New Food Industry 2014年 10月号

コリアンダーの保健作用

芳野 恭士

 コリアンダー(Coriandrum sativum L.)はセリ科(Apiaceae)の植物で,主にその果実と葉が香辛料,葉菜あるいは薬味として使用されている。料理によっては,その茎や根も使用されることがある。日本ではあまり馴染みのない食材であったが,近年のエスニック料理の流行とともに摂取される機会も増えてきた。コリアンダーは果実や葉を乾燥して香辛料として用いるものを指すが,生葉はタイではパクチー,中国ではシャンツァイ,中南米ではシラントロなどと呼ばれている。
 コリアンダーの果実から得られる精油に含まれる成分としては,以下のようなものがある。主成分は,柑橘系芳香あるいは花様爽香を呈する含酸素モノテルペンのd-リナロールである1)。香気性の副成分としては,酢酸ゲラニル,ボルネオール,ゲラニオール,酢酸リナリル,デカノール,ネロール,イソボルネオール,ジヒドロリナロール,デヒドロリナロール,γ-テルピネン,ρ-シメン,カンフル,α-ピネン,リモネン,フェランドレン,cis-ジヒドロカルボン,γ-カジネン,ミロキシド,酢酸ネリル,オイゲノール,ミルセン,ネロリドールなどがある。脂質成分としてはトリグリセリド,ステロール,リン脂質が主であり,主成分の不飽和脂肪酸としてはペトロセリン酸(オクタデセン酸),リノール酸,オレイン酸,バセニン酸,パルミチン酸,リノレン酸,ステアリン酸が,副成分の飽和脂肪酸としてはヘキサデカン酸,テトラデカン酸がある。ステロールの主成分としてはスチグマステロール,β-シトステロールが,リン脂質としてはホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミン,ホスファチジルイノシトールが,また,糖脂質としてはアシル化ステリルグルコシド,ステリルグルコシド,グルコセレブロシドがある。アルデヒドやケトン類としては,トリデセナール,2-ドデセナールが含まれ,これは低濃度であれば柑橘系の香気を呈する2)。ミネラルとしては,カルシウム,マグネシウム,リンなどが含まれる。ポリフェノール化合物としてはカフェー酸,プロトカテキュ酸,グリシチン,ケルセチン-3-グルクロニド(ルチン)といったフラボノイド類がある3)。プロビタミンAであるカロテノイド類としてβ-カロテン,β-クリプトキサンチン,ルテイン,ゼアキサンチンが4),ビタミンEとしてトコフェロール,γ-トコトリエノールがある。その他の成分としては,2-C-メチル-D-エリスリトールグルコシド,タンニン,フィチン酸,食物繊維,メイラード反応生成物(褐変成分),エスクレチン,スコポレチン,7-ヒドロキシクマリン,キサントトキシン,5-メトキシプソラレン,モノテルペンアルコール,セスキテルペンなどがある。

おなか満足成分「アルギン酸ナトリウムとカルシウム」の満腹感に及ぼす効果確認試験

中野 愛子、川手 雄二、海老原 淑子

要旨
 おなか満足成分「アルギン酸ナトリウムとカルシウム」を配合した食品の満腹感に与える影響を,20歳以上40歳未満の女性30名を対象として,アルギン酸ナトリウムとカルシウム配合食品(被験食品)とプラセボ食品による二重盲検クロスオーバー試験にて評価を行った。朝食に代えて被験食品あるいはプラセボ食品を摂取させ,摂取前から摂取180分後までの満腹感,空腹感および食欲を自覚アンケート形式にて調査した。また,摂取前から摂取120分後までの血糖値を測定した。さらに摂取180分後に食事を自由に摂取させその摂取量を調査した。
 被験食品はプラセボ食品に比べ,摂取後の満腹感は高く,空腹感や食欲は低く,その作用の持続時間はプラセボ食品に比べて30分から60分程度長いことが示唆され,摂取180分後の食事摂取量が有意に減少することが示された。また,被験食品はプラセボ食品に比べて血糖値の急激な上昇を抑えることが示された。
 以上のことから,アルギン酸ナトリウムとカルシウムを組み合わせたダイエット食品は,満腹感を高めることができることから,ダイエット中の食欲を抑えるという心理的なストレスの少ないダイエット食品であることが示唆された。

