New Food Industry 2017年 6月号

食品中の好気性芽胞菌とその簡易同定

東 量三,監修:宮尾茂雄

 本論文は今から55年前,1962年10月号の本誌に掲載されたものである。著者は,当時,東京都小平市にあった農林省家畜衛生試験場(現動物衛生研究所)で研究されていた東量三先生である。私の卒論研究も先生のところで行わせていただき,大変貴重な経験となった。その結果,大学4年のほとんどを先生の研究室で過ごすことになった。当時,細菌の同定は形態観察や生化学性状検査が中心で,加えて細胞壁の脂肪酸組成などの化学分析による検査手法の研究も進められていた時代である。近年,細菌の同定は,PCRやシークエンサー等を利用した遺伝子解析によることが主体であるが,形態や生化学性状が同定の基本であることには,現在においても変わらない。
 好気性芽胞菌は食品や食品製造環境から頻繁に分離される微生物であることや耐熱性であることから食品産業においては厄介な微生物の一つである。先生は,蒐集された約700株の好気性芽胞菌を対象に,様々な性状を調べられ,主に培地上の生育形態や数種類の生化学性状のパターンを解析することによって簡易に同定できることを提唱された。それ以後,食品の好気性芽胞菌の簡易同定を行う際に,本論文は頻繁に参考にされてきた。しかし,出版された当時の論文に誤植があったため,先生もそれをずっと気にされていた。一方,細菌検査を行っている技術者からも,本論文の再掲載を求める声が出版社に届いていた。そこで,今回,当時の論文の誤植を手直した上で,再度,掲載することとなった。本簡易同定法は50年以上を経過した今においてもその有用性は失われておらず,東先生に対しては心から敬服する次第である。

ふなずし由来乳酸菌(Lactobacillus Buchneri SU-6)の性状と
米培地培養物のプロバイオティクスとしての機能性

前田 浩明,恒川 洋

 近年,腸内菌叢のバランスの改善を介して我々の健康に良い影響を与える微生物および,それ等の培養物を含む食品がプロバイオティクスと呼ばれて,健康の維持増進のために広く普及している。それらの菌は,主にBifidobacterium属やLactobacillus属等であり整腸作用に始まり,免疫力の強化,感染予防等,様々な効果が報告されている。また今日,著しい進展を見せているヒトと常在菌との共生関係を解き明かすヒトマイクロバイオーム研究から示唆されている腸内細菌叢と疾患の関係では,腸内細菌の生息部位である消化管ばかりでなく,脳を含めた遠隔の臓器や組織の病態とも関係することが明らかになってきている1, 2)。
 伝統的な発酵食品は,通常1g当たり1億個程度の発酵に関わる微生物菌体や代謝産物が含まれており,保存食であり嗜好食品であると同時に体にポジティブな効果をもたらすことが体感されることから重用され,選抜されて,継承されているプロバイオティクスである。滋賀県の代表的な伝統的発酵食品に,なれずしの一種のふなずしがある。ふなずしは滋養食・保存食であると同時に,正月や祭りなどのハレの日の特別食であり,時には健康回復のための健康食として活用されている。著者らは,滋賀県高島市の老舗のふなずしの漬け米から新規乳酸菌を分離,同定し登録すると同時に,米培地による大量培養に成功した。その乳酸菌の性状と培養物のプロバイオティクスとしての機能性を報告する。

