New Food Industry 2018年10月号

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New Food Industry 2018年10月号

総 説

リン脂質を標的分子とする創食基礎研究の動向

日高 麻由美(HIDAKA Mayumi),堤 敏彦(TSUTSUMI Toshihiko),近藤 慎一(KONDO Shinichi),徳村 彰 (TOKUMURA Akira)

Recent phospholipid-targeted investigations aiming to create a beneficial functional food

Mayumi Hidaka1, Toshihiko Tsutsumi2, Shinichi Kondo1 and Akira Tokumura1

1Department of Life Sciences, Faculty of Pharmacy, Yasuda Women's University
2Department of Pharmaceutics, Graduate School of Clinical Pharmacy, Kyushu University of Health and Welfare

Abstract
 The second most predominant glycerolipid class in ordinary diets is phospholipids having two fatty acid groups. They consist of a large number of molecular species, depending on the structures and binding positions to the glycerol backbone of fatty acyl moieties. Their intestinal absorption, transport into lymphatic vessels, and subsequent metabolic conversions in the body are considered to be dependent to their molecular species composition. Also, their beneficial effects after absorption on physiological processes of different tissues are expected to be molecular species-dependent. Here we review recent investigations on molecular-species dependent transport, metabolism and bioactions in mammalian body of sea food-derived phospholipids enriched with ω3 fatty acyl groups. Glycerophospholipid preparations derived from various food sources contain a small amount of components that exert a potent physiological effect even at a low level (especially monoacylglycerols and lysophospholipids). This review highlights recent findings obtained by lysolipid-targeted studies that are aimed to create a beneficial functional food.

概要
 食事性のグリセロール骨格を有する脂質で量が多いのは,3個の脂肪酸を持つトリグリセリド,次いで2個の脂肪酸を持つリン脂質であり,構成脂肪酸の種類や結合位置の違いによる多数の分子種で構成されている。これらグリセロ脂質の消化吸収,体内移行・代謝や生体機能調節作用は分子種依存性である場合が多い。本総説では,水産物由来脂質に豊富に含まれるω3脂肪酸含有脂質の分子種依存性の体内動態・機能発現に関する研究成果を解説する。食事性グリセロ脂質には,微量ながら特異的な生理作用を示す成分が存在する。油脂中のモノアシルグリセロールとリン脂質中のリゾリン脂質が該当する。本総説では,これらリゾ脂質の機能性に着目している創食基礎研究成果も解説する。

Identification of evodiamine in the microalga Dunaliella tertiolecta (Chlorophyceae)

榊 節子(SAKAKI Setsuko), 堤内 要(TSUTSUMIUCHI Kaname), 山口 裕司(YAMAGUCHI Yuji), 山下 均(YAMASHIYA Hitoshi), 竹中 裕行(TAKENAKA Hiroyuki)

Setsuko Sakaki 1, Kaname Tsutsumiuchi 2, Yuji Yamaguchi 1, Hitoshi Yamashita 3 and Hiroyuki Takenaka1*

1 MAC Gifu Research Institute, MicroAlgae Corporation, 2 College of Bioscience and Biotechnology, Chubu University
3 College of Life and Health Sciences, Chubu University

Abstract
Evodiamine is a major alkaloid compound extracted from the dried, unripe fruit of Evodia rutaecarpa. Evodiamine has been shown to have various bioactivities in humans. We identified and quantified evodiamine in Dunaliella tertiolecta (Chlorophyceae) by LC-MS/MS and determined that D. tertiolecta dried powder contained 0.40 μg/g of evodiamine.

ホワイトソルガムパンの加工性と嗜好性向上の検討

石井 和美(ISHII Kazumi),小林 三智子(KOBAYASHI Michiko)

Study on Improvement of Processing Properties and Palatability of White Sorghum Bread

Kazumi Ishii*, Michiko Kobayashi*

*Graduate School of Human Life Sciences, Department of Food and Nutritional Sciences, Jumonji University

Summary
In recent years, it has become more common for millet to be eaten in family meals, mixed with rice. However, bread-based meals mainly use wheat bread, and bread made with millet flour as the main ingredient is not generally eaten.
 The authors have previously undertaken studies to establish methods of preparing bread using millet flour. Therefore, to advance the development of millet flour bread as a staple food, first we decided to add thickening polysaccharide to increase the rising of the bread and improve its texture, and investigate the effect on its bread making qualities.
 In this study, we added thickening polysaccharide step by step to white sorghum flour, made it into bread, and measured the volume and texture. We used Metolose MCE4000, SFE4000 and SE50 (manufactured by Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.) as thickening polysaccharides. Adding MCE4000 produced the greatest improvement effect; when 1.00% was added, the bread rose better. However, adding 1.25% was preferable in terms of structure and texture, and was considered suitable for adding to white sorghum bread. We performed a sensory evaluation of bread with 1.25% MCE4000 added and bread with 1.25% SE50 added, against a control. Both the breads with MCE4000 and SE50 were evaluated as better overall.

