New Food Industry 2014年 7月号

砂糖と併用する新規機能性甘味料:
希少糖含有シロップの糖代謝および脂質代謝の改善効果

木村 友紀、中村 雅子

 食生活の変化から生じる肥満とそれに伴う生活習慣病の増加は,世界中で大きな健康問題となっている。最近の国民健康・栄養調査によると,日本人のエネルギー摂取量に対する糖質のエネルギー比率は約60%を占めているので,糖質カロリーの適切な制御が健康増進,生活習慣病の予防に繋がると考えられる。
 一方で,和三盆などの糖で有名な香川県で産官学連携によって開発された希少糖は,生活習慣病を克服する様々な生理機能が認められている。特に,この希少糖の中でもプシコースによる糖代謝および脂質代謝の改善効果が多く報告されている。
 本稿では,幾つかの希少糖の紹介を行う。次に,プシコースを含むシロップとして抗メタボリックシンドローム対策として注目されている“希少糖含有シロップ” (商品名: 「レアシュガースウィート」 (Rare Sugar Sweet; RSS))の特徴について紹介する。

竹(孟宗竹)の有効利用を考える

一森 勇人

 日本が平和国家としての国際社会においてその責任を果たすためには,日本が自立することが必要である。明治以降の急速な欧米化による食糧,エネルギー消費量の増加が江戸時代の自給自足経済体制を崩壊させ,日本を対外戦争に駆り立て,東アジアを植民地化し,大東亜戦争の原因となった。日本の選択肢はそれしかなかったのであろうか?戦前,石橋湛山は日本の植民地政策を批判して加工貿易立国論を唱えた。戦後,石橋の策が正しかったことが証明された。戦争には敗れたが,日本は平和国家として存続できたのである。いま,TPPを中心に貿易が話題になっている。食料とエネルギーの自給をベースに,日本がいま為すべきことを検討したい。
 最近の農業白書ではカロリーベース食料自給率40%と同時に生産金額ベース自給率という計算式で算出した70%が併記されるようになった。自給率に関しては「重量ベースでの品目別自給率」「重量ベースでの穀物自給率」などが一般に知られている計算法である。これらの中で国際的に通用する計算方法は「重量ベースでの穀物自給率」なのであって,韓国と日本だけが,なぜかカロリーベース食料自給率を採用している。また,国内で二つの計算方法が登場した経過をみると,なんらかの作為を感じてしまう。食料自給率がはじめて発表されたのは1968年で,この時は生産金額ベース自給率であった。この計算方法では,非常に高率に算出される。ところが,牛肉やオレンジなどの貿易自由化交渉の頃,1983年になって,カロリーベース食料自給率という「低い値のでる」計算方法が公表されたのである。

紅茶の糖質消化酵素活性抑制作用および食後血糖上昇抑制効果

高見澤(内田) 菜穂子、鬘谷 要、矢澤 一良

 紅茶は茶の木(Camellia sinensis)を原料とし,茶葉の酸化酵素や加水分解酵素により茶葉成分に生化学的変化を生じさせることで作られる。この生化学的変化を発酵と呼び,この発酵が起こる事で緑色の茶葉が褐色に変化する1)。紅茶のなかでも,ダージリン,ウバ,キーマンは世界3大銘茶と呼ばれており,それにアッサムを加えた4種が日本では多く流通している。
 近年,糖尿病の予防・進展防止には食後の過血糖の是正が有用であることが臨床的に示されており2),α-アミラーゼやα-グルコシダーゼ(マルターゼおよびスクラーゼ)等の糖質消化酵素の働きを抑制する事により,糖質の消化吸収を抑制し,食後血糖値の上昇を穏やかにするという考え方が重要視されるようになってきている3-6)。紅茶はin vitroにおいて,α-アミラーゼ7-10)やα-グルコシダーゼ11, 12)等の糖質消化酵素の働きを抑制する事がすでに報告されており,作用成分に関する検証等,今後の検討が必要とされている。
 本稿では,まずin vitroにおいて紅茶24種の紅茶を用いて,紅茶の種類によるα-グルコシダーゼ抑制作用の違いを比較した。また,紅茶の抽出条件の違いがα-グルコシダーゼ抑制作用に及ぼす影響についても検討した。加えて,正常マウスに対する紅茶の食後血糖値上昇抑制効果について検討した。

