New Food Industry 2015年5月号

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New Food Industry 2015年 5月号

低分子米ぬかアラビノキシラン(オリザロース®)の恒常性維持作用を介する体調改善効果

前田 浩明

要旨
 低分子米ぬかアラビノキシラン(オリザロース®)は紫黒米の果皮部を原料とする免疫強化作用を持つ機能性オリゴ糖として開発された。免疫力低下が原因と考えられる健康不安や栄養状態の改善に効果的な機能性食品として評価を受けている。免疫力の強化作用との因果関係を2-deoxy-D-glucose投与に対するストレス抵抗性による評価系で検討し,ストレスによる免疫機能の低下,即ちTh1細胞性免疫のダウンレギュレーションの抑制作用が認められた。この結果から,ストレス抵抗性による恒常性維持が自律神経の活性化に影響を与える可能性があると考え,代表的な体調不安である,睡眠と冷えの改善効果をそれらの不満を訴える成人女性を対象に検討した。睡眠関連はアンケート調査,睡眠中の心拍記録によるR波のゆらぎを介する自律神経の活動状況の検討を行い,睡眠障害の改善と睡眠内容の改善が認められると同時に自律神経の活性化が示唆された。冷えについては冷えに関するアンケートによって,身体の冷えや外気温の変化による冷えの体感程度の減少が認められるとともに深部体温の上昇が観察され,冷水負荷後の体温復活試験では体温復活速度が速まる結果が得られ,毛細血管の血行の促進作用が示唆された。オリザロース®のストレス抵抗性を免疫機能低下防止作用と自律神経強化作用で検討し,有効性を確認した。この結果からオリザロース®は恒常性維持に貢献し,体調不安を改善しQOLを向上させる作用があることが推定された。

分散ヘスペレチンの製造と特徴

宅見 央子

 ヘスペレチンは,柑橘類の果皮に多く含まれるフラボノイドの一種であるヘスペリジンのアグリコン(非配糖化部分)である(図1)。天然には,活性の中心と考えられるヘスペレチンに,グルコースとラムノースが結合したヘスペリジンとして存在している。
 ヘスペリジンは,血管壁を柔軟にし,血管透過性を改善する作用をもつ成分として発見され1) ,Permeability(透過性)の頭文字をとって,ビタミンPとも呼ばれている。ヘスペリジンは,漢方薬の陳皮(ちんぴ)の主成分でもあり,欧州では医薬品として使用されており,毛細血管の強化作用のほか,血清脂質改善作用や抗炎症作用などの多くの生理機能があることが報告されている2)。しかし,みかん缶詰のシロップを白濁させる原因物質でもあるように,水への溶解性が低いので,使用用途は限定されていた。
 現在までに,ヘスペリジンを食品に利用しやすくする試みが実施されている。サイクロデキストリン合成酵素により,ヘスペリジンにα-1,4結合でグルコースを転移させた構造である糖転移ヘスペリジンは,ヘスペリジンに比べて水溶性が著しく高く,食品に加工しやすい成分になっている(図1)。我々は,糖転移ヘスペリジンの血流改善作用に着目して研究を行ってきた。
その過程で,逆に,ヘスペリジンから骨格となる構造であるヘスペレチンを取り出した新しい素材の開発を目指し,分散ヘスペレチンの開発に至った。今回は,分散ヘスペレチンの製造方法,血中動態および冷えや血流の改善作用等の生理機能について紹介する。

キチンオリゴ糖ならびにキトサンオリゴ糖経口摂取による抗腫瘍および抗炎症効果
Anti-tumor and anti-inflammatory effects oforal administrations of chitin and chitosan oligosaccharides

東 和生,大﨑 智弘,村端 悠介,柄 武志,今川 智敬,伊藤 典彦,岡本 芳晴

要旨
 キチンオリゴ糖(NACOS)ならびにキトサンオリゴ糖(COS)は,それぞれキチンおよびキトサンを工業的に分解することで得られるオリゴ糖である。これまでに,NACOSおよびCOSに関して数多くの生体機能が報告されている。特に最近では,機能性食品としての利用に注目が集まっており,経口摂取による評価が行われている。筆者らはこれまでに,NACOSおよびCOS経口摂取の抗腫瘍効果ならびにCOS経口摂取の抗炎症効果を実験的に証明している。本稿では,その概要を紹介するとともに今後の展望に関して記述する。

イネ科植物含有成分“Tricin”による抗ヒトサイトメガロウイルス作用機序の解明
Study on action mechanisms of anti-cytomegalovirus activity by tricin of material in the rice family plants

