系色素アントシアニンを、有頭海老はアスタキサンチンという色素を豊富に含みます。これらの色素は血液をサラサラにし高脂血症改善に役立ちます。ごまめ(田作り)はカルシウムたっぷりですし、数の子には多価不飽和脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれており、体内でのコレステロールの合成を抑え体外への排出を速める作用があります。食べ過ぎ飲みすぎで胃が疲れたら消化酵素ジャスターゼいっぱいの大根なますの出番。デザートには甘み控え目のきんとん。大変ヘルシーなフルコースです。市販のものは早めに作り置きするため濃い味付けですが、自分の調理なら好みの薄味に仕立てることができます。匙加減は自由自在です。でも作るのが大変といわれる方、あまりむつかしく考えず出来るものから、そう、簡単な煮しめからでも始めましょう。経費も節約できますよ。

 大晦日には美味しい匂いと湯気の立つキッチンで、無事に家族の料理を作れる平穏に感謝し、明けて元旦には未来への希望と幸せを祈りながら美しく飾られたお重に祝い箸をつける・・・・・・穏やかでやさしい家庭の食卓文化です。
 今年一年、お重箱のように皆様の幸せをかさねていけますように。


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第2回 きれいな身体づくり(3月号掲載)

  そろそろ春を感じる季節になってきました。私は毎年この時期になると,桜色のスカーフやブラウスで少し早めに季節を先取りして楽しみます。気持が華やいで女性に生まれてよかったなと感じる瞬間です。ビジネス街では男性の颯爽としたスーツ姿も目にする季節です。男性のさりげないシャツ姿も私は大好きです。でも重い上着を脱ぐと・・そう,やっぱり体型が気になってしまいますよね。
 最近は男性,女性にかかわらず多数の人から痩せたいけれど長続きしないと相談されます。話を聞いてみると,無理して極端なダイエット法を試みている人が意外と多いのです。また,リバウンドをしてしまう悩みも良く聞きます。みなさんダイエットに関する知識はたくさんあるはずなのですが,情報が多すぎて混乱しているのかもしれませんね。
 そこで,今回はきれいな身体づくりのために,無理のない私の簡単な実践ダイエット方法をいくつかご紹介しましょう。
 まず食事の量ですが,いつもの量より少しだけ減らして3食はきっちり食べてください。食事をまるまる一食抜いてしまうと体が飢餓状態になりカロリーの吸収率が高くなってしまうため逆に太ってしまいます。激しい空腹感に襲われることなく,一日のカロリー摂取量を減らし,徐々に少量でも満足できる胃に変化させていきましょう。食べる順番も大切。食事の際,まず最初に野菜や海草,きのこ類をたっぷり食べましょう。生野菜や煮物,サラダのほかに糖代謝を高める酢の物などがおすすめです。次にお肉やお魚などのたんぱく質を摂ります。血糖値を急上昇させる米やパン,麺類などは最後に食べるようにします。野菜やおかずを先に食べることで炭水化物の量も減らせるはずです。
 早食いは食べ過ぎのもと。一口ずつよく噛んでゆっくりと食べてください。脳に“意識をさせて”「今,私はおいしい食事を食べてるんだよ~」と言い聞かせながら食べるのです。満腹や空腹を感じる中枢は間脳視床下部にあります。「満腹になってきたよ~」と,脳が早めに信号を出し,食べ過ぎを防いでくれます。
 さらに,腸内環境を整えることも大切です。乳酸菌やビフィズス菌を多く含む発酵食品はおすすめです。納豆やヨーグルト,チーズは根気よく食べ続けていきましょう。ヨーグルトはデザートや間食にも最適です。
カロリーコントロールは一日単位ではなく2~3日単位で行い,神経質になり過ぎずに今日は食べ過ぎたから明日はちょっと控え目にしようぐらいが丁度いいのです。「いい加減が良い加減」というのがダイエットを長続きさせるポイントです。 
 いうまでもなく運動は必須ですが,肝心なのはカロリーのインプットとアウトプットの収支バランスです。摂取したカロリーはしっかり消費しなければいけません。美しく引き締まったbodyを作るためには有酸素運動。ウォーキングや軽いジョギング,水泳,ダンスなどは最高です。時間がない方はストレッチや,ウエスト回転運動だけでも毎日行いたいものです。
 最後にお薦めは生野菜ジュース,ビタミン類を豊富に摂取できるので皮膚粘膜が強くなり張りのある美肌が保てます。ただ痩せるだけのダイエットではなく,健康で美しく引き締まったbody作りを目指しましょう。
 さあ,ご一緒にMake beautiful body !!


