New Food Industry 2019年 7月号

◆総 説

植物発酵ペーストSWがマウス腸内環境に与える影響

本藤 和彦/Kazuhiko Hondou,鈴木 直子/Naoko Suzuki,山下 慎一郎/Shin-ichiro Yamashita,吉田 雄介/Yusuke Yoshida

Effects of Paste of Fermented Plant Extract SW on gut microbiota in mouse

Kazuhiko Hondou1, *, Naoko Suzuki2, Shin-ichiro Yamashita2, Yusuke Yoshida3

1Yagumo Kousan Co., Ltd., *Corresponding author., 2ORTHOMEDICO Inc., 3ACEL,Inc.

Key Words: Fermented Plant Extract, intestinal environment, dietary fiber, good bacteria, bad bacteria

Abstract
Objective
 The Paste of Fermented Plant Extract SW (PFPE-SW), obtained via the fermentation of a mixture of various fruits and vegetables, contains rich water-soluble dietary fiber. Therefore, it is expected that it is beneficial for the proper functioning of intestinal flora. In the present study, we investigated the effect of PFPE-SW on the intestinal flora in mice.

Method
 We divided 5-week-old C57BL/6JJcl mice (10 males and females each) into the PFPE-SW administration and non-administration (control) groups. The mice in administration group received oral PFPE-SW (1.06 mg/day) for 14 days; the dose was calculated based on the 3 g/60 kg/day intake in humans for 12–17 g body weight in mice. Identification and occupancy of intestinal flora in the feces of mice were measured using the Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism.

Results
 Although the effect of PFPE-SW administration on the occupancy rate of Lactobacillales was 3.456%, no statistical difference was observed between the groups. The occupancy rate of Clostridium cluster XVIII in the female administration group was 1.025% and 1.126% higher than that in the male (P = 0.046) and female (P = 0.030) control groups, respectively, whereas that of Bacteroides differed between the female administration and female control groups by –12.163% (P = 0.072).

Conclusions
 PFPE-SW administration increased the occupancy rate of the good bacteria Lactobacillales and decreased that of the bad bacteria Bacteroides in the gut of mice. These findings demonstrate that the daily intake of PFPE-SW (3 g/60 kg) may improve the intestinal environment in humans.


要 約
目的
 さまざまな果実や野菜を混合して発酵させた「植物発酵ペーストSW」は水溶性食物繊維が豊富に含まれることから,腸内細菌叢を適切な構成に整えることが期待される。そこで,本研究では,マウスを対象に「植物発酵ペーストSW」が腸内細菌叢に与える影響を調査した。

方法
 本研究には5週齢のC57BL/6J Jclマウス (雌雄各10匹) を用いた。投与群として雄雌各5匹に,「植物発酵ペーストSW」を1日1回経口投与し,14日間投与した。残りのマウスには「植物発酵ペーストSW」を与えず対照群とした。1日の投与量は,ヒト (体重60 kg) における「植物発酵ペーストSW」の摂取量を3 g/日と仮定した場合から算出し,マウス (体重12~17 g) では摂取量換算で1.06 mg/日 (1/2830量) であった。投与14日後,Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism法を用いて,マウス糞便中の腸内細菌叢の同定および占有率を算出した。

結果
 「植物発酵ペーストSW」の投与がLactobacillalesの占有率に与える効果は3.456%であったが,投与群と対照群の間に統計学的な差は認められなかった。メス投与群のClostridium cluster XVIIIの占有率はオス対照群よりも1.025%,メス対照群よりも1.126%高値であり,統計学的な有意差が認められた (それぞれP = 0.046,P = 0.030)。また,メス投与群とメス対照群との差はBacteroidesが-12.163%であり,統計学的な有意差がある傾向にあった (P = 0.072)。

結論
 「植物発酵ペーストSW」投与により善玉菌であるLactobacillalesの占有率が増加し,悪玉菌であるBacteroidesの占有率が減少する傾向が確認された。これらの結果からヒト60 kgであれば1日3 gの「植物発酵ペーストSW」を摂取することで腸内環境の改善がもたらされる可能性が示された。

Pyrroloquinoline quinone activates autophagy in tobacco BY-2 and HeLa cells

Akihiro Takahashi, Riku Matsui, Yuko Inoue-Aono, Kazuto Ikemoto, Yuji Moriyasu

Abstract
 Pyrroloquinoline quinone (PQQ) is a redox substance with a reduced form (rPQQ). The effects of PQQ on various mammalian physiological processes have been reported; however, only few reports on the rPQQ exist. Currently, we found that both PQQ and rPQQ activate autophagy, which is a degradation process of the cytoplasm in eukaryotes, in plant BY-2 and mammalian HeLa cells.