村山 次哉

Abstract.
It has been reported that treatment with tricin (4’,5,7-trihydroxy-3’,5’-dimethoxyflavone), a material in the rice family plants, after human cytomegalovirus (HCMV) infection significantly suppressed infectious virus production in the human embryonic fibroblast cell line (HEL). In this paper, we examined the mechanisms for the anti-HCMV activities of tricin in HEL cells. Exposure of fibroblasts to tricin inhibited infectious HCMV production, with concomitant decreases in levels of transcripts of the CXC chemokine (CXCL11) gene. We also found that the transcripts of the HCMV immediate early (IE) gene and replication of HCMV were lower
in CXCL11 gene-knockdown cells. These results suggest that tricin is a novel compound with potential anti-HCMV activity and that CXCL11 is one of the chemokines involved in HCMV replication. In addition, it is possible that CXCL11 is the one of the targets of tricin of material in the rice family plants. It seems that this identified material as anti-virus food component is very attractive to development of health functional foods.


 我々の研究室では,生薬を中心とした代替医療薬の中から,抗ウイルス活性を持つ成分の検索を行っており,これまでにアフリカ・ケニアに自生する植物成分(トリテルペン骨格を有するPristimerin),種々の漢方薬の中では特に小青龍湯,およびクマザサ中の成分等が強い抗ウイルス活性を示すことを明らかにした1-3)。特に,イネ科植物のクマザサからの熱水粗抽出液とそこから分離・精製した5種の成分( trans-p-Coumaric acid,Vanillin,p-Hydroxybenzaldehyde,3-Hydroxypyridine,Tricin)が,DNAウイルスのヒトサイトメガロウイルス( Human cytomegalovirus:HCMV)および RNAウイルスのインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性を示す事を報告して来た 4, 5)。その成分の中でもフラボン誘導体である 4',5,7-trihydroxy-3',5'-dimethoxyflavone “Tricin”に強い抗ウイルス活性があることが明らかとなったので,ここでは主にtricinの抗HCMV活性とその作用機序について紹介する。
 Tricinは,クマザサの他に,米,小麦,トウモロコシ,大麦,ライ麦,ハト麦,サトウキビ,ススキ,ヒエ等多くのイネ科植物に含有されており,抗ウイルス作用 5),抗炎症作用 6),抗腫瘍作用等 7)の生理活性を持つ事が知られている。クマザサ(学名:Sasa albo-marginata)は,Gramineae familiesの一種で,日本や千島列島,サハリン島の一部に自生し,日本をはじめアジア諸国などでは古くから伝統的な民間薬および食物を包む材料として用いられてきた。また,クマザサの水溶性画分から得られた成分は抗腫瘍作用や抗炎症作用を有することが報告されている 8, 9)。このような生薬成分がもつ様々な生物活性を利用した補完代替医療に漢方薬があり,これらの成分の一つにフラボノイドがあげられ,多くの研究報告があるが,抗ウイルス活性についての詳細な研究は少ない。

イヌトウキの生物活性と今後の展望
Biological activity and future prospect of Angelica shikokiana Makino

坂上 宏,佐藤 和恵,金本 大成,寺久保 繁美,中島 秀喜,牧 純,白瀧 義明,三間 修,斎田圭子

Abstract.
Close inspection of previous reports demonstrated that both Angelica shikokiana Makino and Angelica Furcijuga Kitagawa showed comparable amounts of isoepoxypteryxin, suggesting that this substance may not be suitable for classification of these two plants. Angelica shikokiana Makino extract showed comparable anti-HIV activity with lignin-carbohydrate complex, and scavenged superoxide and hydroxyl radical as well as NO radical.

要旨
日本山人参は,セリ科に属する多年生植物であり,イヌトウキとヒュウガトウキの2種が知られている。過去の文献を精査したところ,これらはほぼ同量のイソエポキシプテリキシンを含むことが判明し,この物質は,2種の山人参の区別に有効ではない可能性が生じた。イヌトウキは,リグニン配糖体と同程度の抗HIV活性を示し,NOラジカル以外にも,スーパーオキシドアニオンおよびヒドロキシルラジカルを消去した。

