New Food Industry 2018年 1月号

新春巻頭言

冰 壺 珍 

宮尾 茂雄(MIYAO Shigeo)

中国南宋時代(1127~1279年)の林洪の著「山家清供」は,山荘での清らかで風流な生活にあこがれ,そこで供するのにふさわしい蔬菜料理を中心にした料理や食文化が語られている。そのなかに「冰壺珍」(漬物の汁)という話がある1)。
 宋の太宗(北宋第2代皇帝(在位:976年~997年))が,蘇易簡(四川省出身の高級官僚)に「食物で一番珍味とされるのは何か」と問うたところ,「食べるものに定まった味というものはありません。そのとき口に適ったものが珍味です。臣(わたくし)は虀(つけもの)の汁が美味いと思ったことがございます。」太宗が笑ってそのわけを問うと,「臣はあるひどく寒い夜(略),痛飲して大いに酔い,夜着にくるまってそのまま寝こんでしまいました。ふと目を覚ますとひどく喉の渇きをおぼえ,ちょうど月が明るかったので中庭に出てみますと残雪中におおわれた一個の虀盎(つけものがめ)が目にはいりました(略)。その汁を両手いっぱいにすくい何杯も飲みました。臣はこのとき,天上仙界の厨(くりや)の鸞(らん,鸞鳥)の脯(ほじし)も鳳(ほう,鳳凰)の脯も,きっとこれに及ぶまいと思いました。(略)」といった。太宗は笑いながら,確かにそうだとした。(注:鸞鳥,鳳凰とも中国の想像上の鳥。脯は乾肉)

新春随想

「コーヒー事情・激動の十年

岡 希太郎(OKA Kitaro)

 10年前のコーヒー事情といえば,コーヒーはコクと香りがすべてであって,病気を予防するなどとは聞いたことがありませんでした。世間の常識では,病気になって医者にかかると「体に無駄な負担がかかるから止めなさい」と言われたし,家族からも同じことを言われました。しかしその裏側で,コーヒーと病気の疫学研究が着実に進んでいたのです。2002年,コーヒー王国・オランダの疫学者ファンダムは,毎日のコーヒーが2型糖尿病に罹るリスクを下げるとランセット誌に書きました。ハーバードへ移った2006年には総説論文「コーヒーと2型糖尿病―豆からβ細胞まで」を発表しました。翌2007年には,カロリンスカのウォルクが肝臓がんとコーヒーのメタ解析論文を発表しました。10年前のこれらの論文のお蔭で,コーヒーが只者でないことが示唆されたのです。
同じ年国内では,コーヒー疫学をまとめた拙著「珈琲一杯の薬理学」が出版されました。表題が功を奏して発売直後から評判を呼び,雑誌の取材や講演依頼が舞い込むようになりました。そしてコーヒーの病気予防効果は本物かも知れないと世間が感じ始めたのです。その切っ掛けは,同じ年の暮れに天声人語(朝日新聞)が「コーヒーの肝臓がん予防効果に厚労省が太鼓判」と大袈裟に書き立てたことだったと思います。

新春総論

血栓溶解能に優れた“納豆”
― t-PA(tissue-Plasminogen Activator)亢進作用 ―

須見 洋行(SUMI Hiroyuki).矢田貝 智恵子(YATAGAI Chieko).丸山 眞杉(MARUYAMA Masugi)

わが国では国民の3人に1人が何らかのアレルギー症状をもち,5人に1人がスギ花粉症であると言われている。図1に示すように,とりわけ都市部において,花粉症の患者が激増している。このように,アレルギー患者が増加した要因として,食生活の変化,環境汚染,スギ花粉の増加,過剰な清潔志向(衛生仮説)などが取りざたされている。一方,わが国において,食物アレルギーの中で最も多い原因物質は鶏卵である。しかし,生後1年未満に限ると,最も多い原因物質は牛乳と乳製品である。
 牛乳アレルギーは,3〜4歳になると自然に治癒するが,牛乳アレルギーを患った乳幼児は,小児期に蕎麦や米が原因の植物性食物アレルギーになり易く,さらに成長すると花粉やハウスダストが原因の吸入型アレルギーになり易い。したがって,乳幼児期に牛乳アレルギーにならないことがアレルギー体質にならないために大切である。なお,図2に示すように,アレルギーの原因物質が年齢とともに変化することをアレルギーマーチと呼んでいる。
 本稿では牛乳アレルギーの原因物質としての牛乳タンパク質の抗原構造および牛乳アレルギーの治療乳と予防乳開発の実際について述べる。

