New Food Industry 2017年 2月号

Lactobacillus crispatus KT-11株の抗アレルギー作用
Anti-allergic effects of Lactobacillus crispatus KT-11 strain

大谷 元,飛田 啓輔

 近年,先進諸国ではアレルギー患者が増加傾向にある1)。わが国においても例外ではなく,図1に示すように,花粉症患者と食物アレルギー患者が激増している。このような,アレルギーを患う動物の割合はヒトだけではなく,ペットにも及んでいる。例えば,わが国における2011年度のイヌの累計飼育頭数は約2,154万頭であり2),ペットとして飼育されているイヌのアレルギー罹患率は,イヌ全体の約15%に上り,特にアレルギー性皮膚炎が小動物診療現場において多く観察されている3)。
 筆者らは,健常マウスの脾臓細胞培養系に於いてTh1優位に導く乳酸菌を健康な乳児の糞便を対象に探索し,その有望菌としてLactobacillus crispatusを分離同定し,その1菌株(KT-11株)の加熱殺菌凍結乾燥物がマウスの1型アレルギー,イヌのアトピー性皮膚炎,並びにヒトのスギ花粉症を軽減することを明らかにしたので,それらの結果を以下に述べる。

AHCC ®の多様な機能性 ~症例報告~

三栖 茉奈美

 AHCC®はActive Hexose Correlated Compoundの略称であり,シイタケ(学名:Lentinula edodes)の菌糸体を液体培養したものから抽出される植物性多糖類である。これまでに肝細胞がんや乳がんなどに関するAHCC®の基礎研究や臨床研究の論文が100報以上あり,現在AHCC®は健康維持や抗がん剤副作用軽減を目的に広く利用されている。なお,厚生労働省研究班の調査では,キノコ類でアガリクス(学名:Agaricus blazei Murill)に次いで日本のがん患者において利用頻度の高い健康食品としてAHCC®が挙げられている1)。
 これまでの研究成果から,AHCC®はがんの他に感染症や炎症性疾患などに対しても効果を有することが報告されている。また,AHCC®はこれまで多くのキノコ系健康食品で考えられているような単に免疫応答を賦活する作用だけではなく,過剰になった免疫反応を抑制し,免疫機能を正常化させるという免疫調節作用があることも明らかになってきている。
 本報ではAHCC®の概要およびこれまでに論文に報告されていない症例について紹介する。

納豆鑑評会における優秀製品(平成21~25年)は機能性成分が多い
−ナットウキナーゼ力価,ビタミンK2およびポリアミン含量について−

須見 洋行,内藤 佐和,矢田貝 智恵子,大杉 忠則,柳澤 泰任,丸山 眞杉,野呂 剛弘

要旨
 鑑評会で受賞した納豆のうち,65製品を使用し,ナットウキナーゼ力価(合成基質分解活性),ビタミンKおよびポリアミンの含量を測定した。いずれの納豆も遺伝子操作を加えていない納豆菌で発酵させたものである。
 フィブリン平板法で確認した血栓溶解能,さらに合成基質分解法で測定したナットウキナーゼ力価(1.06±0.49 International Units/g wet wt.)は非発酵物に比べて著しく高いことが分かった。またビタミンK2は918±339μg/100g wet wt.,ポリアミンは5.43±2.70mg/100g wet wt.といずれも一般の納豆の値を超えるものであった。

食品添加物はなぜ消費者に嫌われるのか

藤田 哲

要旨
 海外の諸国に比べて,食品添加物は日本の消費者から忌避される傾向が強い。しかも食品添加物は安全性に問題があって,健康被害をもたらし,癌の原因になると信ずる人も少なくない。筆者は長年,食品添加物に関連した仕事に従事したが,それが忌避される理由が十分に理解できなかった。ここでは,食品添加物の有用性と利用の実態を述べ,またそれが忌避された原因について考察を試みた。

甘草フラボノイドの抗ヘルペスウイルス活性は,構造的・物理化学的特徴に依存する
Evaluation of Anti-HSV Activity of Licorice Flavonoids Based on QSAR Analysis

植沢 芳広,福地 邦彦,大野 裕和,山本 正次,加賀谷 肇,坂上 宏

Abstract
 Licorice flavonoids, especially liquiritin apioside, isoliquiritin apioside, and lucurzid, showed potent anti-herpes simplex virus (HSV) activity. QSAR analysis demonstrated that the anti-HSV activity of nineteen flavonoids including those from licorice showed nice correlation with the molecular polarity, ionizing potential, molecular size and the number of ring structure (r2 > 0.6, p < 0.0001). This result suggests that the physicochemical properties, rather than the category of compound, are important factors determining anti-HSV activity.