 雑穀は,小麦と比較してビタミンやミネラル,食物繊維を多く含み,栄養価が高い。近年,家庭の食卓でも雑穀粒を米に混ぜ込んで食することは珍しくなくなってきた。しかし,パン食では小麦パンが主流で,雑穀粉を主材料として調製したパンはあまり一般的でない。著者はこれまで,雑穀粉を用いたパンの調製法を確立するために検討を行ってきた。その結果,雑穀粉と基本的な副材料を使用してパンが調製できることが明らかになった1)。しかし小麦パンと比較して,雑穀粉で調製したパンは体積が小さくて硬く,食味や風味が独特で,かなり改良を加える必要があった。
 検討した雑穀の中で,ホワイトソルガムはイネ科モロコシ属の植物で,小麦アレルギーの対応食材として知られている。広くスーパーマーケット等で市販されているため,キヌアやアマランサスに比べて手に入れやすい。その調理特性については,いくつか研究報告がされている2, 3)。製パンについては,ホームベーカリーを使用して加水量を検討した報告等がある4, 5)。
 ホワイトソルガムはタンニンを除去し,無味無臭で食べやすいといわれている。しかし既報1)で報告したホワイトソルガムパンは,苦味に近いえぐ味があり,かなり改良を加える必要があると考えられた。また,パンのすだちは気泡構造を維持しているものの,膨らみが悪く,硬くてぱさついていた。そこで,主食用の雑穀粉食パンの開発に向けて,まずはパンの膨らみを増して食感を改良するために増粘多糖類を添加し,製パン性に与える影響を検討することにした。
 著者はこれまで,ミキサーでパン生地を調製し,一次発酵,パンチ,二次発酵,マフィン型で焼成,という手順でパンを調製してきた。しかし,より簡便にパンを調製するために,本研究ではホームベーカリーを使用した。

沿岸(里海)環境からの乳酸菌および酵母の分離と応用

久田 孝 (KUDA Takashi)

 わが国の長い海岸線には多種多様な景観が存在している。里海とは柳氏により「人手が加わることで生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」と定義され1),環境省においても同様に提唱している。そこは,人と自然の領域の間にあるエリアで,里山と同じく人と自然が共生する場所であり,伝統的な漁業,社会組織,食文化が生まれ,伝承されてきた場所である。環境中に生息している微生物は,基本物資の循環に大きく貢献しており2, 3),その一部は水産物,発酵食品,残渣・廃液処理等を介して,人々の暮らしと係わっている4-6)。スクリーニング時代とも呼ばれる20世紀前半から,抗生物質など医薬候補物質産生菌,レンネットなど有用酵素産生菌,調味料に用いられるアミノ酸や核酸関連化合物などを生成する菌など,様々な環境由来の有用微生物の探索が行われてきた7)。現在でも国内外の多様な伝統的発酵食品や極限環境中からの微生物探索は精力的に行われており8-10),それぞれの厳しい環境へ対応して進化したと考えられる遺伝子は,現在の様々な分野の工業製品,環境浄化,医療,研究に応用されている11-13)。筆者らの研究室では身近な沿岸域=里海環境を微生物の分離源とし,分離される乳酸菌および酵母のうち,人間にとって有用な機能を持つものを「里海乳酸菌・里海酵母」と位置づけ,まだ小規模であるが菌株の選抜・保存と,性状,発酵および機能性試験を行ってきた。本稿ではその内容のいくつかを紹介したい。

連 載

デンマーク通信

デンマークのサラダ

Naoko Ryde Nishioka

 今回はデンマークで食べるサラダにまつわる食文化を紹介したいと思います。サラダは日本でもヘルシーな副菜として,食卓に並ぶことが多いと思いますが,デンマークでもヘルシーな食材として人気です。
 昼食を例にとってみると,日本では,サラダは小さなポーションで副菜として食事の一部になっている場合が多いと思いますが,デンマークでは昼食にサラダを食べる場合,メインとして食べることが多いようです。サラダをどっさり大皿にいっぱい食べ,時には,ブレッドロールやパンをサラダと一緒に食べることもありますが,メインはやはりサラダになります。お昼はヘルシーにサラダだけ,という人も多いですが,日本のサラダというイメージではなく,ボリュームたっぷりで,お腹がいっぱいになるサラダが多くあります。例えば,シーザーサラダであれば,グリルしたチキンを切って,たくさん入れられているものや(野菜よりもチキンが多い場合もある),パルメザンチーズを厚めにスライスしてたっぷり入っているもの,また,シーザードレッシングがしっかりあえてあるものなどが多く,お皿いっぱい食べればかなりお腹もいっぱいになる一品です。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus (Thunb.) Ker Gawl.(ユリ科 Liliaceae)
[APG分類体系:キジカクシ科(クサスギカズラ科)Asparagaceae]