「健康経営」のための非対面型減量プログラムの有用性の検討「DHCメタボ脱出減量プログラム®」第2報

蒲原 聖可(KAMOHARA Seika),梅田 清香(UMEDA Sayaka),今高 優佳(IMATAKA Yuka),味岡 広恵(AJIOKA Hiroe),平沢 綾菜(HIRASAWA Ayana),吉田 桃子(YOSHIDA Momoko),關 浩道(SEKI Hiromichi)

 肥満に対する食事療法として,フォーミュラ食の有用性が確立されており,「肥満症診療ガイドライン2016」(日本肥満学会)にも明記されている。これまでに,私共は,肥満の予防や改善を目的に,フォーミュラ食(「DHCプロティンダイエット」製品シリーズ)を用いたセルフケアの訴求を行ってきた。また,一般消費者を対象に,DHCプロティンダイエット製品の利用と管理栄養士など医療系有資格者による栄養相談を組み合わせた減量プログラム「DHCダイエットアワード®」を開催し,3ヶ月間の非対面型介入による有効性を報告した。
 そこで,2015年より,「健康経営」を目指す企業を対象に,非対面型減量プログラム「DHCメタボ脱出減量プログラム®」を開発し,肥満やメタボリック症候群の該当者あるいは予備群の社員に向けて提供を行っている。今回,プログラム参加社員の健康状態の改善における有用性および健康経営における役割を検証した。

食品への害虫混入時期推定のための発育パラメータの解明
― 加工食品での食材の組み合わせがノシメマダラメイガの発育に与える影響 ―

宮ノ下 明大(MIYANOSHITA Akihiro)

 日本では消費者の清潔志向は高く,食品から昆虫の破片が発見されただけで,異物混入としてクレームとなり,食品の信頼性確保という点から社会的な問題となる。食品から生きた昆虫が発見された場合,その混入時期の推定が要求される。なぜなら,食品の管理責任の所在を明らかにする必要があるからだ。そのためには,混入時の昆虫の発育ステージ,食品の保管温度,混入した食品における昆虫の発育日数が必要な情報となる。しかし,多くの加工食品において食品害虫の発育日数は調べられておらず,混入時期推定のための発育パラメータの蓄積が今後求められるだろう。
 著者は,これまで食品への混入害虫として頻度が高いノシメマダラメイガ(チョウ目:メイガ科)1, 2)を研究対象にして,複数の加工食品において発育試験を行った。具体的には,チョコレート製品,米菓(柿の種),カップ麺製品について,ノシメマダラメイガの羽化率や発育日数を明らかにした。本文では,これらの研究結果を紹介し,各製品に本種幼虫が生きて発見された場合の混入時期推定の目安となる情報を提供する。また,複数の食材から構成された加工食品では,単独の食材での発育とは異なった結果が得られたこと,食材の形状や組み合わせの発育に与える影響も報告する。

フザリウム属かびの生き残り戦略

岩橋 由美子(IWAHASHI Yumiko)

