New Food Industry 2019年 2月号

論 文

フコイダン-アガリクスミックス摂取によるペプチドワクチン処置マウスにおける
がん抗原特異的免疫応答の効率的誘導

宮﨑 義之/Yoshiyuki Miyazaki

Effective induction of tumor antigen-specific immune responses by a fucoidan-agaricus mix feeding in peptide vaccine-treated mice

Yoshiyuki Miyazaki*

*Faculty of Agriculture, Kyushu University

Key Words: brown seaweed extracts, sulfated polysaccharide, fucoidan, anti-tumor immunity, peptide vaccine

Abstract
 Fucoidan is a series of natural sulfated polysaccharides derived from brown seaweeds mainly composed of L-fucose, and known to have several bioactivities such as anti-cancer and immunomodulatory effects. We also have found several immune-enhancing effects in “Okinawamozuku” (Cladosiphon okamuranus)-derived fucoidan and “Mekabu”, which is sporophyll of “Wakame”, (Undaria pinnatifida)-derived fucoidan. In this context, it was revealed in our previous studies that a mixture of these two kinds of fucoidan and an extract from mycelia of Agaricus blazei Murill potentiated anti-tumor immunity to reduce tumor growth in experimental model mice fed the mixture (CUA). In this study, dietary effects of CUA on achievement of effective tumor vaccination were evaluated using Balb/c mice immunized with a tumor antigen gp70 peptide emulsified in complete Freund's adjuvant. This procedure totally enhanced systemic immune function because augmented NK cell activity was observed in splenocytes from the vaccinated, and especially CUA-fed, mice. On the other hand, the gp70 peptide-stimulated IFN-γ production in splenocytes from the vaccinated mice were tended to augment by the CUA feeding. Furthermore, the CUA feeding potentiated the killing activity to colon-26 carcinoma of draining lymph node (LN) cells from the vaccinated mice in association with increase of gp70-specific CD8-positive T cell population. Furthermore, the expressions of MHC class II molecule (I-A/I-E) on CD11c-positive populations and IFN-γ mRNA were elevated in LN cells from the vaccinated and CUA-fed mice. These results suggested that the CUA feeding potentially support effective induction of anti-tumor immune responses by vaccination with tumor antigen peptides.

 フコイダンは,L-フコースを主要な構成糖とする褐藻由来の天然硫酸化多糖類であり,抗がん作用や免疫調節作用などの多様な生理活性を有している。我々もまた,オキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)由来フコイダンやワカメ(Undaria pinnatifida)の胞子葉部であるメカブから抽出されたフコイダンが持つ免疫増強作用を明らかにしてきた。さらに,それら2種のフコイダンエキス末とアガリクス(Agaricus blazei Murill)菌糸体エキス末から成るフコイダン-アガリクスミックス(以下,CUA)をがん細胞移植モデルマウスに経口投与することで,抗腫瘍免疫が増強され腫瘍形成を抑制することを見出している。そこで本研究では,腫瘍関連抗原gp70由来ペプチドを用いた抗腫瘍ワクチン効果の増強におけるCUA摂取の有用性を検証した。その結果,脾臓細胞におけるNK細胞のがん細胞傷害活性および増殖能がCUA含有餌を摂取することで亢進したことから,CUAが全身性の免疫機能の増強に働くことが再度確認された。また,gp70ペプチド刺激に伴う脾臓細胞の増殖およびIFN-γ産生,リンパ節(LN)細胞におけるgp70特異的CD8陽性T細胞集団の増加およびLN細胞のcolon-26大腸がん細胞に対する致死活性がCUA摂食によって増強された。さらに,抗原提示分子MHC class IIを発現するCD11c陽性(樹状細胞)の割合およびIFN-γ遺伝子発現レベルが,CUA含有餌を摂取したマウスのLN細胞において増加する傾向にあった。これらの結果から,腫瘍抗原ペプチドを用いたワクチンによる抗腫瘍免疫の誘導を効果的に進める手段としてCUAの摂取が有効であることが示唆された。

