New Food Industry 2015年 10月号

クリスパタス菌KT-11株の食品としての機能性と安全性について

飛田 啓輔,渡邉 樹,黒﨑 晃彦

 クリスパタス菌 (ラクトバチラス・クリスパタス) は,哺乳類の消化管をはじめ,膣や口腔内に常在する乳酸菌の一種である。一般的に,膣内優勢細菌であるクリスパタス菌は,通常分娩では出産の過程において新生児の消化管に移行し,速やかに腸内細菌叢を形成すると考えられている。一方,帝王切開で誕生した乳児は,経膣分娩で誕生した場合と比較して,感染症やアレルギーの発症リスクが高まることが知られている。これは,帝王切開分娩では膣内優勢細菌であるクリスパタス菌の母子間伝播が成立しないことに起因すると考えられる。すなわち,母子間伝播により受け継がれたクリスパタス菌は,新生児の感染症やアレルギー発症リスクを低減することが推察できる。そこで,著者らは母親から受け継ぐクリスパタス菌が,免疫力を調節する優れた力を有しているとの仮説に基づき,通常分娩により誕生した健康な乳幼児の腸管に常在するクリスパタス菌を検索したところ,感染症やアレルギー症状を強く改善するKT-11株を見出した。本稿では,これまでに得られたクリスパタス菌KT-11株の食品としての保健機能に関するデータを中心に,抗アレルギー作用,抗インフルエンザ作用,歯周病の改善作用,および安全性について紹介する。

アルカリ抽出米胚乳タンパク質中のPBS(塩化ナトリウム含有リン酸緩衝液)可溶性分画の免疫調節機能
Immunomodulatory function of a PBS (phosphate buffer containing sodium chloride)-soluble fraction in allkaline-extracted rice brain proteins

大谷 元,齊藤 雄飛,田附 里菜,藤井 幹夫

 近年,食品成分の有する生活習慣病をはじめとした疾病予防機能が注目され,それらの機能をヒトで科学的に証明した食品にその機能を表示できる食品(特定保健用食品)がわが国では法律により許可される仕組みが出来ている。
 特定保健用食品の有効成分は,私たちが日常摂取している天然界の食物中のものでなくてはならず,大豆タンパク質や牛乳タンパク質およびそれらの消化により生じるペプチドを原料にしたものは皆無ではない。しかし,米タンパク質やそのペプチドを原料にしたものは皆無であるばかりではなく,米タンパク質やその消化物の免疫調節機能をはじめとした保健機能に関する研究報告は殆どないのが現状である。  
 そのような現状に鑑み,筆者らは先に完全栄養で飼育している健常マウスに,牛乳全カゼイン,牛乳ホエイタンパク質濃縮物,大豆タンパク質又はアルカリ抽出米胚乳タンパク質を1日あたり5 mg胃内に5週間直接経口投与したときの免疫機能を比較検討した1)。その結果,大豆タンパク質を投与することにより自然細胞性免疫系が他のタンパク質を投与した場合よりも顕著に強くなること,並びに牛乳タンパク質の投与は獲得免疫系に対して他のタンパク質を投与した場合よりも顕著に抑制的に働くことが示された。しかし,アルカリ抽出米胚乳タンパク質の投与では,特徴的な免疫系の変化は確認できなかった。その要因として,米胚乳タンパク質は溶解性により,水溶性のアルブミン,塩可溶性(塩化ナトリウム含有リン酸緩衝液,PBS)のグロブリン,エタノール可溶性のプロラミンおよびアルカリや酸可溶性のグルテリンに大別され2),特にプロラミンとグルテリンの消化液に対する溶解性が極めて低いことやプロラミンの消化性が極めて低いこと3)などに起因することが考えられた。

澱粉質食品に及ぼすトレハロース添加の影響
The Effect of Adding Trehalose to Starch Based Foods

平尾 和子,高橋 節子

Abstract.
After being cooked and gelatinizing, as time passes, the hardness, whiteness, and syneresis rate of starch based foods increases and retrogradation sets in. Confectionary that is cooked using flour that contains starch, or contains starch itself, is prepared by using sugars, which help to suppress retrogradation and limit the amount of damage caused when cooling or freezing. In this study it was decided to examine the effect that partly or completely substituting sucrose with trehalose has on the physical properties and sensory evaluation of warabimochi (bracken starch cake), kuzukiri, kuzumochi (kudzu starch cake), dango (sweet dumplings), mushi-yokan (steamed sweet bean jelly), imo-yokan (sweet potato jelly), biscuit, muchi-kasutera (steamed sponge cake) and pie filling. The effect that using trehalose has on preventing retrogradation and reducing damage when cooling, freezing and defrosting the confectionary was also measured. The results of the findings showed that when trehalose is added to starch based foods retrogradation when cooling or freezing is dramatically reduced, compared to when sucrose is added. However, the level of effectiveness differs not only depending on the amount of trehalose added, but also on the type of starch and the amount of used, water amount and preparation method.