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第3回 口腔環境と食事(5月号掲載)

 五月,二十四節気ではもう立夏となります。そしてゴールデンウイークは楽しい休暇のはずですが何かと行事の多い月でもあり,あっという間に終わってしまいます。
 つい先頃,娘が結婚し,マザーブルーとでもいうのでしょうか,少し感傷的に子育てに関連した行事をあれこれ思い出していました。子供の日,お誕生日会,入学・卒業式,運動会,遠足,発表会,そして成人式などなど。こうした行事には祝膳やお弁当が欠かせませんでした。我が家にとって大イベントだった娘の結婚披露宴では,いっぱい泣かせてもらったおかげでせっかくのシェフの祝膳はほとんど食べられませんでした。それでも結婚式前夜には母として精一杯のささやかな祝膳を用意しました。娘の好物ばかりをたくさん食卓に並べ,バラバラで妙な献立ではありましたが母の気持ちを祝膳に込めたのです。

 私ごとの話しが長くなってしまいましたが,今回のテーマでもある口腔環境について,私はひと月に1度,口腔ケアに通っています。以前,歯医者さんは正直嫌いでした。あのキーンという音と,そして何よりも口を大きくあけるという自分の姿が何とも私の美学にそぐわず間抜けに思えて嫌でした。結果,虫歯は悪化して文字通り痛い思いをしたのです。その時から美学を改め,真面目に定期的ケアを受けています。ずっと避けていた歯医者さんでしたが,口腔ケアを始めてみたら思いがけないことにこれがとっても爽快なのです。歯垢除去から始まり,歯の表面磨き,どんどん口の中が爽やかになります。そして,最大のお気に入りは歯ぐきのマッサージです。普段なかなかメンテナンスができない部分に歯科衛生士さんの手技,見事なマッサージ。加齢のため少々たるんできた頬と口角がキュッと引き締まるような気分になります。脳に近いせいか頭までスーッとして目がパッチリ開くようです。歯周病予防のみならず,指導を受けたベロまわし運動で顔のたるみを直します。今ではまるでお口のエステ気分で楽しく通っています。
 食べ物にとって,口腔は大切な消化の第一通過器官です。口腔の力,つまり歯や舌,唾液,筋力のパワーはすごい! 舌上の味蕾という器官で食べ物の味を認識し,唾液の消化酵素アミラーゼでデンプンを分解,歯で咀嚼し,そして嚥下して食道へと送ります。「80才で20本の自分の歯を保って健康に」という厚労省が提唱する“8020運動”でも明らかなように,心と体の健康は正しい咀嚼からといっても過言ではありません。近年,歯周病と病気の関連については研究が進み多くのレポートがあります。口腔環境が悪いと唾液の分泌が減り,自浄作用等が衰え糖尿病発症のリスクが高まるとも言われています。唾液と歯でしっかり咀嚼し美味しく食べることで脳は活性化されます。高齢になって嚥下機能が衰えると認知症のリスクも高まると言われています。
 私自身,口腔ケアに通うまでは歯周病について何ともお粗末な意識の持ち主でした。 “歯周病は人体に有害な菌が引き起こす感染症である”ということをもっと認識する必要があります。嚥下に関わる口腔内の筋力トレーニングの必要性も高く,正しい歯磨きを始め,ベロまわし運動などにもっと関心を深めましょう。口元には老いが出やすいと言われています。日頃から自分でできることをやっておかなくちゃ,と思うこのごろです。
 みなさんも歯を大切にして,美味しいものをたくさん食べて元気に過ごしましょう。


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第4回 万葉のロマン 三輪そうめん(7月号掲載)