フザリウム属のかびは植物病原菌として,特に穀類の収量の低下をもたらすなど,世界的に問題になっている。日本においては,麦の生育後期に雨が降る気象条件が多く,収穫物にかびが発生しやすい。フザリウム属のかびの中にはかび毒を産生するものがあり,その種類は多岐にわたる。その中でも,デオキシニバレノール(DON)は急性毒性の主なものとして嘔吐や下痢などの消化管の障害が知られているが,現在の日本の食物管理政策上,急性毒性を引き起こすほどのDONの汚染は考えにくい。しかし低濃度長期摂取に関しては十分に予防できているかは不明であり,特に家畜などにおいては,体重の減少や免疫力の低下などへの影響が懸念されている。細菌の作る毒物はタンパク質であることが多く,食品加工で用いられる加熱処理で失活できる可能性が高いが,DONなどのかび毒はトリコテセン環をもつセスキテルペンであり,通常の加工や調理工程において完全に失活させることは難しいため,生産段階でその汚染を防止することが特に重要になる。当然の事ながら,かびの混入している穀類は流通させることができず,偶発的に他の圃場からの収穫物と混ぜてしまったことにより,健全な穀類を含め全量廃棄処分せざるを得ないなど経済的に大打撃を受けることがある。DONの産生量は環境や宿主としての植物の状態などによって変動する。しかしながら,このかび毒の産生調節機構についてはわからないことが多い。フザリウム属かびの一種であるFusarium asiaticumは15℃程度の気温でも生育し,日本を含め東南アジアに広く分布している。DONを産生しているF.asiaticumは産生していない時とは様々な点で違いがあることは以前に報告した1)。その後の研究によってDONの産生制御に新たな要因が見つかり,これらの事実よりフザリウム属かびの生き残りのための戦略について考察し,今後のかび毒低減化施策に役立てたい。

感温性高分子の相転移温度を変化させる食品添加物

清水 秀信(SHIMIZU Hidenobu)

温度という物理量が食品のおいしさに大きな影響を及ぼすことはよく知られている。例えば,果物の中には冷やすと甘くなるものがある。これは,温度が低くなるにつれ,果物の中に含まれているフルクトースの分子構造がα型からβ型へ変化するためである1)。またチョコレートのおいしさは,構成成分であるココアバターの融解特性と密接に関係している。チョコレートの場合,口溶け感・光沢感・スナップ性などのチョコレート特有の物性は,ココアバターの結晶構造が温度により多形転移するため生じることが報告されている2)。加えて,固体食品の大部分がガラス状態であり,温度や水分量を変化させるとガラス転移すること,ガラス転移温度は食品を構成している成分の種類によって変化することが明らかにされている3, 4)。
 本稿で取り上げる感温性高分子は,温度という物理量を変化させると鎖のコンフォメーション(形態)が変化するという特性を有する。特性が温度の影響を受けるという点では,上記の食品の例と全く同じである。ただし,感温性高分子の範疇に入るものは,鎖のコンフォメーションが温度依存性を示すだけでは十分でなく,温度に対する変化が”不連続”であるという要件を満たす必要がある。水に溶解している感温性高分子は,ある温度で突然,ランダムコイル状態からグロビュール状態へ構造転移する。ここで観察される転移現象は温度に対して可逆的であり,また,ポリペプチド鎖が変性状態から天然状態にフォールディングする協同的転移(1次の相転移)と類似していることも指摘されている5)。加えて,1分子レベルで起こる高分子鎖の構造転移が,可溶不溶転移というマクロな状態変化を引き起こす点も,感温性高分子の優れた特質の1つである (固体・液体・気体の状態変化に似ている)。この特質を利用して,特にバイオマテリアルやバイオテクノロジーの分野で,感温性高分子ゲル材料(感温性高分子鎖を架橋して溶媒に不溶化したもの)の開発が精力的に進められている。
 本稿ではまず,高分子鎖が感温性を持つために必要な一次構造が,どのようなものであるかについて述べる。さらに,感温性がどのような機構で発現するのか,また,感温性を示す温度がどのような原理で規定されているのかについて分子レベルで考察した後,相転移温度を望みの温度に調節する方法について述べ,最後に,食品添加物であるカテキンの添加により,感温性高分子であるヒドロキシプロピルセルロースやポリN-イソプロピルアクリルアミドの相転移温度を制御した研究について紹介する6)。