ウシ初乳のマウスI型アレルギー軽減機能,並びに抗腫瘍機能
Anti-type I allergic and anti-tumor functions of cow's colostrum in mice

大谷 元,長谷川 実希,遠見 和幸,内田 健志,山口 博史

 哺乳類は,多量の抗体を始めとする生体防御タンパク質を母乳(乳汁)を介して新生仔に与える。与えられた生体防御タンパク質は,母動物が生息している環境の病原性生物を認識したものが中心であり,新生仔の能動免疫系が成立するまでの間,新生仔の感染防御に寄与する。なお,母乳は受動生体防御タンパク質だけではなく,能動免疫の発達を調節する多種多様なタンパク質も含んでいる1)。
 乳汁の中でも,食品として世界的に最も多く利用されているのは牛乳である。牛乳の成分組成は泌乳期により異なり,分娩後1週間以内の乳を「初乳」,泌乳期終了間近の乳を「末期乳(乾乳)」,初乳と末期乳の間の乳を「成熟乳(常乳)」と呼んでいる。ウシの新生仔は,胎仔期に母親から生体防御タンパク質を受け取ることができないために,すべての生体防御タンパク質を乳汁を介して受け取る。そのために,受動生体防御タンパク質や能動免疫調節タンパク質は初乳に特に高濃度で含まれる1)。したがって,食品としての牛乳に栄養機能だけではなく,生体防御機能も期待するならば,常乳よりも初乳を対象にする方が合目的である。
 しかし,わが国では,厚生労働省が1951年に施行した「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」により,分娩後5日以内の乳は食品や栄養補助食品としての利用が制限されている2)。
 そこで,筆者らは,食品として利用できる,分娩後6日目および7日目のウシ初乳から調製した脱脂粉乳(以後,本拙文では便宜上,“後期初乳”と呼ぶ)に注目し,その生体防御機能の解明を目指して研究を行っている。
 本拙文では,後期初乳のマウスパイエル板細胞培養系におけるマクロファージとヘルパーT細胞の分化に及ぼす影響に関する研究成果,後期初乳を添加した飼料での飼育がマウスのI型アレルギー症状と免疫機能,およびメラノーマ細胞の肺への転移と免疫機能に及ぼす研究成果を紹介する。

酵素食品の製造方法について

馬上 元彦

 果実,野菜類等の種々の植物原料,あるいはそれらのピューレないしはジュースを高濃度の糖類とともに漬け込んで植物の酵素を抽出した製品,さらに醗酵させた製品は酵素食品と称される。酵素食品はかなり以前から愛好家向けの健康食品として特殊な販売経路で販売されていたようだが,最近になって通販ルートで一般消費者をターゲットとして新聞,テレビ,インターネットを通して積極的に広告宣伝され,製品の形態も醗酵原液をペースト状に加工したものから飲料,錠剤,顆粒等の高次加工品が市場投入されるに至った。その結果,一般消費者への認知度も上がりテレビ番組でも取材されるに至っている。酵素食品分野の総売上額は2012年度時点で300億円を越えると推測されている1)。
 本稿では酵素食品の製造方法についての情報を総覧するとともに,筆者の試作を通して得た知見も紹介し,酵素食品の製造方法の一般的な原則および酵素食品そのものについて考察してみたい。

ウィスキーは考えている(4)貯蔵工程とエタノール/水の愛憎劇(前編)

