New Food Industry 2018年 2月号

総 論

ポリアミンによる発癌抑制 ー 基礎研究から疫学的背景まで ー  

早田 邦康(SODA Kuniyasu)

 この総説の題名「ポリアミンによる発癌抑制」を見て,不思議に思われた方も多いかもしれない。少しでもポリアミン研究に関与したことのある研究者は,ポリアミンは癌の進行促進と密接な関係がり,場合によっては発癌を促進するという認識をお持ちだと思われる。確かに発癌を誘発する遺伝子変化や遺伝子修飾がすでに存在するヒトや動物では,成長因子であるポリアミンは細胞増殖を促進し発癌を促進することは容易に推測できる。実際に,動物実験やヒトを対象にした検討でもポリアミン合成阻害剤が発癌の抑制に寄与することが報告されている。ところが,これらの研究の対象は,すでに発癌リスクを有しているヒトや動物である。よって,特段の発癌リスクを有さない地球上の大多数の健常人において,食物からのポリアミン摂取が発癌に対してどのような影響を及ぼすのかはわかっていない。私たちは,発癌に関連する遺伝子異常のない動物を用いた検討で,ポリアミンが発癌を抑制するように作用することを報告してきた。そこで,ポリアミン摂取が発癌に及ぼす影響に関して考察する。

スポーツにおけるパラチノースの効果

坂崎 未季(SAKAZAKI Miki),永井 幸枝(NAGAI Yukie)水 雅美(MIZU Masami)

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催や,健康寿命の延伸に向けた国の啓発活動が追い風となり,近年スポーツの習慣を持つ人の割合は急激に増加している。総務省の調査では,1991年以降一貫して減少傾向にあった「スポーツ」 の行動者率が2016年にはじめて上昇に転じている(図1)1)。
 また,「スポーツ」の種類別に行動者率の変化を見ると,2011年の調査と比べて「ウォーキング・軽い体操」「器具を使ったトレーニング」「ジョギング・マラソン」などが大きく上昇している。こうした変化に伴い,アスリートやボディビルダーなどのスポーツ専門家ではない一般層においても,運動効果を高めるためのスポーツニュートリションへの関心が高まってきている。スポーツ向けの食品や飲料市場では持久力やパフォーマンスを高めることを目的とした製品だけではなく,アンチエイジングや健康維持,生活習慣病予防のために運動する一般のスポーツ愛好家に最適な製品が充実しつつある。また,フィットネスクラブやスポーツジムでは栄養カウンセリングなどのサポートに積極的に乗り出している。さらに,これまでスポーツ向け食品や飲料の販売はスポーツショップが中心であったが,近年はドラッグストアやコンビニエンスストア,ネット通販などにまで広がっており,一般の人々がより手軽に購入しやすい環境となっている。このように,スポーツ習慣を持つ人々の増加とともにスポーツの栄養面に対する注目がますます高まっていくと予想される。

甘草由来グラブリジンの機能性について

山下 陽子(YAMASHITA Yoko),芦田 均(ASHIDA Hitoshi)

Abstract.
 Glabridin is a major flavonoid in licorice (Glycyrrhiza glabra L.), and has various health beneficial functions including antioxidant and anti-inflammatory activities. In this review, we show novel functions of glabridin and glabridin-rich licorice flavonoid oil (LFO). LFO prevented mutagenicity, carcinogenicity, and obesity. Glabridin prevented hyperglycemia and muscle atrophy. To estimate safety of LFO for human, various safety tests was carried out and no-observed-adverse-effect level (NOAEL) was decided. Thus, LFO is a safety and functional food material for human health.