要旨
 甘草由来のフラボノイド,中でも,liquiritin apioside, isoliquiritin apioside, lucurzidは高い抗ヘルペスウイルス(HSV)活性を示した。QSAR解析により,甘草含有成分を含む19種類のフラボノイドの抗HSV活性は,分子の極性,イオン化ポテンシャル,分子サイズおよび環構造数に関連する記述子と良好な相関を示すことが明らかになった(r2 > 0.6, p < 0.0001)。この結果は,フラボノイド類の抗HSV活性が,構造的なカテゴリーを超越した構造的・物理化学的特徴に依存することを示唆する。

加熱過程における澱粉の融解および包摂複合体形成とin vitro消化性への影響

川井 清司

加熱過程において食品中の温度は上昇し,水分蒸発が促される。このとき,食品中では様々な物理的性状変化が起こり,最終的な製品の品質を決定付けている。こうした挙動を理解し,制御することで,食品の品質設計が可能になる。本稿では,筆者がこれまでに行ってきた研究の中から,澱粉の糊化(融解)および包摂複合体形成とin vitro消化性との関係について紹介する。

デンマーク通信

デンマークのポーク

Naoko Ryde Nishioka

 今回はデンマークのポーク(豚肉)にまつわる食文化について紹介したいと思います。
日本のスーパーマーケットで豚肉を買うとき,産地に注目してみると結構デンマーク産の豚肉があるものです。デンマークの豚肉産業は実はかなり大きく,小さな国デンマークですが,EU内では豚肉輸出量でトップであるほどです。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

フクジュソウ Adonis ramosa Franch.(キンポウゲ科 Ranunculaceae)

白瀧 義明

 お正月の縁起物として,新年にヤブコウジなどと一緒に植えられた鉢植えを良く見かけますが,関東で地植えのものが花を付けるのは2月中旬からです。フクジュソウ(福寿草)の名は春一番に咲くおめでたい花ということから名づけられたようで,別名をガンジツソウ(元日草)ともいい,旧暦の正月(元日)頃に花が咲いたことに由来します。フクジュソウ属植物は日本にはフクジュソウ,キタミフクジュソウ,ミチノクフクジュソウ,シコクフクジュソウの4種があるとされ,これらはシベリア東部,中国,朝鮮半島,日本に分布し,フクジュソウは北海道から九州にかけて自生しています。

ILSコラム

社内ボランティアによるレバーHiの摂取試験 

知っておきたい日本の食文化 その七 世界に誇れる日本の家庭料理

橋本 直樹

 明治維新になり,日本の社会は「文明開化」をスローガンにして欧米の先進文明を積極的に吸収し,殖産興業,富国強兵の近代化路線を歩み始めた。食生活においては欧米の肉料理を滋養のある進歩的なものとして受け入れることが近代化の始まりであった。欧米を視察して帰朝した福沢諭吉は「西洋衣食住」を著して,西洋風に肉を多く食べる食事をすれば日本人の貧弱な体格を改良できると推奨したが,肉食は容易には普及しなかった。
 なぜならば,日本には奈良時代から千二百年もの間,殺生を禁じる仏教戒律を守り,肉食は忌むべきもの,穢れたものと考える意識が広く定着していたからである。そこで,それまで日本人の食生活を拘束してきた肉食の禁止令を解くために,明治4年,宮中で率先して肉食を解禁し,天皇の食事に牛肉,羊肉を使い,在日外国人高官を招く天長節祝賀の晩餐会にはフランス料理を出すことになった。このことが新聞で報道されると,たちまちいくつかの府県で肉食奨励の布告が出されたのである。

食材による幼若永久歯破折と再生歯内治療

増田 宜子,横瀬 敏志,坂上 宏

Abstract
 Tooth crack and fracture were crucial damage for the tooth fate. Infection of the oral bacteria into the pulp caused the pulpitis and apical periodontitis, especially for the immature tooth. This time we focused on the fracture of the central nodule of the mandibular second premolar, which was still immature tooth, and the new therapy, regenerative endodontic procedure (REPS), which revives the pulp vitality and root development.

 食材の形や大きさ,硬さが様々に現代人の健康に影響を及ぼしている。ほっそりした下顎の小さい顔貌は好まれるが歯並びはあまり良くない。こうした下顎骨の縮小も現代人の食生活の変化に伴うものであろうと考えられている1, 2)。どのような食材を日頃よく食べるかは唾液の分泌量や脳への刺激において大変重要である3)。噛むことは脳機能の活性化に寄与すると考えられる。噛み応えのある食材によって歯根膜からの刺激が脳へ伝わることは良く知られている。歯周病で歯が欠損すると認知機能低下が起こるという報告がある4)。食材をよく噛んで食べることは認知症予防からも大切である。食材による脳への刺激は噛み込んだ時の歯根膜からの刺激以外にもある。

ニジマスの肉色改善-4

酒本 秀一

 これまでに行った試験でマダイの場合にはオキアミミールあるいは合成アスタキサンチンを添加した飼料に魚油を添加すると体表色素量の増加が少なくなることを明らかにした1)。原因として魚油の添加によって摂餌量が減少することや,色素の吸収率が低下すること等が考えられたので調べたところ,確かに与える飼料を従来の配合組成と異なる物に急に切り替えると摂餌率が減少するが,これは一時的な現象で,暫くすると新しい飼料に慣れ,普通の摂餌率に戻ることが分かった。よって,この現象の原因は飼料への魚油添加によって飼料に含まれる色素の吸収率が抑制されることが原因ではないかと推測した。

◆特別寄稿 不老長寿に役立つ食品

尾崎庄一郎

要旨
 長寿遺伝子Klotthoが二糖類と共に働いていることがわかった。その二糖類の構造を明らかにした。その結果グルコサミン,コンドロイチン,ヒアルロン酸は二糖類の前駆体であり,不老長寿と密接に関係していることがわかった。グルコサミン,コンドロイチン,ヒアルロン酸を含む食品である魚の丸ごと,魚,豚,鳥の軟骨などが,健康,不老長寿に役立つ食品である