分析値の品質保証と分析法性能評価

松田 りえ子

顧客の依頼を受けて行った分析の結果(分析値)は製造物である。製造物を提供する場合に,その品質(スペック)を定めてそれを示し,さらに示した品質が保たれていることを保証することは,通常に行われている行為である。製造物が,表明した品質を満たしていない場合や,品質のばらつきが大きい場合には,その製造物への信頼は失われる。製造物の品質の保証の中には,その品質が得られる製造法の検討と確立,その製造法を管理下において逸脱がないように監視すること,製造物が品質を満たしているかの確認が含まれている。分析値は一見「物」とは見えないが,その品質保証の考え方は同じである。
 分析値においての製造法はサンプリング法と分析手順であり,監視はこれらの手順を守ることの他,分析環境を一定に保つこと,使用する試薬の管理,機器のメンテナンス,あるいは分析者の教育も含まれる。しかし,分析値の品質の確認は簡単ではない。分析値の品質を定義するのは簡単で,真の値に近い確率が高ければ,品質の高い分析値,真の値との差が大きい,あるいは真の値との差が一定していなければ,品質の低い分析値である。分析依頼された試料の分析目的となる特性(量,濃度等)の真値は未知である。既知であればそもそも分析は依頼されない。従って,その分析値と真値の差も未知であり,品質が良いか,品質がスペックを満たしているかも未知であるから,品質を確認することはできない。
 一般の製造物では,そのものの測定可能な特性(大きさ,重さ,色等)を評価すれば品質が分かることが多く,例えば抜き取り検査を行ってその結果を品質の評価,品質の管理・保証に利用することができる。品質(真の値にどれだけ近いか)を知ることが困難な分析値では,品質の管理・保証に別の方法を用いなければならない。そのために,分析法の性能評価,内部品質管理,標準手順書の作成,不確かさの推定のような手法が考案されてきた。これらが実施され,決められた規準を満たしている証拠を示すことにより,間接的に分析値の品質が保証される。
 本稿では,分析値の中でも,食品に関わる分析値の品質あるいは品質保証についての,現在の枠組みとその問題点,分析法の性能評価について解説する。

新健康食品素材「ホヤ由来プラズマローゲン」の機能性について

大川原 正喜

 脳機能活性化および認知症予防を謳う健康食品は多数上市されており,2016年の市場は200億円を超えている1)。対前年比では10%を超える高い成長率を示しており,今後も高い成長率が期待される。一方,製品の有効成分としてはドコサヘキサエン酸(DHA),イコサペンタエン酸(EPA),イチョウ葉エキス等が主で新しい素材が求められている。本稿では当社が開発したホヤ由来プラズマローゲンオイルについて概要を述べたい。

ヒメマス飼料への魚油添加効果

酒本 秀一,佐藤 達朗

 前報1)で中禅寺湖産天然親魚と中禅寺湖漁業協同組合(以下,漁協と略記)で油無添加飼料を与えて飼育した養成親魚を用いて種苗生産を行うと,養成親魚の受精卵で発眼率が低いことを説明した。その原因として飼料中の脂質や色素量の不足による魚体の蓄積脂質,必須脂肪酸,色素量等の不足が疑われた。また,油無添加飼料で飼育したヒメマスを試食すると中禅寺湖で甲殻類を中心とする天然餌料を食べて育った天然魚に比べて味にコクが無く,パサパサしている事も分かった2)。
 これらの問題点は飼料に油や色素を添加することによってある程度解決出来る可能性が有ると考え,脂質の量的,質的改善と味の改善を目的とし,飼料への油添加効果を調べた。試験は3回行い,試験-1で飼料に添加すべき油の種類,試験-2で添加すべき油の量,試験-3で油添加飼料を長期間与えて成熟させた養成親魚と中禅寺湖産天然親魚の体成分組成を比較した。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

スイカズラ Lonicera japonica Thunberg(スイカズラ科 Caprifoliaceae)

白瀧 義明

 梅雨の晴れ間,山歩きをしていると何処からともなく,あまい香りが漂い,あたりを見渡すと黄色と白色の花をいっぱいつけた蔓性の植物を見かけることがあります。これがスイカズラです。本植物は日本,朝鮮半島,中国,台湾に分布し,道端や林縁など,やや湿り気のある場所によく生育する常緑の蔓性木本です。5〜7月頃,花は2個並んで咲き,芳香がします。花は独特の形をしており,筒状の5枚の花びらのうち4枚は合生して上側に反り返り,1枚は下側に曲がり込んでいます。見方によっては手のひらのようで親指以外の4本がくっついて上に反らし,親指を下に広げたようにも見えます,花は,はじめ白色ですが徐々に黄色くなり,一つの枝に白色と黄色の花を同時に付けることから,金銀花(キンギンカ)とよばれます。「スイカズラ」の名は「吸い葛」の意で,古くは花を口にくわえて甘い蜜を吸うことが行なわれたことにちなみ,甘いものの乏しかった頃は,砂糖の代わりとして用いられていたようです。