「ミツバチが作る恵み」の科学:〜ローヤルゼリー,プロポリスの健康機能研究〜

津田 孝範(TSUDA Takanori)

 私たち人類は古来より蜂蜜をはじめとするミツバチの作る恵みを活用してきた。また農産物の受粉についてもミツバチは欠かせない存在である。近年ではミツバチの不足が懸念され,その原因をはじめとしてミツバチに関する研究が注目されつつある。蜂蜜や花粉,蜂の子,蜜ろう,ローヤルゼリー,プロポリスなどを総称してミツバチ産品(蜂産品)と呼ぶ。これらは我々の健康機能向上において貢献しているだけでなく,食品産業においても重要な産物である。ミツバチ産品の健康機能研究は,この10年ほどの間に大きく進展しているが,いまだ不明の点が多く,一般消費者や食品業界においてミツバチ産品に関する正しい科学的知見が共有されているとは言えない。このような状況の下で,著者と静岡県立大学の熊澤茂則教授がオーガナイザーとなり,2016年に開催された日本食品科学工学会第63回大会シンポジウムにおいて,「ミツバチ産品(蜂産品)を科学する〜化学,機能研究から産業活用まで〜」と題してシンポジウムを実施した。このシンポジウムでは,ミツバチ産品の化学から機能に関する最新の研究動向,産業利用の知見を提供することを目的として行い,大変好評であった。これを踏まえて本稿では,ミツバチ産品として特にローヤルゼリー,プロポリスに関する基本的事項と我々の得た健康機能研究の成果を紹介する。

新しい機能性食品として茶の花のハチミツの可能性

斎藤 貴江子(SAITO Kieko),中村 順行(NAKAMURA Yoriyuki)

緑茶は,日本の代表的な農産物でありその機能性が世界的に広く認められている嗜好品である。その主要成分には,渋みを呈するカテキン,苦みを呈するカフェイン,そして旨みを呈するテアニンがある。その他に,ビタミンCをはじめとするビタミン類やカリウム,カルシウムなどの無機成分も含有している。近年,茶葉の生体機能性に関する多くの研究が報告され,茶の多用途利用もすすんできたが,茶の花に関する研究はあまり多くはない1)。茶の花は,5枚の花弁を持つ白い小さい花で見る機会も少なく,雌しべの根元で黄金に輝く花の蜜を知っている人はおそらくいないだろう。著者は,研究目的であった茶樹の養液による栽培過程2)で茶の花の蜜が非常に甘くおいしいことに気づいた。茶の花のハチミツがあったらおいしいに違いないと思ったが,市場には茶の花のハチミツは出回っていない。通常,茶の花は9月下旬頃より霜が降りる頃まで開花する。この時期に,ミツバチが訪花する様子を見ることができる。ミツバチは茶の花が好きなよう見えるが,何故,茶の花のハチミツはないのだろか。
 著者が調べた結果は,次の2点であった。ひとつは,茶生産者側の都合である。茶の花が咲くと言うことは,茶園の栄養が乏しく茶樹の根が弱り活力がない状態である。一般的に植物は寿命が尽きる前に花を咲かせて子孫を残すことが知られている。従って花が多く咲いて生命が危うい状態の茶樹の茶葉の品質が良いわけがない。管理が悪い茶園であることを暗黙に示すことになるから,茶生産者は施肥をして花が咲かないように管理している。また,1番茶以降も茶葉は摘採され栄養生長が続くため,花芽が育たないことも花が咲き乱れる茶園がない理由である。茶のハチミツがないもう一つの要因は,養蜂家の都合である。養蜂家は,いつの頃からか茶の花を嫌うようになった。それは,『茶の花はミツバチを病気にする』という曖昧な言い伝えがあるらしい。30年以上も前に,この問題を研究した論文があるが明確な結論は得られていない3,4)。実際ミツバチの活動期と茶の開花の時期は異なり,蜜源植物の少ない秋期の積極的な養蜂は行われていない。結局,茶の花とミツバチの関係は未だ明らかになっていないのである。
 実際に,茶の花の蜜とミツバチは相性が悪いのだろうか。この疑問を明らかにするために,自分で茶の花からハチミツを採ってみることにした。まだ未知の領域である茶の花の蜜に惹かれ,著者の探究心から始まった茶の花のハチミツに関する成果と若干の知見を本稿で紹介する。