食成分であるポリアミンによる健康長寿の背景
ー ポリアミン代謝と遺伝子メチル化,およびOne carbon metabolismについて ー

早田 邦康/Kuniyasu Soda

 これまでの健康長寿に関する研究では,単一の機能の活性化だけでは動物の老化抑制や寿命延長を達成できないことが数多く示されてきた。一方,近年になり,遺伝子修飾とくにDNAメチル化が老化の進行や健康長寿と密接に係わっていることが急速に明らかにされつつある。我々は,食成分であるポリアミンという物質が遺伝子メチル化の制御に重要な役割を担っていることを報告した。また,高ポリアミン餌を摂取し続けたマウスでは,加齢に伴うDNAの異常メチル化が抑制されて寿命が延長することを世界で最初に報告した。遺伝子メチル化とは,DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)という酵素がS-アデノシルメチオニン(SAM)から供給されるメチル基をDNAのシトシンに付与することによって遺伝子発現を調整する機構である。遺伝子にメチル基を付与したSAMはS-アデノシルホモシステイン(SAH)になるが,SAHは代謝をうけてホモシステインになる。これまで多くの研究でホモシステインの上昇が生活習慣病の促進因子であり,その濃度上昇の抑制による生活習慣病抑制の試みがなされてきた。多くの臨床研究の結果,十分な効果を得るまでには至っていないが,ホモシステインの濃度の変化による遺伝子のメチル化への影響が指摘されている。一方,SAMは脱炭酸S-アデノシルメチオニン(dcSAM)に変換された後にポリアミン合成に係る。SAMの代謝産物であるSAHとdcSAMはDNMT活性を抑制する。現在アンチエイジングの研究で最も注目されている遺伝子メチル化機構を概説し,ポリアミン代謝およびホモシステイン代謝と遺伝子メチル化に関する解説を行う。

納豆菌の抗菌作用および細胞活性化能

須見 洋行/HiroyukiSumi,内藤 佐和/Sawa Naito,矢田貝 智恵子/Chieko Yatagai,丸山 眞杉Masugi Maruyama

 納豆菌は,世界的に一般安全性(generally accepted as safe)の認められた菌株であり,ナットウキナーゼとはその菌株が産生する血栓溶解酵素のことである1-3)。
 しかしながら,納豆菌(Bacillus subtilis natto)は,枯草菌(Bacillus subtilis)と混同して用いられている感がある。納豆菌は分類上,枯草菌に含まれ,ナットウキナーゼのような働きを持つ酵素を生産するが,それらはあくまで工業用や農業用である。つまり,納豆製造に適した納豆菌は限られており,粘り(ポリグルタミン酸)やナットウキナーゼ活性があるからといって,それのみで食品として安全か否かは図れない。
 我々が報告してきた納豆菌は,食経験が長く,安全性の確立されたものであり,本著では,これまでニュースにもなった納豆菌が生産するジピコリン酸の抗菌作用,および細胞活性化能を中心に紹介する。

解説

クマ笹葉アルカリ抽出液およびポリフェノール類の神経保護作用とホルメシス効果の再評価
― 簡易調製法(オーバーレイ法)により調製されたPC12神経分化細胞モデルを用いた解析

坂上 宏/Hiroshi Sakagami,史 海霞/Haixia Shi,堀内 美咲/Misaki Horiuchi,藤澤 知弘/Tomohiro Fujisawa,勝呂 まどか/Madoka Suguro,大泉 浩史/Hiroshi Oizumi,大泉 高明/Takaaki Oizumi

Review
Re-evaluation of neuroprotective activity and hormesis effect of alkaline extract of leaves of Sasa sp. and polyphenols ― Analysis with PC12 neuron model cells prepared by overlay method

Hiroshi Sakagami 1, Haixia Shi 1, 2, Misaki Horiuchi 3, Madoka Suguro 3, Hiroshi Oizumi 3, Takaaki Oizumi 3

1 Meikai University Research Institute of Odontology (M-RIO), 2 Shanghai Ninth People's Hospital, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, 3Daiwa Biological Researchi Institute Co., Ltd.