高リグナン含有「リグナンリッチ黒ごま®」の素材紹介
− 焙煎油の抗酸化性とマイクロパウダーの香り分析 −

内田あゆみ

 ここ数年,胡麻といえば「ああ,セサミン」といわれるほど,大手企業の商品力の影響により,胡麻の機能性成分セサミンの名前は認知されてきた。ただ,世界各地において数千年にわたる食歴をもつ胡麻の種子であるが,機能性成分セサミン,リグナン類の研究はこの30年余りといわれ1),セサミンがリグナンという胡麻ポリフェノールの1つであるという消費者の認知度は低い。
 2007年以来,胡麻リグナンの含量が多いミャンマー産の黒胡麻の種子について,搾油,ペースト,マイクロパウダー(微粉末)等の素材展開をしてきたので,その素材の紹介と合わせて,焙煎胡麻,搾油の抗酸化性,香りの強い微粉末の香りの成分についても報告したい。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
カタクリ Erythronium japonicum Dence.(ユリ科 Liliaceae)

白瀧 義明

 皆様ご存知の片栗粉ですが,今ではバレイショデンプンの袋詰めが店先に並んでいることが多いですね。しかし,もとは写真のようにまるでバレーリーナが踊っているような花を咲かせ,春の妖精とでも言えるこの植物の鱗茎から得ました。手で引き抜くと茎の途中で契れてしまいますから掘り取ってデンプンを得るには大変な手作業が必要ですが,最近は山菜として地上部(葉)がスーパーマーケットなどで売れられています。若葉を熱湯にさっとくぐらせ浸し物,和え物にすると美味しいそうです。

健康食品のエビデンス 第1回 健康食品について考える

濱舘 直史

 この連載を通して、サイエンスを用いた「エビデンス」に基づきながら、健康食品について読者の皆様と一緒に考えていければと思っています。不足な点もあるかと思いますが、ぜひご意見などをいただきながら、連載を進めていけたらと思っています。記念すべき第1回目は、健康食品について大きな枠組で執筆させていただき、第2回より健康食品の各素材についてご紹介していきたいと考えています。

管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化 第3回 口腔環境と食事

中村 照子

五月,二十四節気ではもう立夏となります。そしてゴールデンウイークは楽しい休暇のはずですが何かと行事の多い月でもあり,あっという間に終わってしまいます。
 つい先頃,娘が結婚し,マザーブルーとでもいうのでしょうか,少し感傷的に子育てに関連した行事をあれこれ思い出していました。子供の日,お誕生日会,入学・卒業式,運動会,遠足,発表会,そして成人式などなど。こうした行事には祝膳やお弁当が欠かせませんでした。我が家にとって大イベントだった娘の結婚披露宴では,いっぱい泣かせてもらったおかげでせっかくのシェフの祝膳はほとんど食べられませんでした。それでも結婚式前夜には母として精一杯のささやかな祝膳を用意しました。娘の好物ばかりをたくさん食卓に並べ,バラバラで妙な献立ではありましたが母の気持ちを祝膳に込めたのです。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(13)
刺身・寿司からの感染が怖いアニサキスの予防策の背景となる基本的知見

牧 純,田邊 知孝,畑 晶之,坂上 宏,中村 円香,大西 俊輔,関谷 洋志,玉井 栄治,舟橋 達也

ABSTRACT
The infection of man with Anisakis spp responsible for the severe abdominal pain and measures to be taken for the prevention.

Jun Maki 1), Tomotaka Tanabe 2), Masayuki Hata 3), Hiroshi Sakagami 4), Sonoka Nakamura 1), Toshisuke Onishi 1), Hiroshi Sekiya 1), Eiji Tamai 1) and Tatsuya Funahashi 2)

1) Department of Infectious Diseases, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University;
2) Department of Hygienic Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University;
3) Department of Physical Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University;
4) Division of Pharmacology, Department of Diagnostic and Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry.

This paper describes the infection with Anisakis spp responsible for the abdominal pain and measures to be taken for the prevention.
Many Japanese people are daily infected with Anisakis spp belonging to the parasitic nematode after eating many kinds of the sea fish raw. Although this species is close to that of the human roundworm, there are a lot of differences between them. Most of the sea fish eaten in Japan will often harbor the larvae of the anisakis whereas the tuna fish are almost free from the infection problem.
When they are infested, their lavae will parasitize in our stomach for less than week. During the period, however, they are responsible for the severe abdominal pain.
Medical treatment for the anisakis infection remains to be established. The most important thing to be considered is the prevention from the infection. No raw fish frozen for 3 days and thawed, or heated or grilled fish are free from any problems caused by the anisakis nematodes.