解説

β-グルカンの分子量解析技術の開発と水溶性食物繊維品質の考察

渡部 保夫(WATANABE Yasuo)

穀類の細胞壁などに多く含まれる「水溶性食物繊維β-グルカン」の機能性は,研究者や企業人に注目されるようになって久しいが,消費者一般に広く認知されているとは言い難い。β-グルカンなどの食物繊維をいま以上に摂取することが人の健康にとって大切であることに間違いはないので,β-グルカンの機能性をより一層アピールしつづけていくことが肝要である。一方,β-グルカンをキーワードする健康機能性食品(商品)を販売する上で,新たなコンセプト(キーワード)も必要となってきている。β-グルカンの「質」も考慮すべきであると言われており,この質を高めた「高機能性β-グルカン」を新たなキーワードとした商品も,今後展開されると推察される。本稿では,β-グルカンの機能性,β-グルカンの質(高分子量),分子量の解析技術,実際の応用例,商品開発の例などをご紹介したい。

— 知っておきたい日本の食文化 その8 — 豊かで便利な食生活を享受するために

橋本 直樹(HASHIMOTO Naoki)

 これからの社会において,食べることにはどのような意味や価値があるであろうか。私たちは食料とどのように関わり,食べるということにどう向き合っていくことになるだろうか。
 私たち日本人は第2次大戦後の深刻な食料不足を解消するために,化学肥料と農薬を活用して食料の大増産を行い,それでも足りない食料は海外から大量に輸入して補ってきた。米食に偏った栄養バランスの悪い食事を改め,肉料理,乳製品の多い洋風の食事を摂って,栄養状態を改善し,世界一の長寿国になった。家庭での料理作りの負担を軽減するために,便利な加工食品や即席食品が数多く開発された。毎日の献立が和風,洋風,中華風と日替わりで変わる日本の家庭料理の豊かさ,多彩さは世界に比類がないと言ってよい。誰もが豊かで,便利な食生活を享受できるようになったのである。
 誰でも,いつでも,どこでも食べたいものが食べられる豊食の時代が到来したのは,欧米先進国においても,我が国においても20世紀半ばのことである。それまで人類は誕生以来200万年,絶えず食料不足に悩まされていた。誰もが欲しいだけ食べられるということは,かつては願っても適えられなかった素晴らしいことなのであった。しかし,それから半世紀余を経るうちに,私たちは豊かな食生活に慣れて,食べ物の大切さを忘れ,食べることをいい加減にするようになったのである。

連載

デンマーク通信 デンマークのクリスマス料理

Naoko Ryde Nishioka

 12月になるとデンマークではクリスマス色がいっそう強くなってきます。秋を迎えると急激に寒くなり,12月になると太陽の出ている昼間がとても短くなり,ときには零下になることもあり,デンマーク全土で寒くて暗いとなります。そんな中,(唯一の?)楽しみといえばクリスマス。街中は電飾で賑やかになり,デパートや街の商店,オンラインストアまで,クリスマス商戦で賑わいます。デンマークはキリスト教が国教ですが,日本の仏教のように,熱心な信仰国というよりは,文化や習慣に根付いている側面が強いようです。そのキリスト教に由来するする,アドベントは,クリスマス前の4回の日曜日を祝う習慣です。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
キダチアロエ Aloe arborescens Mill.(ユリ科Liliaceae)
[APG分類体系: ワスレグサ科Asphodelaceae(ススキノキ科Xanthorrhoeaceae)]

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)

