New Food Industry 2017年 4月号

解 説 浮遊糸状菌類の分布調査を寒冷地農業に生かす試み その1
灰色カビに注目したバイオバーデンと施設栽培

富樫 巌,寄谷 明香,菅野 良平,山本 将平,後藤 静香,藤原 彩

 著者らは,食用キノコ栽培施設における環境微生物の把握や薬剤耐性菌(糸状菌類)防除に取り組んできた1-7)。キノコ栽培に注目すると,原木を用いたシイタケの露地栽培を除けば冷暖房設備を有する施設栽培が主流である。閉鎖空間でほぼ単一作物を栽培することから,栽培施設内の微生物汚染状況の確認や環境殺菌などキノコ生産に悪影響を及ぼす害菌・雑菌への対応が求められる。
 一方,簡易ハウスを用いる野菜類の周年栽培においては,圃場栽培がベースになっているためか,または夏季にハウスの側面などを一部開放するためか,栽培環境中の微生物分布に配慮する発想や環境殺菌による微生物制御の取り組みがみられない。旭川市郊外の田園地帯には,暖房設備を有する簡易ハウスで葉物野菜の周年栽培を行なう幾つかの事業所がある。その事業主の中には農業専従者に加えて2次産業(工業分野)の兼業者もおり,旭川高専として情報交換や連携の場があった。そこで,野菜類の施設栽培農業にキノコ栽培の施設管理の考え方を導入することができれば,栽培作物の安定生産へ寄与する可能性があることを提案した。

小麦ふすまペプチドによる非アルコール性脂肪肝炎の改善効果
Wheat-Bran Autolytic Peptides Improve Non-alcoholic Steatohepatitis

川口 巧,上野 隆登,野方 洋一,古賀 浩徳,鳥村 拓司

要旨
 非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis; NASH)はメタボリック症候群における肝臓の表現型である。NASHは高率に肝硬変や肝がんへと進展しうるため,NASHに対する有効成分の開発は急務である。これまでに,小麦の摂取はメタボリック症候群のリスクを低下させることが疫学的研究より明らかとなっている。また,近年,我々は,小麦ふすま自己消化物より抽出した2種類のペプチド(leucine–arginine–proline [LRP], leucine–glutamine–proline [LQP])が生物学的活性を有することを明らかにした。今回,我々はこれら2種類のふすまペプチドをNASHマウスモデルに投薬し,その有効性を検討した。解析の結果,いずれのペプチドにおいてもnon-alcoholic fatty liver disease(NAFLD)activity scoreの有意な改善を認めた。NASH改善のメカニズムを検討したところ,LRP投与群では酸化ストレスの軽減に関わる還元能が亢進していた。他方,LQP投与群では細胞内インスリンシグナルを調節するAMP-activated protein kinase (AMPK)の活性化が認められた。以上より,小麦ふすまより抽出したLRPとLQPは,酸化ストレスとインスリン抵抗性の軽減を介してNASHを改善したと考えられる。

ツブ貝の毒

村上りつ子,野口 玉雄

 貝類は美味で栄養価も高く,四方海に囲まれているわが国では,古来より好んで食されてきているものであるが,時に毒をもつものもあり,時折食中毒を引き起こす。
 貝が持つ毒には,餌となるプランクトンが産生する麻痺性貝毒や,下痢性貝毒などがあり,これらを貝が外因的な食物連鎖で体内に蓄積したものをヒトが食し,中毒が発生する場合があるが,もともと貝が生合成して保有すると思われる内因性の毒もある。そのひとつがツブ貝などの肉食性巻貝が保有するテトラミンである。麻痺性貝毒や,下痢性貝毒による貝の毒化については,最近では,貝の生産地などでの毒のモニタリング調査により貝の毒化の情報が得られるようになり,食中毒の発生はあまり見られなくなったが,ツブ貝によるテトラミン食中毒はしばしば発生している。 
 ツブ貝は寿司ネタや酒の肴などに珍重され,特に好まれる食材の一つであることから,ここでは,ツブ貝が持つ毒「テトラミン」による食中毒について述べてみたい。

卵焼きロスを利用した新規発酵調味料の開発
特に味噌製造時の麹の基質としての再利用について

山崎 聡子,濱岡 直裕,佐藤 理紗子,石下 真人,舩津 保浩

 日本では,年間約1,700万トンの食品廃棄物が排出されているが,本来食べられるのに廃棄されているもの,いわゆる食品ロスは,年間約500~800万トン含まれていると推計されている1)。日本の総合食料自給率は約39%と先進国の中では最も低く,米やサツマイモを除きほとんどの食材を諸外国からの輸入に頼っている。また,世界の人口は現在約66億人から今世紀中に100億人を突破するといわれ,慢性的な食料不足が懸念されている。このような背景から,食品ロスの削減は日本だけでなく世界的に急務な課題である2)。
日本の食品関連事業者から食品ロスが出る理由としては新商品販売や規格変更に合わせた店頭からの撤去(定番カット食品)や製造過程での印刷ミス,流通過程での汚損・破損などによる規格外品の発生等があげられる1)。
 これまでに舩津ら3)はかまぼこ(赤巻き・昆布巻き等)製造中に発生するロス(規格外品)を発酵調味料の原料としてとらえ,ロスを魚肉と混合後,麹と醤油用乳酸菌を用いて魚醤油を製造した。その結果,約80%が液化し,呈味成分も従来の魚醤のみを用いた魚醤油よりやや少ないが,うま味成分は同等であること,かまぼこへの再利用も可能であることを明らかにしている。食品ロスは上記のかまぼこの規格外品以外にも様々な種類があるが,卵焼き製造工程でも焼き加減等の相違によりロスが発生している。しかし,その再利用に関する研究例は少ない。本稿では卵焼き製造工程で発生したロス(卵焼きロス)を原料として捉え,味噌を製造する際の麹の基質としての再利用について紹介する。