ピロロキノリンキノンはタバコ細胞BY-2とヒト細胞HeLaにおいてオートファジーを活性化する

日本語要旨
 ピロロキノリンキノン(PQQ)は還元型PQQ (rPQQ)に変化できる酸化還元可能な物質である。PQQの様々な哺乳類への生理学的効果が報告されている。しかしながら,rPQQでは報告はほとんど知られていない。ここで我々はPQQとrPQQともに植物培養細胞BY-2とヒト培養細胞HeLaにおいて真核細胞の重要な生理学的なプロセスであるオートファジーを活性化することを報告する。

リアルタイム定量PCR法を用いた食品中のクロレラの定量法の開発

氷室 沙弥香/Sayaka Himuro

要旨
 クロレラが健康食品の市場に登場したのは今から50年以上も前のことである。言い換えれば,クロレラは健康補助食品として50年にもわたって人々に愛用されてきた食品といえるだろう。クロレラは,健康食品だけでなく様々な食品の原料としても利用されている。その例の一つとして,着色が挙げられる。クロレラマイクロパウダーは鮮やかな緑色をしており,天然の着色料として利用されている。近年では,色鮮やかな緑の着色はもちろんのこと,その栄養成分にも着目し,クロレラマイクロパウダーを料理やスイーツに混ぜ提供するお店も増えている。完成したクロレラ料理にクロレラの個体がどれくらい含まれているのか,知りたくないだろうか?そこで今回,リアルタイム定量PCR法を用いてクロレラマイクロパウダーを含む食品からクロレラの量を定量することを試みた。

解 説

さとうきび抽出物の風味改善効果と退色抑制効果

神谷 朝博/Asahiro Kamiya

 さとうきびは,イネ科に属する多年草で,熱帯・亜熱帯地域で広く栽培され,日本では鹿児島県と沖縄県の南西諸島を中心に栽培されている。主に製糖用原料として畑から製糖工場へと集められ,製糖工程で蔗糖分と非蔗糖分に分けられる。この非蔗糖分には,さとうきび由来のワックス成分であるオクタコサノール1)や抗酸化物質であるポリフェノール類2)など,種々の機能性物質が含まれていることが知られており,さとうきびは多用途利用可能なバイオマス資源としての大きな可能性を持っている。
 当社では製糖工程で発生する未利用資源の有効活用ならびに高付加価値化というテーマの下,約四半世紀さとうきび中の様々な有効成分に関する研究に取り組んできた。これまでの研究により,さとうきびを原料に数種の有効成分を抽出し,その効果の違いにより「食品用(風味改善効果)」,「消臭用(消臭効果)」,「飼料用(生理機能)」の3種類の「さとうきび抽出物」を製造・販売してきた。
 最近の食品業界では,健康志向による新たな素材開発,加工技術や製造技術の進歩,低コスト化により新たな製品が次々と開発・販売され,価格や機能性だけでなく美味しさに対する消費者からの要求水準も上がってきている。美味しさの追求は他製品との差別化を図る上でも大きな課題となっており,この課題を解決する天然由来の風味改善素材として,食品用さとうきび抽出物はさまざまな食品用途に採用されてきた。本稿では,さとうきび抽出物の風味改善効果を官能評価と味認識装置である味覚センサー(㈱インテリジェントセンサーテクノロジー)を用いて評価した結果について紹介する。
 一方,美味しさの追求には見た目も重要であり,美味しそうに見える鮮やかな色の保持も商品開発における重要な課題となる。食品用さとうきび抽出物はさとうきび由来のポリフェノールを含有し,抗酸化力を持つことが確認されている3)。本稿では,さとうきび抽出物の抗酸化力による退色抑制効果についても,最新のデータを交えて紹介する。