Abstract
 We introduce here the simple isolation method of neuronal cells and its application (published in reference 2). We explored so-called “overlay method” to isolate differentiated neuronal cells at higher yield, and re-examined the neuroprotective activity of several natural products. Rat adrenal pheochromocytoma PC12 cells were incubated for 5〜7 days with 50 ng/mL NGF in a serum-free medium, with one time overlay of NGF solution, without medium change nor pre-coating of culture plate with collagen or poly-lysine. Alkaline extract of Sasa sp. (Sasahealth®) (SE) protected the differentiated PC12 cells from the injury of amyloid peptide and paclitaxel in a concentration-dependent manner. The neuroprotective effect of SE was more potent than that of epigallocatechin, curcumin and resveratrol, possibly due to its growth stimulation effect at lower concentrations (hormesis).

要約
 Molecules誌(文献2)に発表した神経細胞の簡易調製法とその応用を紹介する。NGFで分化誘導した神経細胞を簡単に分離できる方法(オーバーレイ法)を確立し,天然物質の神経保護作用を再検討した。ラット副腎髄質褐色腫由来PC12細胞を,5〜7日間,NGF(50 ng/ml)を含む無血清培地で培養し,培地交換をする代わりに,NGFを含む培養液を重層することにより,コラーゲンやポリリジンによるプレートのコーティングを省略しても,神経突起を伸ばした成熟神経細胞を高率に調製することができた。クマザサ葉アルカリ抽出液(ササヘルス®)(SE)は,アミロイドペプチドやパクリタキセルで誘発される細胞傷害を濃度依存的に緩和した。SEの保護効果は,エピガロカテキン,クルクミン,レスベラトロールの保護効果よりも強く,低濃度域における細胞増殖の促進(ホルメシス効果)が関与していることが示唆された。

ニジマス用飼料の炭水化物源−4

酒本 秀一 /Shuichi Sakamoto

 これまでの試験1-4)で,一定の範囲内であれば飼料から吸収される炭水化物量が多い程エネルギー源として利用されるタンパク質の割合が減少するためか,魚の成長,飼料効率,タンパク質効率などが改善されることを明らかにした。本試験では3種類の炭水化物源を用い,魚粉との配合比率を変えた10種類の飼料を用いてニジマス稚魚を飼育した。飼育試験の結果から,飼料成分の何が魚の成長,飼料効率,タンパク質効率,飼料成分の魚体蓄積率等に影響を及ぼしているかを推定すると共に,炭水化物源毎の至適添加量を明らかにする。

人と地域に融和するカフェ空間の本質

菅野 友美子/Yumiko Kannno,三好 恵真子/Emako Miyoshi

 近年,単なる飲食店を超えた機能を果たす,多様なカフェの登場が見受けられる。例えば,全国各地に開設されている「コミュニティカフェ」は,名称こそカフェであるものの,その目的は子どもの居場所づくりや地域住民の憩いの場となっている。また,地域におけるソーシャルキャピタルの蓄積を担う場所として喫茶店が取り上げられ,調査・分析されている1)。さらには,地域の文化資源としての古民家をカフェとして再生する,いわゆる「古民家カフェ」が広く認知されるようになってきた。その他にも,書店に併設し,購入前の本が読めるようにした「ブックカフェ」や,「猫カフェ」のように動物と触れ合う機会を気軽に持てる「動物カフェ」など,飲食以外の特別な目的を付与されたカフェが,我々の日常の場面で数多く存在している。
 しかし,カフェの歴史的変遷を辿ると(詳細は後術),カフェは,いつの時代においても,社会のニーズに柔軟に対応しながら,多様な形態が生み出されてきたことが分かる。つまり,ヨーロッパの街角にあるようなカフェとはやや趣を異にし,日本では昔から,「喫茶店」,「カフェ」,「コーヒーショップ」等の名称で親しまれ,独自の文化を持ち合わせているものの,いずれの時代も乗り越え,人々に受け入れられ続けてきたその歴史性は,カフェの柔軟な特質によるものと考えられる。
 一方,先行研究では,カフェに期待される事柄として,集う者たちの間に交流が生まれるサードプレイスという「場所」としての機能を求めることが多く,その役割は重要であり,今後も活用の幅が広がることが予想される。しかし,時代を超えて様々な店がカフェとして認知されているように,単なる場所として没することなく,人々にとってそれぞれの意味を持ちながらも,置かれた環境に調和し,さらには地域やその歴史の中にも組み込まれながら,常に人々の欲求を満たす「カフェ空間」として存在し続けることが,どのようにして可能になっているのかを探る必要があると考えた。