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)

 暑かった夏が過ぎ,ようやく秋らしくなる頃,山裾の道端を歩いていると,緑色をした細長い葉の陰で穂につけたいくつかの小さな青い玉を見つけることがあります。これがジャノヒゲです。ジャノヒゲは別名をリュウノヒゲともいい,秋から冬にかけて果実のような青い玉をつけています。私の故郷,兵庫県の但馬地方では,この青い玉を「ほろほろ玉」といい,子供の頃,ヤダケ(シノベタケ)Pseudosasa japonicaで作った「ほろほろ鉄砲」の弾にして遊んでいました。当時は何故,ほろほろ玉というのかは,考えもしませんでしたが,今になって思えば,「ほろ」とは,母衣の意で,昔の武将が戦の折,背中に背負っていた袋に似ているからでないかと思っています。

解 説

機能性食品素材としてのシソエキス

塩 拓磨 (SHIO Takuma)

 紫蘇(Perilla frutescence var. crispa)は中国南部を原産とし,古くから民間療法として用いられてきた。漢方においても紫蘇の葉は “蘇葉” と呼ばれ,健胃,鎮咳,鎮静,発汗,利尿などを目的とし,紫朴湯,半夏厚朴湯,香蘇散などに処方されている1)。日本でも平安時代以前から栽培されており,現在では日本全国で広く栽培され,その防腐・抗菌効果を目的にお刺身のお供に用いられている。特に北海道は冷涼な気候で害虫が少ないため低農薬栽培に適した地域であると考えられる。
 紫蘇の葉は脂質,糖質,およびカロチンなどのビタミン,さらに,鉄,カルシウムなどの無機質といった栄養成分を豊富に含む。そして特徴的な香気成分であり,皮膚刺激物質でもあるペリルアルデヒドを含む2)。本稿のシソエキスの原料は北海道の契約農家で栽培される青紫蘇の葉のみが使用され,収穫直前の農薬散布をしないため収穫時には農薬がほとんど残留しない。さらに熱水抽出により製造されるため精油成分であるペリルアルデヒドはほとんど含まれていない。また,生理活性を持つ成分としてフラボノイド配糖体やロスマリン酸などが含まれることが確認されている。

ニジマス用飼料の炭水化物源−1

酒本 秀一 (SAKAMOTO Shuichi)

 前報1)でニジマス用飼料の適切なα澱粉添加量は20-25%であることを明らかにした。しかしながらα澱粉は価格や飼料製造上の問題(α澱粉を多量に添加すると加水・混練時に粘りが強くなりすぎて飼料の成形が難しくなる)が有り,20-25%も使用することは出来ない。よって,一般的に飼料の炭水化物源として用いられている小麦粉の等級による効果差や,最近色々な分野で利用が図られている米の養魚飼料原料としての可能性を調べることにした。

グルテンフリ−穀物 食品と飲料,グルテンの検知−1

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),竹内 美貴(TAKEUCHI miki),中村 智英子(NAKAMURA chieko)

 本論文「グルテンフリ−穀物 食品と飲料,グルテンの検知−1」は,“Gluten-Free Cereal Foods and Beverages” (Editted by E. K.Arendt and F.D.Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER),の第3章 Detection of gluten by Herbert Wieserの一部を翻訳し紹介するものである。

新連載 漢方の効能

(1)自然の恩恵

坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi),白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki),史 海霞(SHI Haixia)

要約
 漢方薬は,西洋薬と異なり,複合成分から構成され,それらが相乗的に作用して総合的に,被験者の病態や体質を改善する。漢方薬による口腔機能や認知症の改善および神経細胞保護は,高齢者社会において喫緊の研究テーマである。

Efficacy of traditional medicine “KAMPO” (1): Benefits of nature

SAKAGAMI Hiroshi1 SHIRATAKI Yoshiaki2 SHI Haixia3

1Meikai University Research Institute of Odontology (M-RIO)
2Department of Pharmacognosy & Natural Medicines, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Josai University
3Department of Traditional Chinese Medicine, Shanghai Ninth People’s Hospital

Summary
 Unlike western medicine, Kampo medicine consists of complex ingredients, which act synergistically to improve symptom and physical fitness of subject comprehensively. Improvement of oral function and dementia, and neuroprotection by Kampo medicine are urgent research themes in the elderly society.