◆研究解説

高齢者における食環境の多様化と食の持つ精神的意義
ー共食・孤食をつくりだすそれぞれの文脈とライフヒストリーからの考察ー

柏木 史菜/Fumina Kashiwagi,三好 恵真子/Emako Miyoshi

 今日,日本では急速に高齢化が進んでおり,2016年時点での男性の平均寿命は80.98歳,健康寿命は72.14歳,女性の平均寿命は87.14歳,健康寿命は74.79歳に達している。他方,これら平均寿命と健康寿命との差は,日常生活に何らかの制限がある期間を意味するため,我が国では健康寿命を延伸し,「いきいきと健康のまま長生きする」ことが課題とされている*1。ただし,何の疾病もなく生活できることは理想的であるものの,病気などと付き合いながらも生きがいを持って生活することにもっと目を向けていく必要があるのではないだろうか。日野原は,「老化」というのは生物学的な概念で,生物として避けられない衰弱であり,これは大自然の大きな原則で,生き物にはすべてこの原則がある一方で,「老い」は「人間的概念」と位置づけ,両者には差異があることを指摘した1)。つまり,健康とは,数値に安心することではなく,自分が「健康だ」と感じること2)とされており,病を抱えて生活する期間であってもいかに楽しく人生を最後まで全うするかが問われているのである。
 さらに,加齢とともに失うものが多い高齢者にとって,食や排泄といった日常の当り前ともいえる生活場面で味わう「生きている実感」は,たとえ一瞬でもその人の生を生き生きと支えるものである3)と報告されているように,老いに向き合う高齢者にとって,「食べること」は身体的な栄養以外にも様々な意義を持つことが示唆される。筆者らのパーソナルな経験であるが,家族の暮らす高齢者住宅を訪れた際,他者と食事を共にすることができる開放的な空間があるにも関わらず,個室にて独りで食事をとることを選択する方が少なくない状況を目の当たりにし,あえて自ら孤食を選択することにある種の衝撃を受けた。
 一方で,共同スペースで毎日の食事をとってはいる方でも,あまり親しい人もおらず,すぐに部屋に戻りたがり,共食はあまり楽しいものではないように見受けられた。本来,他者とともに楽しく食事をする「共食」を通して,人と人とのつながりやコミュニケーションを深め,他者への共感や共助を知ることは,人間らしい食事のあり方として望まれることである。しかしこのようなパーソナルな経験からも,他者と食事をとる「共食」が善とされるような今日の風潮をそのまま受け止めることにやや疑問が生じてくる。つまり,河上の指摘4)にもあるように,人の食行動は,味覚の本質がそうであるように,もともと個人的かつ共同的なものであることを意識する必要があるのではないだろうか。
 ただし,食育と連動して言及されることが多い「共食」や「孤食」に関する先行研究は,後術するように全般的に栄養学的視点から扱ったものが多く,西洋医学的な立場から高齢者の場合も身体的健康づくりを前提とし,栄養バランスの偏りを指摘する傾向や孤食に対しての共食の優位性を示す論理実証主義的考察がほとんどであり,それらの多くが統計的分析に偏重している。しかしながら,高齢者は長い人生の中で人生の分岐点などそれぞれが様々な経験をし,食を取り巻く環境もより複雑になっていくため,高齢者の食について考察する際,個々における多様性に鑑み,それぞれの文脈から考察する必要性があるのではないかと考えた。
 病気という概念に関して,臨床人類学者のクライマンは,「医師は,病気を『疾患(disease)』と捉えるが,患者にとって,それは『病い(illness)』である。」と説明し,病や苦しみも含めて,「人々の経験が文化的表象のプロセスで次第に変形すること,そしてそれが当然のこととして日常的に行われていることを,我々はもっと自覚しなくてはならない」と主張している5)。しかし,従来の高齢者研究の多くは,加齢を虚弱(フレイル)に向かうプロセスと捉え,病気や加齢を伴わざるを得ない高齢者の食を考察する場合にもそれに対峙するための医学や健康対策の視点から事象を客観的に認識することに重点が置かれている。他方で,近年,日本でも精神保健福祉活動を端緒とした「当事者研究」により,「当事者」たちの生活実践が注目されるようになってきた。しかし高齢者の語りに耳が傾けられることは,看護研究の分野から6)みられるが,いずれの場合も専門分野の視点に立ち返り論考されている。すなわち,治療や予防の目標として,事象を客観的に認識することに重点が置かれ,個々が困難な状況を抱える場合,生じるリスクを軽減させる対策として処方されるのが現状である。しかし,超高齢化社会を迎え,ひとり暮らしになったり,家族以外の他者と暮らしたりする機会が避けられない現状において,高齢者,すなわち当事者が生きている主観的な世界や感覚を共に理解しながら,それぞれの生き方の中に食を位置づけることが何より重要になるのではないかと考えた。
 本研究では,同じ生活の場面での当事者としての高齢者の視点に寄り添い,「個人が食に対して持つ意味」,すなわち生活者としての「語り」に着目し,解釈主義的アプローチを研究視座に置くこととする。具体的には,まずフォーカスグループインタビューにおいて,共食を是,孤食を非といった二項対立的にとらえるのではなく,共食・孤食の形態をつくりだす文脈を紐解いていく。そしてさらなる背後の意義を探るために,ライフヒストリーに関する聞き取り調査を実施することにより,高齢者における食の持つ精神的意義についての考察を深めていきたい。