本格的な暑い夏の訪れと共に7月は天空で星のロマンスがあります。そう七夕様です。
 幼い頃,七夕の日の夜明け,私は眠い目をこすりながら父に連れられて稲についた朝露を盆でそっとすくい取り,その露で墨を磨り願い事を短冊に書きました。こうすると美しい文字が書けるようになると父に教わりました。濃紺の茄子で馬を作りその馬に紅いほおづきで作った人形をのせ,願い事を書いた笹飾りと一緒にお供えします。夕方,打水した庭の縁側に座り夜が更けるまで天の川を眺めながら,幼な心に星たちへの想いを馳せたものです。なつかしく鮮明に覚えている私の七夕様です。
 もうひとつ夏の風物詩といえば,涼やかなそうめんがあります。発祥の地は奈良県桜井市三輪地方といわれています。緑濃い三輪山は聖なる山として数々の物語を秘めて人々に崇められており,その三輪山を御神体とする原初の神祀りの様を伝える我が国最古の神社,大神神社が祀られています。そびえ立つ三ツ鳥居の前に立ち,清浄な空気に触れた途端,凛とした気持ちになるのは私だけではないでしょう。
 三輪山麓に湧き出る水は不老長寿の霊水といわれ,そこから流れ出る巻向川と初瀬川の二つの川を結ぶ三角形の地はミネラル豊富な良質の水を生み,伸びのよい小麦を育て,清冽な冬の気象と相まってそうめんづくりには最適の条件を備えました。奈良時代の人々はこの小麦を粉にし,縄のような細紐状に形づくって氏神である大神神社に奉納しました。これがそうめんの始まりといわれています。素材の良さに加わり,つくり手の細心の愛情と努力がまさに糸を依るように細い手延べそうめんをうみだします。作られるのは11月から3月の寒期限定。気温の低い時期は塩分の少ないこしの強い麺ができるのです。前日に工場内でこねて熟成させた麺を機(ハタ)とよばれる台にかけ長さ約2mまで少しずつ引き延ばし寒気にさらします。麺がくっつかないように長い箸で入念にさばき日差しを浴びた麺はこしが強く風味が豊かになります。
 最近では希少となった,真っ白なすだれのように引き延ばしたそうめんを寒風にさらして乾燥する天日干しの光景は三輪地方ならではの冬の風物詩です。麺作りは約二日間,三十数時間をかけ,休むことなく3月中旬まで続きます。
 冬に製造した麺は高温多湿の梅雨期を蔵の中で越すことで熟成します。これを「厄」といい,二度厄を越したものを古物(ひねもの),三度越したものを大古物(おおひねもの)といいます。日本人の主食,保存食として貴ばれてきた米も干して枯らすことで熟成させ味を深めたといいます。「ひねもの」という言葉も万葉の時代にさかのぼるこの干稲(ひいね)が語源。蔵で厄を越したそうめんはこしが強く,茹でのびしにくく,歯ごたえとのど越しが格別に違ってきます。
 普段,何気なくいただいているそうめんも,神からの授かりものとして,まさに糸を依るように作り続けられてきた歴史を感じると万葉のロマンの香りがしてきます。
 七夕の夜,今宵も星たちが幸せに輝きますよう祈りを込め,天の川に見立てた真っ白いそうめんに星型の野菜をちりばめて,夕餉のひとときを涼やかに飾りましょう。


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第5回 円熟の味わい(9月号掲載)

過日,久しぶりにピアノ演奏会にいきました。演目はラフマニノフの組曲第2番より “ロマンス”。ラフマニノフならではの詩情あふれる美しい旋律がとても魅力的な作品です。夜想曲風に奏しだされるロマンテイックな旋律が,変形,展開しながら徐々にテンポを速めクライマックスののち,ゆるやかにおだやかさをとりもどして静かに曲をとじていきます。ピアニストは,かつて私と娘がピアノの指導を受けていた先生でした。この作品を先生の演奏で聴くのは2度目で,初めて聴いたのは25年以上前,先生も私も若かりし頃でした。それから長い年月を経て,結婚をされ母となられた現在,先生は演奏家として円熟した旋律を奏でておられました。それはまるで先生のしなやかな人生の積み重ねの調べにも聴こえ,25年前のラフマニノフとはひと味もふた味も違う作品に仕上がっていました。聴き手である私の胸に迫る音色も以前とは大きく変化していることが静かなる驚きでした。
 しなやかに時を重ねる“円熟”。食の文化では幾重にも季を重ね伝えられた歴史の味,これこそ熟成であり深い味わいの原点です。熟成の食文化は数え切れないほどありますが,今回は日本酒について,なかでも奈良酒のことを少しご紹介します。
 奈良は清酒発祥の地といわれています。菩提山正暦寺,現在ではひっそりと山里に溶け込むようにある寺ですが,室町時代の最盛期には多くの塔頭が建ち並ぶ大寺院であったそうです。この正暦寺で大量の僧坊酒が造られていたといいます。長い間,濁り酒でしたが室町時代に清酒が造られ,この上が無い「無上酒」とまで呼ばれました。
 菩提酛(ぼだいもと)とよばれる酒母は奈良盆地の米,菩提山川の清らかで豊かな水によって生まれました。仕込みを3回にわけて行う「三段仕込み」や麹と掛米の両方に白米を使う「諸白(もろはく)」造りも行われおり,さらには腐敗を防ぐための火入れ作業も行われていました。フランスの細菌学者パスツールがワインの殺菌方法を発見する300年も前に,醸造法の基本となる酒造技術が確立されていたというのはまさに驚きです。戦国時代はかなりの量が造られ武将たちは競って求めたといいます。信長や秀吉はじめ多くの武将が「南都諸白」を愛飲し,奈良正暦寺の僧房酒は天下一の酒として知られていきました。江戸幕府でも「奈良酒」は珍重され「くだり酒」として奈良から江戸へと運ばれました。近年,昔ながらの酒母造りの復活が成功し,正暦寺で毎年1月にこの菩提酛を仕込み,「菩提酛による清酒製造研究会」に所属する奈良県の蔵元9社がその酒母を持ち帰り酒造りに取り組んでいます。
 9月は二十四節季で白露です。草の葉に白い露が結ぶという意味で,夜の間に大気が冷え込み草花に朝露が宿ることから名づけられたのでしょうが,現実は残暑が厳しく,涼やかな白露を愛でるどころではありません。地球の温暖化はこの国の美しい四季にちょっといじわるをしているようですね。とはいえ,もうすぐ仲秋,高く澄みきった夜空に煌々と輝く名月の季節が訪れます。月を愛でながらお気に入りの日本酒を飲み,美しいピアノ曲をBGMに語り明かしたいものですね。