 澱粉は,地上では穀類,種実類や樹幹に,地下ではイモ類などの植物の根に蓄積する貯蔵炭水化物である。植物の種類,生育する土壌や気象条件により,澱粉粒の大きさ,アミロース含量,アミロペクチンの鎖状分布が異なり,それに伴って膨潤力・溶解度,透明度,糊化および老化特性などの理化学的性質に違いが生じる。
 澱粉は,加水加熱すると澱粉粒が吸水・膨潤後糊化して粘性を生じ,高濃度では冷却するとゲル(gel)を形成する。また,水分を用いず油脂で炒めることによりデキストリンが生じるなど,調理・加工面では重要な食材であり,食品の骨格を形成するのに大きく関わっている。このような澱粉を含む食品,すなわち澱粉質食品を調理する場合,澱粉と水だけを使用することは珍しく,澱粉の他にタンパク質,脂質を含む食材や糖類,醤油などの調味料を加えることも多い。糖類は食品に甘味を付与するだけではなく,物性の改変や老化防止機能を目的として使用されている。近年,食品の冷蔵および冷凍保存が日常的に行われるようになり,澱粉質食品も例外ではない。澱粉質食品の品質を損なわないためには,冷蔵および冷凍・解凍耐性の強い澱粉や糖の種類を選定する必要がある。
 トレハロース(α-D-glucopyranosyl α-D-glucopyranoside)は,グルコースがα-1,1結合でグリコシド結合した二糖類で,シイタケ等のキノコ類やエビ・海藻等の食品に含まれる。トレハロースの製造法については多くの研究が行われてきたが,澱粉に2種類の酵素を作用させて直接トレハロースを製造する方法が近年開発され,安価で高純度のトレハロースを大量生産することが可能となった1)。

イカリ消毒 presents 食品衛生の今 最近の動向から衛生管理を考える

一般異物混入防止対策の今

尾野 一雄

 2014年末から2015年の頭にかけての異物混入騒動で,今までになく異物混入に注目が集まってきている。実際には,健康に影響を及ぼさないような異物混入や明らかに他の商品に影響がなく単発クレームで終わりそうな異物混入であったとしても,回収している事例が多く見られる。確かに,企業存続を考えると製品回収も致し方ないことかもしれないが,健康危害がない異物混入で製品回収し,その製品を廃棄する(再利用もあるのかもしれないが)ことは現状の日本の食品事情からすると問題を感じる。それは,廃棄量低減,自給率アップなどの活動にブレーキをかけることになっているのではないかということである。しかし,これはそれほど単純なことではないのかもしれない。消費者意識,企業存続,環境保護,自給率など様々な問題が入り組んでおり,一企業,一個人の力ではいかんともしがたい問題だと感じる。ただ,だからといって考えることをやめてしまっては,先には進めない。筆者がこのようなことを書くことは差し出がましいような気もするが,折角の機会であるので現状の異物対策について考えてみようと思う。

サツマイモ葉身中のカフェオイルキナ酸類分析法の単一試験室での妥当性確認とその活用

佐々木 一憲,沖 智之,奥野 成倫

 サツマイモ(Ipomoea batatas L.)は痩せ地でも良く育ち強風にも強いため,日本では重要な救荒作物として江戸時代には飢饉の際に大いに活躍し,現在では北海道から沖縄まで広く栽培されている。サツマイモの塊根部はミネラル,ビタミンなどの栄養バランスが非常に良く,さらにポリフェノール成分,あるいはカロテンなどが多く含まれており,準完全栄養食品と言われている1)。また,サツマイモの塊根部は青果としてのみならず,焼酎などのアルコール類やでん粉,加工食品などの原料として幅広く利用されている。
 一方,サツマイモ茎葉部はアジアやアフリカ諸国,日本では沖縄地域において食材としての利用はあるが,葉身部にはえぐみや青臭さがあるため2),今日の日本での食材としての利用は限られている。しかし,九州沖縄農業研究センターで開発された品種「すいおう」3)(図1)は葉身部のえぐみや青臭さが少ない良食味を特徴としており,茎葉部の食用に適している。また,生育が旺盛なため年数回の収穫が可能であり,1アール当たり1トン以上収穫されることが報告されている4)。