異なる水温で飼育したヒメマスの成長と体成分

酒本 秀一,佐藤 達朗

 ベニザケは幼魚時代に河川から湖に下り,湖で一定期間暮らした後海に下る二段階の特殊な降海行動を行う魚として知られている。このベニザケの陸封型が一般にヒメマスやチップと呼ばれる魚である。ヒメマスは姿形も良くて光り輝く様な銀白色を呈し,しかも美味しいので,中禅寺湖他幾つかの湖では釣りの対象魚として珍重されている。また,天然魚のみでは需要に対する供給量が不足しているので,養殖魚としても重要視されている。
 一般にヒメマスは低水温性の魚であるといわれているが,養殖特性には未だ不明な点が多い。そこで本試験では水温が異なる2カ所の養殖場でヒメマスを卵から成熟するまで飼育し,その間定期的に魚をサンプリングして成長状態と魚体成分の変化を調べた。

随 感 減圧フライ覚え書き

小谷 明司

 筆者は1970年代半ばから食品加工業界で40年間余りを過ごし,いくつかの加工技術の実用化を見聞した。その一つに減圧フライがある。導入期にはマスコミに華々しく取り上げられた。昨今は忘れられた感があるが,食品加工分野で一定の地歩を築いた。技術の陳腐化とともに歪曲された開発譚が流布することがある。減圧フライにもその向きがあるようだ1)。以下に筆者の見聞を書き留めておきたい。

◆特別寄稿

進化する南国酒家 ー新しいメニューをめざしてー

宮田 順次

Abstract
Nangokusyuka creates new dishes with plenty of food stuffs harvested at every seasons, tying up with prefectures nationwide, and offers delicious Chinese cuisines that suit Japan.

南国酒家は、全国の県と提携した様々な食材、また四季折々の食材をふんだんに取り入れた新しい料理を創造し、日本に合う、美味しい中国料理を提供する。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

イカリソウ Epimedium grandiflorum Morr. var. thunbergianum Nakai
(メギ科 Berberidaceae)

白瀧 義明

 4月,木々が芽吹き,山々が緑に染まる頃,山歩きをすると淡い赤紫色で船の錨に似た花を付けた草本を見かけます。これがイカリソウです。本植物は主に本州の太平洋側から四国にかけての丘陵や山裾の雑木林などに自生する多年草で,高さ20~40cm,茎は数本そう生し,葉は紙質で裏面に毛があります。葉は長い柄をもち,3つに枝分かれした先に3枚の小葉のある1~3回三出複葉をつけ,小葉は側方と中央でやや形の異なる柄を持ち,卵状皮針形,辺縁には刺毛状の小きょ歯があります。

デンマーク通信

デンマークのオーガニック食品

Naoko Ryde Nishioka

 今回はデンマークのオーガニック食品(有機食品)にまつわる話を紹介したいと思います。
 日本食といえば,2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど,世界中から日本の食文化への注目が増しています。その背景の一つには,日本食は,健康的=ヘルシー,というイメージが後押ししているのではないでしょうか。一方で,日本人から見たヨーロッパの食事というと,フレンチやイタリアンなどは日本でも人気ですし,ドイツのソーセージや,スペインのハムなど,肉料理を中心とした,どちらかというとがっつり重い食事のイメージが強いのではないでしょうか。

酒たちの来た道

酒造りの文明史⑧

古賀 邦正

8.ワインとビール:近代後期の欧米日などの動きとワイン・ビールの変遷
 前回は18世紀後半の産業革命以降,19世紀末までの主にヨーロッパの動きとワイン・ビールの変遷について述べた。産業革命によって大量に作られたモノ中心の経済(資本主義経済)は利潤と市場を求めて世界を相手に一人歩きを始めたのが近代前期だった。
 今回は19世紀末から第一次世界大戦の終わりまでの近代後期についての世界の動きとワイン・ビールの変遷を概括したい。20世紀前半は戦争の世紀と言われるが,利潤と市場を求めて列強が互いに競い合った結果,2度の世界大戦へと突き進んだ。この激動の時代のなかてワイン・ビールはどう変遷していったのだろうか?

エッセイ

「食」で世界交流

服部 津貴子

 諸外国との国際交流の中,出会ったのがギリシャのマスティハです。
 2007年にギリシャで「ギリシャの食に関する国際会議」が開催され,日本の食と地中海食についてのプレゼンテーションを行いました。国際会議は世界15カ国の食の関係者やジャーナリストらにギリシャのオリーブオイルやワイン他の食材を紹介する,国を挙げての一大イベントだったのですが,そこにマスティハも登場していました。マスティハは,日本ではほとんど知られていない食材でしたので,とても興味を惹かれました。