 「医食同源」という言葉があるように,ある種の食品あるいは食品成分には疾病予防に関わる機能が存在することは洋の東西を問わず古来より知られてきた。食品が生体におよぼす機能は,一次機能(栄養特性),二次機能(嗜好性)および三次機能(生理調節機能)に分けられる。このうち疾病予防に寄与する三次機能を対象に設計された食品が「機能性食品」である。この「機能性食品」という言葉は日本が提唱したものであり,具体的には生理系統(免疫,分泌,神経,循環,消化)の調節によって病気の予防に寄与する食品である。
 現在,世界的に,野菜や発酵食品から体によい成分が含まれていないか探索が進められており,既に様々な機能性食品が実用化されている。ただし,その“機能性”がヒトの健康にどの程度寄与しうるかの科学的根拠のレベルに関しては,単に伝承によって受け継がれている知見のみによるものから,In vitroのみで生理活性が示されているもの,さらには臨床試験(ヒト試験)でその効果が検証されているものまで様々である。現在のところ,安全性の確認は当然のこととして,ヒトにおける効果・作用メカニズムまでを検証した機能性食品の数はまだ限られている状況である。このような中で機能性食品に関わる法整備が近年世界的に進められている。本稿では,世界的に古くから生薬としても用いられてきた,甘草の持つさまざまな機能性に着目して,研究成果を紹介していく。

味の一覧表の作成とその意義

柳本 正勝(YANAGIMOTO Masakatsu)

 味には,甘味,塩味,酸味,苦味,うま味の五基本味がある。そして味とは,「飲食物中の呈味成分が口腔内の味蕾にある味細胞と化学的に結合し,その情報が味神経を経て大脳に伝わることによって知覚される感覚」(栄養・食糧学用語辞典)などと説明される。この捉え方はすっかり定着していて,専門家の常識となっている。
 このような事情を背景に,味の分類をしようとする味覚の研究者はいない。ましてや,味の一覧表を作成する気運はない。専門家の取り組みがないので,味の一覧表の作成に関する先行研究といえるものはない。
 範囲を拡げて関連資料といえるものを探すと,川端らがおいしさを表現する用語を収集している1)。ここには味が下に付く用語が251掲載されている。ただし,収集した根拠は著名な文筆家の著述物などであり,創造的な表現の味が含まれる。また,羅列しただけで,体系的な整理はなされていない。言語学者である瀬戸は「味ことば」を闊達に挙げ,それを整理して「味ことば分類表」を作成している2)。見方によっては,味の一覧表といえる。しかしながら,「味ことば」を挙げた根拠は示されず,分類も生理学でなく共感覚表現に重点が置かれている。各種類語辞典(たとえば類語新辞典)の「味」の項も,広い意味での味の一覧表である。類語のグルーピングもなされている。しかし,味の一覧表を作成したとは,著者も思っていないであろう。
 本稿では,基本味だけが味ではないという立場からこの課題に取り組み,味の一覧表とその背景となる味の分類図を作成したので,その内容を紹介する。

中国舟山群島新区における漁撈の変容とその影響
— 漁民の語りから見えるソーシャル・サファリング —

三好 恵真子(MIYOSHI Emako),胡 毓瑜(HU Yuyu)

 社会的な苦しみ(Social Suffering)は,政治的・経済的・制度的な力が人びとに加えられることによって,また,それらの力が人びとの社会的問題の取り組み方に影響を及ぼすことによって,生み出されるものである1)。たとえば,貧困問題など,社会的につくられる苦しみをグローバルな事象で捉える際,統計上の網にかからない実相は,容易に捨象されかねない。しかしながら,苦しみと貧困との関係は,単なる統計上の問題ではなく,グローバルなポリティカル・エコノミーにおける因果関係の網の一つであるとすれば,こうした可視化されない実相をいかに掘り起こすか,そのための質的側面へのアプローチがいままさに求められていることを指摘したい。
 そこで,我々が本稿で焦点を当てたいのが,中国における「漁民」とその営みの変容についてである。中国の漁業は,1970年代末の改革開放政策によって,飛躍的な発展をみるが,特に1980年代末からの増加が著しく,1988年以降,現在まで一貫して世界第1位の座を占め続けている。ただし,その8割弱を占め,大きな柱となっているのが養殖業であり,漁獲生産量の割合は2割弱に留まっている。さらにその内訳をみると,FAOの統計上「その他の水産物」に分類される魚種の生産量が4割,「種類が特定されていない海産魚類」の生産量が2割を占め,従来主力であった漁業対象種の漁獲が,すでに限界に達しつつあることは明白である。したがって,漁獲生産量に注視するならば,中国では2000年以降から頭打ちないし漸減しており,その原因は,1990年後半から漁業政策が大きく転換してきたことに起因すると考えられる。すなわち,中国政府は,資源悪化に対して夏期休漁制度を実施しており(1995年),さらには漁獲量ゼロ成長宣言(1999年)に基づく漁業管理の強化や減船計画に踏み出しており,これら一連の政策目標は,2000年の漁業法改正に集約されている。同時に,国連海洋法条約の批准(1996年),排他的経済水域および大陸棚法制定(1998年)と並び,日本や韓国などの近隣諸国と漁業協定を締結したことも影響しており,中国の漁場・漁業は縮小に向かっているのである。