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第6回 やまとの柿あれこれ(11月号掲載)

大和の里に美しい晩秋の季節を迎える頃となりました。奈良坂にひっそりと佇む般若寺境内にコスモスが咲き乱れると,斑鳩の里,竜田川の川沿いは燃えるような紅葉で辺り一面をいよいよ美しく染めていきます。その竜田川からさらに歩を進めていくと法隆寺へと辿り着きます。飛鳥時代の姿を今に伝える世界最古の木造建築,法隆寺はこの季節には一層の趣を増します。西円堂の石段近くの紅葉はそれは見事。そして八角形の殿堂,夢殿から眺める息をのむような落日。そして茜色に染まった五重塔の遠望は切ないほど美しい秋の色彩です。

   柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺(正岡子規) 
   里古りて柿の木持たぬ家のまし(松尾芭蕉)

などと詠まれているように,古くから奈良は柿の木の里として知られています。奈良の柿は赤く色づいても昼夜の温度差があるためすぐには柔らかくなりにくく,甘みが強いといわれています。刀根早生という品種は奈良県で生まれた最近人気の柿で西吉野村や五条市,御所市で多く穫れます。昔から「柿が赤くなると医者が青くなる」といわれるほど健康食材としても優れており,ビタミンCは100g中70mg含まれ,いちごと同等,温州みかんの約2倍です。大きめの柿(150~200g)なら1個食べるだけでほぼ一日分のビタミンC必要量(成人100mg)は摂取できます。他の果物には比較的少ないビタミンAも多く含まれています。

   水飲むがごとく柿食う酔いの後(高浜虚子)

 この句のように二日酔いに効くともいわれています。ビタミンCが肝臓の働きを助け解毒を促し,さらにカリウムをはじめミネラルも多く含んでいるからでしょう。柿なますや,柿の白和えなど酒の肴の食材として理にかなっているわけですね。さらには,柿の渋み成分であるタンニンには抗菌作用があり,その特徴を活かした郷土料理が柿の葉ずし。五条や吉野地方の家々でハレの日のごちそうとして親しまれてきた伝統料理です。柿の若葉が瑞々しく育つ夏から,赤く色づく晩秋にかけて,鯖や鮭の切り身を保存性に優れた柿の葉で包み,押しずしにする手法は海のない大和の国にとって貴重な先人の知恵でした。
 人知れず山里の人々に愛されてきた,その柿の葉ずしをいちはやく日本中に紹介したのは昭和を代表する作家 谷崎潤一郎氏でした。日本の伝統美を語る有名な随筆,陰翳禮讃(いんえいらいさん)に,「柿の葉ずしには東京のにぎりずしとは違った特別の味わいがある。今年の夏はこればかり食べて暮らした」など感想を書き褒め称えています。さらには,千数百年前にはすでに平城の都で食され,江戸時代に庶民に普及したといわれる奈良漬が柿の葉すしの箸やすめとして良く合う,とも書いています。

 さて,早いもので今年も残すところあと二カ月になりました。このコラムを一月から隔月連載させていただき,何とかここまでたどり着きました。書くことの難しさとそれ以上の喜びを感じた一年でした。これからも身近な食についての話題や奈良の食文化のあれこれを発信できればと思っております。次回は新年号からまた連載をさせていただきます。


中村照子(管理栄養士 理学博士)URL : http://dr-teruko-nakamura.com/
これまでは大学で栄養学関係の教職に携わり、蚕や桑葉の栄養機能成分の研究を行う。
現在はテルコ・ニュートリションを主宰し、管理栄養士国家試験サポートや各種栄養に関するコンサルタント業を中心とした活動を行っている。
兵庫県姫路市生まれ、奈良市在住。