色彩豊かなカラフルポテトの特徴と健康機能性

森 元幸、林 一也

 ジャガイモの2011年における作付面積は全国で83,100haであり,このうち「男爵薯」が15,130ha(18.2%)を占め,でん粉原料用の「コナフブキ」が13,716ha(16.5%),ポテトチップ用の「トヨシロ」が8,675ha(10.4%),「メークイン」が8,262ha(9.9%)と続いている。最近では家庭で消費される青果用ジャガイモは減少傾向にあるが,高い知名度を持っている「男爵薯」は消費者に神話のごとく定着しており,長い形で煮くずれの少ない「メークイン」も広く消費者に受け入れられている。これらジャガイモの代名詞のような2品種以外は,単に無名のジャガイモとして扱われることが多く,青果市場では裾もの扱いとなり単価は安い。新品種がいくら栽培しやすく多収であっても,既存品種と同等の価格で取引されなければ生産者の収益は向上せず,数多くの新品種が「男爵薯」の壁に敗れている。そこで従来の概念からは類推できないほどの衝撃により消費者の既存イメージを打ち壊し,消費の活性化を狙った挑戦の一つが,赤・紫・黄の肉色を有するカラフルポテトの開発である1)。
 1990年代以降,消費者の嗜好が多様化し,従来はモノトーンであった食品がカラフルになる傾向がある。一方で,消費者の健康と安全志向から合成着色料は忌避され,天然色素の機能性が見いだされるなど,赤や黄の色素を含有する野菜が新食材として注目されるようになった。カラフルポテトは,消費者のジャガイモに対する既存イメージを覆し,市場の活性化と新規需要の開拓を狙い開発されたものである。

もち性大麦粉の製パン特性

嶋田 幸治

 大麦は,トウモロコシ,小麦,米に次ぐ穀物であり,世界で年間約1億5千万トン生産されており,飼料用としての消費が約1億トン,残りの約5千万トンが食用として消費されている1)。ビール,洋酒など,醸造原料としての利用が主ではあるが,北アフリカや西アジアでは,大麦粉を使用した平パンとしても食されている。古代エジプトやローマ時代には主食として扱われていた穀物であり,粉状に加工し,主食のパンを焼いていた記録も残されているが,グルテンを含まないこと,発酵パンが出現したことによって,小麦粉の利用が主流となり,現代に至っている2)。
 日本では年間約20万トン生産されており,精麦された麦が,麦ご飯用の麦や味噌,焼酎原料として利用されている他,焙煎され麦茶として使用されている3)。
 近年の消費者の健康志向,生活習慣病や食物アレルギー疾患患者の増加などを背景に,大麦や雑穀は,栄養バランスの高い自然素材として,健康・美容・アンチエイジングなどに関心が高い人々に認知されている。中でも大麦は,米や小麦など,主食穀類と比較して,食物繊維,特に水溶性食物繊維(β-グルカン)を多く含有しており,厚生労働省が推奨する食物繊維の1日の食事摂取基準,成人男性19 g及び成人女性17 gの目標量に対する不足分を摂取できる有用な食品として期待されている4, 5)。
 食の多様化が進む中,従来の麦ご飯として利用だけではなく,パンやスープ具材としての利用も徐々に増えている。大麦の栄養機能性に関する研究は数多くあるものの6-8),大麦の調理特性や粉体特性,二次加工技術に関する研究は,少ないのが現状である。本稿では,水溶性食物繊維(β-グルカン)を豊富に含有しているアメリカ産もち性大麦に着目し,もち性大麦粉の製パンにおける生地特性および二次加工特性の研究について報告する。