風が吹き始める頃,関東南部,伊豆半島,房総半島の暖地を歩いていると,民家の庭で多数の赤橙色の花をつけ肉厚の葉をもった植物を見かけます。キダチアロエAloe arborescensは主に観賞用,食用として栽培され,暖地では冬でも戸外で育ちます。「木立ち」の名の通り茎が伸びて立ち上がり,成長するにつれて枝は多数に分岐します。本植物は昔から俗に「医者いらず」といわれてきたもので,葉の外皮は苦味が強いのですが,内部のゼリー質はさほど強くありません。葉肉には健胃整腸や下剤効果があり,便秘解消に良いといわれています。また,傷や火傷に外用することもありますが,体質によっては胃炎や大腸の色素沈着を起こし,傷や火傷を悪化させることもありますので注意が必要です。キダチアロエは,南アフリカ原産で江戸時代,日本へ渡来し,現在では各地で普通に見ることができます。一般に「アロエ」と呼ばれる植物はツルボラン亜科アロエ属の総称で,現在までに300種以上が知られ,南アフリカ共和国からアラビア半島まで広く分布し,古くはアロエの「ロエ」を漢字で音訳(当て字)した「蘆薈」の読みを変えた「ろかい」と称しました。

新春随想

Life with Nutrition  てるこ先生のこころの栄養学 -蚕からの贈り物-

中村 照子(NAKAMURA Teruko)

秋の気配がすっかり濃くなり始めた小雨降る朝,そろそろ依頼されていた原稿を書かなければと考えていました。部屋の空気を入れ換えるために窓を開け,庭先の木の葉に,静かに滴る小さな雨の雫をぼんやりと眺めながら,今回はパソコンではなく気持ちの入る,手書きにしてみようと思い立ったのです。
 机にしまった原稿用紙を探していると,引き出しの奥の方から一本の古いボールペンが出てきました。綺麗なブルーの外観が美しく,細身の割にはずっしりと重く,よく見ると私の名前が刻まれています。少し薄くなってきてはいるものの,確かに私の名前を確認できます。これは十数年前にバイオレオロジー学会から論文賞受賞の記念に副賞としていただいたものであることを思い出し,愛おしくそのボールペンを両の手で包み,少しの間,感慨に浸ってしまいました。そのボールペンで思いつくままの文字を白い紙の上に,走らせてみました。なめらかな書き心地と胸の奥から湧き出てくる高揚した気持ちと共に,自分が研究に没頭していた頃を想い出し,何とも懐かしく瑞々しい記憶が甦ってきたのです。
 今から遡ること20年,私はある決意をしていました。それまで続けていた一連の蚕研究をまとめて博士号を取得したいと強く願うようになり,当時40代後半にして何とも大きな目標を掲げてしまったのです。とはいえ一介の実験助手の立場ですし,さしたる経歴もなく,もちろん研究費も研究時間も無い,無い無い尽くしの上,家庭もある,受験生もいる・・どうしようかと迷う日々を過ごしていました。

本稿の本文中に出てくる論文タイトル名と論文画像が間違がっておりました。申し訳ありません。修正したPDFを下記よりダウンロードしていただきますようお願い申し上げます。

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組織の活性化と人材の育成~ ―新年を迎えるにあたって~自分を見つめ直そう―
Improving the working environment and nurturing human resources:
―Looking back at the start of new year―

坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi)

大晦日が明け,新年を迎える頃の東京は,車の往来も少なく,空気も澄んでいる。誰にも邪魔されず,一人きりになれる時である。職場での重労働やストレスから解放され,思いっきり,自分を見直すことができる。それは,座禅,茶道,自然の中での散策と似た感覚である。この忙し過ぎた一年間,果たして自分らしく生きることができたであろうか?静かに目を閉じ,呼吸を意識して,今行っていることや感じていることに心を向けよう。この「マインドフルネス」という考えは,自分の使命,自分らしく生きる方法,さらには,ストレスのない,より健康な生活を教えてくれる。