要約
 現代日本の若い世代にとって,寄生虫は馴染みが薄い。年配の層には,最早過ぎ去った時代のイメージが濃厚である。せいぜい認識するところ,海外の衛生状態の芳しくないところに出かけ,日本にいる時と同じような気持ちで“生もの”を摂取した場合に感染すると思われがちである。しかし,現実には,現代の日本においても,寄生虫感染は少しも稀でないどころか,日常茶飯事である。お茶とか炊いた米飯では,もちろん問題がないが,おかずの海産魚介類で寄生虫に感染する危険がある。要は,寄生虫に対する認識が大切である。その典型例のひとつに,寄生線虫類に分類されるアニサキスがある。
 本筆者らは,海産魚介類を生食することで激しい急性腹症をもたらす本虫の感染に長い間関心を持ち,その感染源,症状,診療などに関して文献調査を継続してきた。この感染症は日本では昔から存在していたと推定されるが,感染源が多種多様の海産魚介類であることが判明したのは1960年代のことである。日本では刺身を好む人が多いので,特に気をつけねばならない。更に海外で日本食が好評を博している昨今,海外旅行者がよく出かける都市とか日本の都市と姉妹都市関係を結んでいる海外の都市などにおいて,現地の方々も警戒の念を緩めるべきでない。
 アニサキスの成虫は,同じく線虫に属するヒトの回虫(成虫はヒト小腸に寄生)と分類上は近縁で外見的な形態が似ているが違いも多い。海産魚の刺身・寿司などの日常的な生食でアニサキス幼虫の感染がおこり,激しい腹痛などに見舞われる。しかし,決して慌てるべきでない。ヒトの胃腸にも一時的に寄生するが,ヒトはこの寄生虫にとって好適な環境ではなく,その幼虫が人体内で成虫にまで発育することはない。実際には数日から1週間弱程度しか寄生していられない。
 その感染予防のためには,生鮮魚介類に関して言えば凍結融解した食材が望ましい。十分に熱を通したものなら問題はないが,少々酢に浸した程度では感染性は損なわれない。これは,本虫が何日間か胃酸に耐えられることからも想像される。
 症状が出たなら,そのような魚介類の生食を直ちに思い出して速やかに適切な診療を受けることが大切である。残念ながら,アニサキスに対する駆虫薬は未だに開発されていない。ふつうは胃内の虫体なら内視鏡で見つけて摘出することになる。胃腸,とりわけ腸管に寄生しているアニサキスに有効な治療薬の開発は,確かに重要な課題である。しかし,ヒトの胃腸内では長くても1週間しか寄生していられない事実に鑑み,対応の医薬品療法に虫体を殺すのではなくて腹痛を和らげて本虫の自然消滅に期待する選択肢も,地域によっては実際にありうる。

酒たちの来た道 酒造りの文明史②

古賀 邦正

 北半球で誕生し,ヨーロッパで育った主要な醸造酒はワインとビールだ。現代のワインとビールの基本的な製造法を図5-1に示した。ワインはブドウ果実を原料として発酵させた果物の醸造酒であり,ビールは主に大麦麦芽を原料とした穀物の醸造酒だ。果物の糖質は果糖,ブドウ糖,ショ糖であり,酵母がそのまま発酵することができる。一方,穀物の糖質はデンプンであり,酵母によって発酵させるには予めデンプンをブドウ糖や麦芽糖に分解しなければならない。
 ブドウは水不足に耐えることはできるが,厳しい寒さに弱く,日照時間が短いと糖度が上がらず,湿気が多いとカビによる被害を受けやすい。また,収穫した後も長期間の保存には耐えられない。麦は寒冷地に強いし,水不足にも耐えて生育する。収穫後も,乾燥した状態で置いておけば,長期間の保存に耐えることができる。

世界文化遺産ベームスター干拓地「ベームスターチーズ」の生産地を訪ねて
Beemster Polder (Home of Beemster Cheese) : A UNESCO World Heritage

深澤 朋子,坂本 静男

2014年夏,北ホラント州ベームスター干拓地を訪ねた。
 このベームスター干拓地は1609〜1612年に,当時世界経済の中心地として急成長中であったアムステルダムの投資家たちによって造られた最初の大規模干拓地である。果てしなく続くような広い平地に水路が張り巡らされ,風車のある光景はのどかで美しい。この地の牧草地で育った乳牛で作られた「ベームスターチーズ」は有名であり,オランダ王室ご用達の伝統の味となっている。
 今回,この干拓地の酪農家と伝統的な製造方法で上質の生乳から作られるチーズを製造するコノ社を訪問したので紹介する。