連 載

デンマーク通信 デンマークの年末年始

Naoko Ryde Nishioka

 デンマークの新年については以前にも紹介しましたが,今回は,デンマークの年末年始によく見られる食品を広く紹介したいと思います。
 クリスマスは,多くの西洋諸国がそうであるように,デンマークでも一年で一番大切な行事の一つです。夏はバケーションのために3〜4週間の休暇を取る人が多いですが,クリスマスは24日から26日が祭日となり,27日から30日は出勤日のため,有給休暇をとって休みを1週間ほどにする人が多くいます。デンマークには,振替休日,という考え方がなく,祭日である24日から26日が週末(土日)に当たる場合は,振替休日がないため,一般の会社員の休暇数は少なくなります(27日が月曜日の場合は,出勤日になる)。というわけで,2018年の12月は,24日から26日が平日のため,前後の土日をつけ,かつ出勤日である27日と28日の2日間を有給休暇にして11連休にした人が多く,連休にしやすいカレンダーでいい年でした。
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野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
ショウガ Zingiber officinale (Willd.) Roscoe(ショウガ科 Zingiberaceae)

白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki

 正月,1年の無病息災を願って飲まれる屠蘇には,多くの場合,サンショウ(山椒)の果皮が入っています。現在の屠蘇には,普通,山椒の他,防風(浜防風),桂皮(肉桂),白朮,桔梗などの生薬が使用されています。サンショウの果皮はその他,香味料として鰻の蒲焼の臭味消しや七味唐辛子〔唐辛子,山椒,黒胡麻,麻子仁(麻の実):以上共通,陳皮,罌粟子(芥子:ケシの実),青海苔,紫蘇,生姜〕の材料としてもよく知られています。
 サンショウは,北海道から屋久島および,朝鮮半島南部に分布する日本原産の雌雄異株の落葉低木で,樹高は3〜5m。枝には鋭い棘が2本ずつ付いています。半日陰の湿潤な地勢を好み,葉は10〜15cmの奇数羽状複葉で互生し,小葉は1〜2cmの楕円形で油点があり,潰すと芳香を放ちます。花は,4〜5月に開花し,直径5mmほどで黄緑色。雌花には二本の角のような雌しべが突き出て,果実は直径5mm程度,初め緑色ですが,9〜10月頃に赤く熟し,その後,裂開し黒い種子が顔を出します。
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エッセイ

伝える心・伝えられたもの — しまなみ海道—

宮尾 茂雄/Shigeo Miyao

 2018年の夏は例年以上に長く感じられた。東京では6月下旬に梅雨明け宣言が出されてから,9月上旬まで真夏日が続いた。9月の初めミンミンゼミの声が賑やかに響く頃,愛媛県今治市から広島県尾道市まで「しまなみ海道」を自転車で走った。幸い台風が通り過ぎたあとで,キラキラ輝く白波を見ながら瀬戸内の穏やかな風に触れる旅だった。海岸から山の頂き近くまで続くみかん畑,人影のない海岸通り,夜半まで響く造船場の金属音,いつもの日常とは違う世界との出会いがあった。

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Life with Nutrition てるこ先生のこころの栄養学
-蚕からの贈り物3-

中村 照子/Teruko Nakamura

我が家には大きな桑の木があり,真夏には緑豊かに葉が生い茂ります。夏の暑い盛りに桑の葉は,この私に漲るエネルギーを与えてくれました。季節が少しずつ巡り,晩秋を迎える頃になると,桑の葉は硬くなり,やや黄色味を帯び,枯れ始めます。木枯らしが吹く季節に変わっていくと,枯れた葉は一葉ずつ風に舞い,小枝をあらわにしていくのです。葉が落ちてしまった小枝には時折野鳥が訪れるようになり,野鳥の好物を小枝に刺したり,餌を置いておくと小さな嘴で餌をついばんでいきます。
 春から秋へと見事に茂った桑の葉は蚕を育て,蚕は繭を作り蛹,蛾となりそしてまた新しい生命を育みます。桑の木は,こうして冬に一年の役割を終え,厳しい寒さをじっと耐えて,また春を待つのです。桑の木の四季を通して感じる私の心の栄養です。

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