甘味受容体の構造から読み解く甘味料の特性

日下部 裕子

 たいていの人にとって,甘い味のする食品はおいしい。甘味とは,カロリー源を心地よい味として認識するという動物としてのヒトが本来持ち合わせている能力による感覚である。人類は,古代より甘味に魅了され,何がどうして甘いのかを追求し続けてきた。近年になり,分子生物学や構造生物学など様々な科学の進展により,甘味料がどうやって甘味を発生させるスイッチをオンにするのかが解明され始めている。本稿では,増え続ける甘味料の種類も含め,甘味のスイッチである甘味受容体について,その歴史も併せて紹介したい。

原発事故に起因する放射性核種が有畜循環型農業におよぼす影響
Effect of radionuclides due to the accident of the Fukushima Daiichi
Nuclear Power Plant on the recycling agriculture including livestock

眞鍋 昇、高橋 友継、田中 哲弥、李 俊佑、田野井 慶太朗、中西 友子

Abstract.
Appropriate treatment of wastes of farm and pasture that has been contaminated with radionuclides due to the accident of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant has not yet been developed. To block the intestinal infectious diseases, we have developed the aerobic ultra-high temperature (more than 110 ℃) fermentation method. The fertilized wastes were used as compost to grow the crops. We examined the kinetics of radioactive cesium in the farm and pasture. The compost was contaminated with radioactive cesium (about 900 Bq/kg) . In the field of the University of Tokyo ranch, corn, soybean, eggplant, ginger etc. were cultivated in a hole of about one cubic meter dug and filed with the compost in there. We measured the radioactive cesium levels of roots, stems, leaves and fruits of these crops at each harvest time. Radioactive cesium levels in all sites of these crops were lower than 20 Bq/kg, which was lower than the reference value, 100 Bq/kg, in food. In conclusion, when the crops were planted using radioactive cesium contaminated compost (more than twice provisional tolerance of radioactive cesium contamination of compost, 400 Bq/kg), the radioactive cesium levels in each part of the crops was found to be low.

要 旨
 福島第一原子力発電所の事故による放射性核種で汚染された農場や牧場の廃棄物の適切な処理法が未開発です。私たちが腸管伝染病統御のために開発している好気性超高温発酵法にて農場や牧場の廃棄物を発酵させたものを堆肥として施肥して,作物を栽培し,放射性セシウムの動態を調べています。原発事故の発生した2011年春から夏にかけて行った栽培試験では,東京大学附属牧場の圃場に約1立方メートルの穴を掘り,そこに放射性セシウムで汚染した堆肥(約900 Bq/kg)を施肥して,トウモロコシ,ダイズ,ナス,ショウガなどを栽培し,各作物の収穫時期に根,茎,葉,実に含まれる放射性セシウムレベルを測定しましたが,作物の全ての採材部位において,放射性セシウムレベルは20 Bq/kg以下でした。これは食品中の基準値100 Bq/kgより低いものでした。暫定許容値(400 Bq/kg)の2倍以上の放射性セシウムで汚染した堆肥を用いて栽培した場合でも,作物の各部位に移行する放射性セシウムレベルは低いことが実証されました。さらに原発事故の次の年,2012年にも同様に栽培試験を行いました。堆肥の放射性セシウムレベルが約60 Bq/kgまで低下していて,これを用いた栽培試験の結果,収穫時期の各作物の全ての採材部位において,放射性セシウムレベルは検出限界以下でした。

組織の活性化
人との出会いと開発テーマ
Encounter with senior people and development of research project

山本 正次

Abstract
Since the entry into Maruzen Pharmaceuticals, a manufacturing company of plant extraction located in Hiroshima Prefecture, I have devoted myself in isolating the active ingredients from licorice, investigating their pharmacological actions and possible applications. At the initial stage of these research projects, I had collaborated with, and received nice suggestions, advices and ideas from senior researchers from many universities, research institutions and companies. Without them, recent progress of the company could not have been achieved.