連 載

デンマーク通信 デンマークの新年

Naoko Ryde Nishioka

 12月になるとデンマークではクリスマス色がいっそう強くなってきます。秋を迎えると急激に寒くなり,12月になると太陽の出ている昼間がとても短くなり,ときには零下になることもあり,デンマーク全土で寒くて暗いとなります。そんな中,(唯一の?)楽しみといえばクリスマス。街中は電飾で賑やかになり,デパートや街の商店,オンラインストアまで,クリスマス商戦で賑わいます。デンマークはキリスト教が国教ですが,日本の仏教のように,熱心な信仰国というよりは,文化や習慣に根付いている側面が強いようです。そのキリスト教に由来するする,アドベントは,クリスマス前の4回の日曜日を祝う習慣です。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
ロウバイ Chimonanthus praecox(L.)Link var. praecox(ロウバイ科 Calycanthaceae)

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)

 新春を迎え,まだ春浅い山裾を歩いていると,とある民家の庭からほのかな香りが漂ってきます。思わず辺りを見渡すと,艶のある黄色い花をびっしりつけた低木を見かけることがあります。これがロウバイ(蠟梅)です。ロウバイは主に中国中部に分布する高さ2〜4mの落葉低木で,長さ10〜20㎝の全縁,長楕円形または卵状長楕円形で先の尖った葉をつけます。葉が出る前に直径約2㎝の強い芳香のある花をつけますが,多数ある花被片のうち,外側のものは黄色,内側のものは短く紅紫色を呈しています。雄しべは5〜6本あり,内側のものは仮雄しべです。また,痩果は長さ約3.5㎝の楕円体の果床に包まれています。ロウバイ属は2〜6種あり,いずれも落葉または常緑低木で,属名も「冬cheimon」「花anthos」を意味するギリシャ語に由来しています。ロウバイは英名をwinter sweetといいますが,日本へは,17世紀の初めに中国から朝鮮半島経由で渡来したとされ,日本を含む温帯各地で広く栽培されています。

解 説

グルテンフリ−ベーカリー食品 その仕込みと加工 (1)

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),木村 万里子(KIMURA Mariko)

要約
 本論文「グルテンフリ−ベーカリー食品、その仕込みと加工(1)」は、米国の穀物科学者,Jeff CasperとBill Atwellによって書かれた本(“Gluten-Free Baked Products” 2014 by AACC International, Inc. 3340 Pilot Knob Road St. Paul, Minnesota 55121, U.S.A.)の一部(”Gluten-Free Bakery Product Formulation and Processing”)を翻訳し紹介するものである。ここでは「グルテンフリ−ベーカリー食品、その仕込みと加工(1)」として、グルテンフリークッキー、ケーキ等について述べる。

グルテンフリー食品を製造するために知っておかねばばならないことは,小麦を使ったふつうの食品のベーキングにおける撹拌,起泡,焙焼時のグルテン(さらに小麦デンプンのような小麦粉他成分)の機能の理解である。その機能が十分に理解されていれば,入れ替えた成分,あるいはできたシステムが置き換えに匹敵すると認める事が出来るだろう。以下のセクションでは,クッキー,バッター食品,パンについて,ベーキング加工食品中の小麦粉成分の特異的機能の説明と,それに置き換えうる各成分についてのべ,それらを組み合わせてグルテンフリー仕込みを作る方法を述べる。