エネルギー密度に注目した食事の選択 ― デンシエット(Densiet) ―

奥村 仙示,多々納 浩

 果実や野菜には,カロテノイド類やポリフェノール類などの特徴的な機能性成分が含まれており,体内へ吸収された後,酵素阻害や遺伝子発現などに影響を与えるだけでなく,活性酸素種やスーパーオキサイド(O2–)やヒドロキシラジカル(OH)などのフリーラジカルに直接作用し,生体調節機能に関与していると考えられている。活性酸素種(ROS)やフリーラジカルのいわゆる酸化ストレスによって,タンパク質,脂質,遺伝子などの生体分子が損傷され,心疾患やガン,アルツハイマー病などの神経疾患など多くの慢性疾患を発症すると考えられている。生体には,活性酸素種を消去するためスーパーオキシドディスムターゼやカタラーゼなどの防御機構が備わっている。一方,病原体除去などの生体防御においては活性酸素が重要な役割を果たしており,健康維持には活性酸素のバランスを保つことが重要である。
 食品抗酸化能の測定法は,酸素ラジカル吸収能(ORAC)法,血漿中の鉄減少能(FRAP)法,2,2-di(4-tert-octylphenyl-)-1-picrylhydrazyl (DPPH)法,Trolox®等価抗酸化能(TEAC)法などがある。ORAC法はPriorらにより開発され,比較的簡便に測定することが可能であることから世界的に最も多用されている抗酸化能測定法の一つである1)。また,ORAC法はポリフェノール類などの親水性の物質を評価することが可能なhydrophilic-ORAC (H-ORAC) と,ビタミン E や カロテノイド類 などの親油性物質を評価する lipophilic-ORAC (L-ORAC) がある。ラジカル発生剤2,2'-Azobis(2-amidinopropane) dihydrochloride (AAPH)を用いてペルオキシラジカルを発生させ,分解されるフルオレセインの蛍光強度を経時的に測定し,試料がフルオレセインの分解を抑制する能力を標準物質Trolox®当量として算出する方法である。

国産果実への抗酸化評価(H-ORAC)法の適応 ― 国産果実のH-ORAC値と果実成分の関係 ―

庄司 俊彦

 果実や野菜には,カロテノイド類やポリフェノール類などの特徴的な機能性成分が含まれており,体内へ吸収された後,酵素阻害や遺伝子発現などに影響を与えるだけでなく,活性酸素種やスーパーオキサイド(O2–)やヒドロキシラジカル(OH)などのフリーラジカルに直接作用し,生体調節機能に関与していると考えられている。活性酸素種(ROS)やフリーラジカルのいわゆる酸化ストレスによって,タンパク質,脂質,遺伝子などの生体分子が損傷され,心疾患やガン,アルツハイマー病などの神経疾患など多くの慢性疾患を発症すると考えられている。生体には,活性酸素種を消去するためスーパーオキシドディスムターゼやカタラーゼなどの防御機構が備わっている。一方,病原体除去などの生体防御においては活性酸素が重要な役割を果たしており,健康維持には活性酸素のバランスを保つことが重要である。
 食品抗酸化能の測定法は,酸素ラジカル吸収能(ORAC)法,血漿中の鉄減少能(FRAP)法,2,2-di(4-tert-octylphenyl-)-1-picrylhydrazyl (DPPH)法,Trolox®等価抗酸化能(TEAC)法などがある。ORAC法はPriorらにより開発され,比較的簡便に測定することが可能であることから世界的に最も多用されている抗酸化能測定法の一つである1)。また,ORAC法はポリフェノール類などの親水性の物質を評価することが可能なhydrophilic-ORAC (H-ORAC) と,ビタミン E や カロテノイド類 などの親油性物質を評価する lipophilic-ORAC (L-ORAC) がある。ラジカル発生剤2,2'-Azobis(2-amidinopropane) dihydrochloride (AAPH)を用いてペルオキシラジカルを発生させ,分解されるフルオレセインの蛍光強度を経時的に測定し,試料がフルオレセインの分解を抑制する能力を標準物質Trolox®当量として算出する方法である。