デンマーク通信

デンマークでは寿司が人気

Naoko Ryde Nishioka

今回はデンマークのお寿司にまつわる話を紹介したいと思います。
 お寿司は,世界各国で受け入れられている日本食の代表格だと思いますが,デンマークでも例外ではありません。デンマーク人の健康志向に後押しされるかのごとく,寿司は,デンマークでは大人気で,その浸透率は,日本人もびっくりするくらいではないでしょうか。
 例えば,スーパーには,お寿司を家で作れるように,SushiRice(通常はジャスミンライスやバスマティライスのような細長い種のコメが通常なので,日本米のような,もちもちとしたお寿司に適したコメをSushiRiceとして販売してる)が売られているし,街を歩けば,SUSHIと看板を掲げるレストランや小さな食堂をよくみかけます。またRUNNING SUSHIという看板を見かけることもありますが,それは回転ずし屋さんのことで,日本と同じように,コンベアーベルトに乗った寿司を売りにしています。また,お総菜売り場には,すぐに食べられるようにパックになっているお寿司の詰め合わせもあります。これらは,コペンハーゲンや都市部に近いところでは,当たり前のように目にする光景で,寿司という食文化が,いかにデンマークに浸透しているかということを表している証でしょう。

ギリシャワイン 発見の旅へ −Discovery-Journey of of the Greek Wine−

深澤 朋子,坂本 静男

 2016年6月20日に東京,22日に大阪で,エンタープライズ・ギリシャおよび駐日ギリシャ大使館の共催により「ギリシャワイン マスターワインセミナー2016」が開催された。講師は,ギリシャからマスター・オブ・ワインの称号をもつコンスタンティノス・ラザラキス氏。この日プレゼンテーションされたワインは白ワイン6種類(うち甘口ワイン1種類含む),赤ワイン5種類の合計11種類,7地域におよんだ。ギリシャワインとフランス,イタリアの有名産地とのワインの比較による講義は,とても密度の濃い内容であった。
 ギリシャには個性あるバラエティ豊富なワインが各地域に存在する。その生産量は2014年で290万ヘクトリットル。世界で17番目となっている。赤ワインと白ワインの比率は約1:2,圧倒的に白ワインの生産の比率が多い。従前は国内消費が中心であったが,世界のワイン市場を意識しアペラシオンを取得,体系的に整理されてきたギリシャワインについて紹介する。

国際的コミュニケーション能力の重要性(4)
―「中国料理」に見られる日本と中国における嗜好の相違―
―difference in the palatability of Chinese cuisine between Japan- and China―
―日中两国在中餐上嗜好的不同―

坂上 宏,肖 黎,戴 秋娟,大石 隆介,神崎 龍志

Abstract
 Chinese cuisine from China has been arranged according to the taste of the Japanese, and has made quite different "Chinese cuisine". By importing abundant natural resources and food stuffs from China and combining them with traditional Japanese cuisines, we can create a healthy and tasty menu.

 中国的饮食文化从中国传入日本之后,依据日本人的味觉和嗜好进行了改造,由此形成了一种似是而非的日式中国菜则 “中华料理”。“中华料理”以由中国国内进口的丰富的天然资源和食材与日本的传统料理的合理搭配,使既健康又美味的菜谱成为可能。

 中国から伝わった中国料理は,日本人の好みに応じてアレンジされ,全く異なる「中国料理」を作り上げてきた。中国から豊富な天然資源や食材を輸入し,日本の伝統な料理と融合させることにより,健康的で味わい深いメニューを生み出すことが可能である。