私が,今から35年前に入社した丸善製薬株式会社は,広島県尾道市の本社を置く植物抽出物メーカーであり,入社した経緯は,たまたま大学の研究室の先輩の誘いであり,尾道が私の実家に近いということであり,会社の業務内容も知らなかったし,勿論,大学での研究テーマともかけ離れたものであった。その様な経緯で入社したに拘わらず,今まで,自分なりに人生の目標として仕事に打ち込んでこられたのは,多くの諸先輩方のアドバイスが頂けたことであり,生き様を目の当たりにし,目標とすることが出来たからであろう。丸善製薬という会社は甘草という漢方の王様的な植物を抽出し,食品や医薬品に利用して頂くという仕事を長くやっており,その利用方法を拡大していくというのが私の与えられた役割であった。その中での,人との出会い,商品開発の考え方について本稿で,多少なりとも紹介させて頂きたい。

クロレラ健康栄養研究会 第5回 誌上シンポジウム
機能性食品の現状と未来像に関する提言

対談者:阿部 啓子、石見 佳子、コーディネーター:島崎秀雄

マダイの体色改善-4

酒本 秀一

 著者はこれまでオキアミミールを主色素源とする飼料を用いてマダイの体色改善試験を実施してきた。その結果,供試魚の大きさによって投与色素量に対する体表色素量の増加割合が異なっていること,飼料に魚油を添加して与えると体色改善効果が劣る可能性が有ること等が分かった。よって今回は試験-1でオキアミミール添加飼料投与開始時の魚体重と投与色素量に対する体表色素増加量との関係,試験-2で合成アスタキサンチンの投与量と体表色素量の関係,試験-3で合成アスタキサンチン添加飼料への魚油添加が体表色素量の増加に及ぼす影響等を調べた。以下夫々の詳細を説明する。

社会システムにおける安全・安心・信頼(2)
−中国の食を巡る問題の複雑性とルーマンのリスク概念による分析−

三好 恵真子

ルーマンによる信頼理論は,信頼が果たす「社会的機能」に着目するという機能的分析がその基礎に置かれている14, 24)。ギデンズとルーマンは,ともに近代社会におけるリスクの回避/縮減のために設置された「信頼」システムを言及しているが,ギデンズが指摘するのは,「抽象的システム」(貨幣などの「象徴的通標(例えば貨幣)」と「専門家システム」への信頼)である26)。これに対し,ルーマンは,「社会的複雑性の縮減」という「信頼」の機能を検討し,近代における「人格的信頼」から「システム信頼」への重心の移動について考察している。
 ここでは,3の結果を踏まえ,「信頼」の側面から考察を試みるが,ルーマンが信頼を「誇張された情報」と捉えている点にも留意したい。なぜなら,「情報」との関連性において「信頼」を考察する際,情報がなければ基本的に信頼もあり得ないものの,完璧な情報と質とが備わっていることが必要条件ではない。つまり「信頼」は,一定の情報量を持っている状態における現象であるものの,対象を「信頼」する行為とは,その一定の情報量に賭けることを意味しているのである。

ベジタリアン栄養学
歴史の潮流と科学的評価
(第3節 ライフサイクルと特定の集団から見た,ベジタリアン食の適正度)

ジョアン・サバテ、訳:山路 明俊

 閉経は,出産能力の停止や肺がん,心疾患,骨粗鬆症のような様々な慢性疾患のおそれへの変化と関係しています66)。ベジタリアンと雑食者の閉経年齢には差があり,慢性疾患の違いにも関係しています。さらに,幾人かの女性は,閉経期には不快な症状を経験し(寝汗やほてり等の血管系神経症,躁鬱,不眠症,体重増加,頭痛,倦怠感),これらの症状は,異なる文化を持つ女性間では異なることが観察されます67, 68)。食事の変化がこれらの症状の違いに影響を及ぼすかどうかは明確にされてはいませんが,影響しているとの推測があります68-70)。ベジタリアンと雑食の女性との間には,いくつかの食事の違いがあります。そして,閉経の変化の定義を説明した後,閉経年齢と関係する様々な因子の研究が示され,閉経年齢がベジタリアンと雑食者では差があるのかどうかの問題が検討されます。また,閉経の症状に対する植物性成分の影響が論じられます。