健康食品のエビデンス 第6回 柿 渋

濱舘 直史

 渋くて食べられない渋柿は,干して乾燥させることで甘くて美味しい干し柿になります。なぜ,干しておくだけで渋柿の渋味が消えて甘くなるのか,幼いころに不思議に思ったものです。今ではこのことについて,強い渋みを感じさせる成分は「タンニン」と呼ばれ,この渋味成分は唾液に溶け,口腔粘膜のタンパク質と結合して変性させることによって,痛みに近い渋味を感じさせる。そして,タンニンは干して乾燥させることで,縮合して重合度を増す。これによって,唾液に溶けなくなり,渋味を感じさせなくなるとともに甘味を強く感じるようになると理解しています。
 渋柿を甘く美味しく食べるためには,渋味成分のタンニンは取り除きたい悪役となりますが,タンニンと聞くと,赤ワインの渋味を連想されるワイン好きの方もいらっしゃるのではないでしょうか。タンニンが多いワインは「ボディのある」「充実した」などと表現され,フル・ボディと呼ばれます。ブドウの皮,種,熟成用の樽にもタンニンは含まれます。タンニンはカテキンやロイコアントシアニンなどを構成成分とする高分子化合物です。白ワインは熟成することで,黄金色から淡い褐色に変化しますが,これはロイコアントシアニンが酸化されることによるものと考えられています。赤ワインも熟成すると,カテキンやロイコアントシアニンなどが縮合することによって不溶性コロイドを形成します。これによって,瓶底に茶褐色の沈澱ができ,渋味がとれて滑らかな味わいとなります1)。

野山の花 -身近な山野草の食効・薬効
サネカズラ Kadsura japonica (L.) Dunal (マツブサ科 Schisandraceae)

白瀧 義明

 埼玉県坂戸市から毛呂山町へかけての武蔵丘陵の山々を歩くと,植林された杉林の樹下に冬でも青々としたつる性の植物をよく見かけます。これがサネカズラです。ヒメカズラ,ビンツケカズラ,ナメラカズラ,トロロカズラなどの多くの方言がありますが,これらはその用途から名づけられたものです。用途とは鬢付け,すなわち,主に日本髪を結う時,おくれ毛を止め,髪のかたちを固めるのに用いる整髪料としての用途です。つるを水に浸し,その粘液で鬢付けし光沢を出したそうです。従って本植物にはビナンカズラ(美男葛)というなかなか粋な別名もあります。

中国の食材 食効・薬効 No.2
夏バテに効く 緑豆湯(りょくとう)

生 宏,坂上 宏,白瀧 義明

 緑豆(リョクトウ)はマメ科の一年草,ササゲの一種で,八重生(ヤエナリ)の種子のことです。インド,ミャンマー原産で,青小豆,八重生などとも呼ばれます。緑豆自身は生薬の一つで,ビタミン・ミネラル,食物繊維や葉酸が豊富に含まれ,薬膳でもよく使われています。
 日本では夏バテ防止の食べ物はうなぎや梅干しなどですが,中国では,昔から「緑豆湯」を食べる習慣があります。夏バテは中国語で「中暑」(zhòng shǔ)と書き,日本語では「暑さに当たる」という意味です。緑豆はどの家庭でも常備食材で,特に夏場には不可欠な食材となっています。緑豆で作ったものは「緑豆湯」のみならず,緑豆の豆乳,もやし,あずきバーのような棒付きの緑豆アイスキャンディーや緑豆春雨などもあります。台湾では,緑豆茶と緑豆洗顔料もあります

組織の活性化と人材の育成〜
Improving the working environment and nurturing human resources :
−信頼される営業をめざして ~当社営業部の人材育成への取り組み~

大泉 浩史

高度情報化時代に突入し,老若男女誰しもが気軽にインターネットを利用し,スマートフォンでモノが買えるようになったが,当社は対面販売をメインにした販売網を持ち,その中で国民一人ひとりの健康増進に取り組んでいる。そのためにどのような営業であるべきなのか,当社独自の育成方法によって人材育成を行っているので,今回はそれを紹介する。

特集◆牡蠣エキス Oyster Extract

カキ肉エキス生理活性成分の機能解析とその有効利用

武田 厚司,玉野 春南

要旨
 カキ肉は世界中で食用に用いられている一方で,その貝殻は漢方薬の材料として使用されている。ボレイ末は主成分が炭酸カルシウムであり,処方例として,安中散,桂枝加竜骨牡蠣湯,柴胡加竜骨牡蠣湯などに使われている。また,カキ肉エキスを配合する栄養サプイメントは広く利用されている。すなわち,カキ肉には亜鉛,銅,セレンなどの必須微量元素,スーパーオキシドディスムターゼ,カタラーゼ,グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素など,栄養素のみならず生理活性物質が豊富に含まれている。本稿では,カキ肉エキスなかの生理活性成分として,細胞内シグナルファクターとして注目されている亜鉛の脳機能に対する作用に焦点をあてて概説する。また,最近発見された新規抗酸化物質3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)の作用についても概説し,それらの有効利用など今後の展望を述べる。