◆連 載

デンマーク通信 デンマークの初夏の食物

Naoko Ryde Nishioka

 デンマークは季節的には,6月以降は夏になります。日本のように梅雨や雨季がないので,春の次にはすぐに夏がやってきます。6月末には夏至祭が行われ,夏の始まりとなります。6月は一年で一番日が長くなるため,晴れの日は夕方でも真昼間のような太陽の光を感じることができます。以前,デンマークの夏のデザートについて紹介しましたが,今回は,初夏のこの時期によく見られる食物を紹介したいと思います。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
ベニバナCarthamus tinctorius L. var. linalacia Nakai
(=C. tinctorius (Mohler, Roth, Schmidt & Boudreaux))
(キク科 Compositae APG : Astaceae)

白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki

 梅雨が明けるころ,畑や庭の片隅で黄色から赤色のアザミに似た花を見かけることがあります。紅色染料や食用油の原料として栽培され,古くは「くれのあい(呉藍)」や「すえつむはな(末摘花)」とよばれたベニバナです。本植物はアフリカのエチオピア近辺を原産とし,その後,エジプト,地中海を経て世界へ広まり,さらに中国(紀元前2世紀〜後漢(2〜3世紀頃)の頃)を経て,日本には5〜6世紀に渡来したといわれています。

◆解 説

新解説 グルテンフリー穀物による麦芽とビール醸造(2)

瀬口 正晴/Masaharu Seguchi,竹内 美貴/Miki Takeuchi,中村 智英子/Chieko Nakamura

 本論文「グルテンフリ−穀物 食品と飲料,新解説グルテンフリー穀物による麦芽とビール醸造(2)」は,“Gluten-Free Cereal Products and Beverages” (Editted by E. K.Arendt and F.D.Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER),の第15章 Malting and brewing with gluten-free cereals by B. P. N. Phiarais and E. K. Aren’t 等の一部を翻訳し紹介するものである。

成熟がニジマスの臓器や体成分に及ぼす影響-3.発達,完熟,過熟

酒本 秀一/Shuichi Sakamoto

 成熟がニジマスの臓器や体成分に及ぼす影響を前々報1)で成熟初期について,前報2)で生殖腺が急速に発達する時期から完熟して放精,排卵し,さらに過熟に至るまでについて説明した。前報では紙数の都合で生殖腺の発達状態と成長,肥満度,腹腔内脂肪蓄積組織(DL)と肝臓の体重比,肝臓と背肉の一般成分含量との関係までしか説明できなかった。本報告では背肉と卵巣の色素量,血漿の成分含量と酵素活性について説明する。また,最後に生殖腺が未発達の時期から過熟に至るまでの全ての段階で成熟程度が臓器や体成分に及ぼす影響を纏める。