酒たちの来た道 酒造りの文明史⑩

古賀 邦正(KOGA Kunimasa)

 日本酒の来た道(1):日本列島誕生から縄文まで
 前回まで“果物の酒”ワインと“穀物の酒ビール”の来た道を世界史の変遷とともに学んだ。今回からは日本酒の来歴について学びたいと思う。日本酒は好きだけど詳しくはなく,また,日本の歴史にも興味はあっても詳しくはない私にとっては,「日本酒とともに学ぶ日本の歴史」という思いが強い。ワインやビール,あるいは世界の歩みとも比較しながら筆を進めてゆきたいと考えているので,宜しくおつきあい下さい。まずは,日本の誕生から縄文時代までについて学んでゆきたいと思います。

製品解説

耐油脂性の高いトマト色素製剤「TSレッド・TMZ」の開発

村上 拓也(MURAKAMI Takuya)

 トマト色素は「ナス科トマト(Lycopersicon esculentum MILLer)の果実から得られた,リコピンを主成分とするものである」と第8版食品添加物公定書に定義されている。
 リコピンを主成分とするトマト色素は,リコピンが消費者に広く健康に良いというイメージで認知されている点と,他の天然系色素の原料と比較しても馴染みが深いトマトが原料であるという点から非常に印象が良い色素と言える。それに加えて,色素の需要が合成色素から天然系色素,特に植物性の色素にシフトしていることもあり,各方面の食品で評価が進み年々市場は拡大している。

冷水可溶性澱粉 C☆HiForm(シースター・ハイフォーム)について

東川  浩(HIGASHIKAWA Hiroshi)

 C☆HiForm(シースター・ハイフォーム。以下,ハイフォームと称す)は,冷水に分散することによって溶解し粘度発現する冷水可溶澱粉(アルファ澱粉,インスタントスターチなどと呼ばれる)である。アルファ澱粉は,製造法として,ドラムドライ,エクストルーダー,スプレードライ,スプレークック等の方法があるが,
 最も一般的な製造法はドラムドライ方式である。これは,高温に加熱したドラム上に高濃度澱粉スラリーを流し,瞬間的に熱ドラム上に澱粉フィルムを作り,それをブレードでかき取った後,粉砕,篩がけする方法である。面で澱粉を乾燥させるため,最も生産効率のよい方法といえるが,このタイプのアルファ澱粉には次のような欠点も見られる。

特別寄稿

プランクトンの増殖促進による地球温暖化防止法と漁業の復活策

尾崎 庄一郎(OZAKI Shoichiro)

 地球は化石燃料の燃焼により発生する CO2 と熱により温暖化されている。CO2同化反応によりCO2と熱を吸収して,相殺してやれば地球温暖化は防ぐことができる。日本は国土が狭く放出したCO2 を固定しきれない。周りを海に囲まれているので海でCO2 同化反応を盛んに行わなければならない。植物の成長を促進してCO2を固定する同化反応を促進するためには栄養塩類NとPの供給がもっとも大切なことである。NOxは窒素肥料の主要源である。
 多くの政府が NOx を公害物質として排除する法律を作りアンモニアで NOx 排除している。NOxが排除によりCO2同化反応が阻害され地球温暖化が促進されている。NOx は1分子で25分子の CO2 を固定できるので,NOx の排除をやめることによって地球温暖化を防止することができる。日本の漁獲量は過去30年間に70%減少した。世界の漁業を見ると NOx,排水中のN,Pを有効に利用している中国などが大量の魚を生産していることがわかる。 NOx, 排水中のN,P を利用してプランクトン,魚を養殖してCO2 の固定を行い自国で発生した CO2 を自国で固化している。NOx, N.P の排除を止めれば地球の温暖化を防止でき,衰退した日本の漁業を復活させることができる。