牡蠣エキスの脂質低下作用 Hypolipidemic activities of oyster extract

田中 一成

Abstract
 Oyster, Crassostrea gigas, decreased cholesterol and triglyceride concentrations in serum and liver of SD rats, and their effects were thought to be in part exerted by taurine and lipid components such as n-3 polyunsaturated fatty acids and plant sterols. Feeding defatted oyster lowered serum triglyceride and liver cholesterol and triglyceride levels. Hypolipidemic activities of oyster may be ascribed to both the lipid and the non-lipid fractions. Oyster high-molecular-weight extract fraction hydrolyzed by proteases reduced serum cholesterol concentration, and oyster low-molecular-weight extract fraction effectively induced hypotriglyceridemic effect. Oyster and its extract improve lipid metabolism, and it shows promise in the development of novel physiologically functional food for preventing cardiovascular disease.


牡蠣は昔から世界各地で食されている貝類の一種で,欧米においても生で食されるなど,多くの人に好まれている。日本でも縄文時代頃から食べられていたようで,いくつかの貝塚からその殻が見つかっている。成分の特徴としては炭水化物やたんぱく質含量が比較的高く,炭水化物の50%以上をグリコーゲンが占め,たんぱく質に関しては必須アミノ酸を多く含んでいる。また,貝類の中では脂質含量が高く,カルシウムや亜鉛などのミネラル類も比較的多い。牡蠣をはじめとする貝類,イカ,タコ,エビなどのいわゆる魚以外の魚介類は,コレステロール(Chol)を多く含むことから,以前は血中Chol濃度を上昇させるとされてきた。しかし,これら魚介類は,量は少ないもののエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸を含有し,Cholの吸収を阻害する植物ステロールを含むものもある。牡蠣はこれら脂質成分に加えて,Chol低下作用を有するタウリンを多く含有している。これまでのいくつかの研究から,牡蠣はCholや中性脂肪(TG)濃度低下作用を有することがヒトや実験動物で報告されている1, 2)。しかし,脂質低下のメカニズムや低下に関与する成分については明らかではなかった。そこで著者は,牡蠣の脂質代謝改善の作用メカニズムと関与成分を解明することで,牡蠣のヒトの健康に対する有用性を明らかにすることを目的として研究を行った。

カキ肉エキス摂取の薬物惹起性疾病に対する予防・改善効果

細見 亮太,春松 槙,福田 卓,松田 芳和,福永 健治,吉田 宗弘

 日本全国で貝塚(台所のゴミ捨て場の遺跡)が見つかっており,貝類が縄文・弥生などの先史時代から食料としていたことがうかがえる。理由として貝類の多くの種が浅瀬に生息しており,動きも緩慢なために,魚類と比べると捕獲が容易であることがあげられる1)。また貝塚からカキ殻が出土しないところはほとんどないといってよく,中にはカキ殻ばかりで構成されている貝塚も少なくない1)。こうした例は,わが国だけではなく世界各地に散在する貝塚でも観察されている。このようにカキは食料として用いてきた歴史は古く,人類の栄養源として重要な役割を果たしてきた。
 日本では「桜が散ったら,カキを食べるな」,西洋では「"R"のつかない月はカキを食べるな」という諺がある2)。この5月(May)頃から8月(August)頃の間はカキが毒性を示すという理由ではなく,産卵期にあたり食べてもおいしくないことを意味している。カキの旬はグリコーゲンの蓄積と関係しており,特に1〜2月頃が旬となる3)。今では,冷凍カキが出回るようになり一年を通して口にすることができるようになった。

まるごと濃縮かきエキスTMによる皮膚機能低下の改善およびアルコール吸収抑制作用

佐藤 敬,友澤 寛,北村 整一,鍔田 仁人,山口 和也

要旨
 女性にとって永遠のテーマである美容に対して,タンパク質摂取低下と老化,アルコール摂取に及ぼす影響に着目し,『まるごと濃縮かきエキスTM(WOE)』の美容に対する有用性について評価した。低タンパク質食を摂取させ,皮膚機能が低下したマウスにWOEを摂取させたところ角層水分量,皮膚菲薄化(ひはくか)の抑制が認められた。さらに,アルコール負荷を行ったラットに対し,WOEを摂取させたところ,消化管におけるアルコール吸収を抑制した。本研究により,まるごと濃縮かきエキスTMは皮膚機能を改善し,美容促進に有効であることが示唆された。