古賀 邦正

 ウイスキー成分には揮発性成分もあれば不揮発性成分もある。揮発成分は空気中に漂いやすいのだから,主に香りに関与する。不揮発成分は樽のオーク材由来成分という事になるが,これも素晴らしい熟成香を持っている。人は匂いに対して敏感なため,わずかに空気中に漂っている不揮発成分も感知できる。
 一方,味はどうだろうか。発酵学の泰斗,坂口謹一郎先生は熟成した酒の味を「美徳を備えた味」と評しておられる。味に関しては,不揮発成分の寄与が大きいため,ウイスキー不揮発性画分の味に興味がわくところだ。しかし,これが何とも地味な味なのだ。「わずかに渋く,かすかにほろ苦く」という感じで,美徳の味とはほど遠い。
 そこで,関心はウイスキーの量的主成分であるエタノールの味に向かう事になる。貯蔵している間に,エタノールが荒々しい味から美徳を備え,円熟した味に変化するのではないだろうか?しかし,そんな事があるのだろうか?

マダイの体色改善-2

酒本 秀一

 前報1)で以下の点を明らかにした。
 ・マダイはオキアミミールの色素を吸収し,体表に蓄積することが出来る。
 ・オキアミミール色素の主体であるアスタキサンチンは膵液と胆汁によってディエステル→モノエステル→フリーへと分解され,フリーの形で幽門垂部と腸前半部において吸収される。この機構はニジマスと同じであった。
 ・マダイの体表は僅かな刺激によって極短時間のうちに色素量の変化を伴わない色調の変化を起こす。よって,色彩色差計で測色する場合には測定条件を厳密に決めておく必要が有る。
 ・色彩色差計での測色結果で色素量を表すことは現段階では難しい。特に養殖現場では不可能に近い。体表の色は色素の種類と量で表すのが妥当である。
 ・色素量は単位重量当りと単位面積当りで表せるが,単位面積当りで表記する方が良い。これは魚が大きくなるに従って体表が厚くなり,同じ面積でも重さが増す為である。
 以上の結果を踏まえ,今回は4試験を行った。試験-1でオキアミミールを多量に添加した飼料でマダイを飼育した時に異常が生じるか否かと,オキアミミールの添加量と体表色素量の関係を調べた。更に,試験-2でエビ・カニ類の殻から油で色素を抽出した色素油の体色改善効果,試験-3でオキアミミールと色素油を併用した飼料でマダイを長期間飼育した場合の体色変化,試験-4でオキアミ抽出油の体色改善効果等を調べた。以下に夫々の試験の詳細を説明する。

“地域密着でキラリと光る企業”
沖縄読谷村特産品の紅いもから「元祖紅いもタルト」を創造した『株式会社 お菓子のポルシェ』

田形 睆作

沖縄県の産業の特徴は,第3次産業(商業,金融,サービス業など)の割合が高く,第2次産業(建設業,製造業)の割合が低いことである。暖かい気候を利用して,野菜や花の県外出荷が盛んになってきているが,農業や漁業,畜産業などの一次産業が,沖縄の産業全体にしめる割合は低い。現在の沖縄県の暮らしを支えている大きな産業は,観光産業である。美しい自然を求めて沖縄を訪れる観光客は,年々増え続けていて,2012年(平成24年)には,これまでで最も多い592万人を達成した。今後,800万人を目標としている。また,人口も増え続けており,2014年1月1日現在で142万に達した。日本国内で人口が増えている都道府県は東京都と沖縄県のみと言われている。沖縄県は若者の移住人口も多く平均年齢も下がっている。
 こういった状況下で,株式会社お菓子のポルシェは昭和54年に創業,小さな洋菓子店をオープンした。素材にこだわり,素材そのものの味を生かしたもの。作りたてのおいしさ,あたたかさが感じられるもの。どこか沖縄らしさを残したもの。そして,お客様が笑顔になれるもの。こういった考えが御菓子御殿の原点である。

伝える心・伝えたいもの — 天日に干す 天草 —

宮尾 茂雄

私が東京都立食品技術センターに勤務していた頃,「島おこし」として伊豆諸島の食材を使った食品開発に携わったことがあった。そのひとつが神津島や新島産天草だった。伊豆諸島は良質な天草の産地で,乾燥した天草を寒天や菓子などの原料用に出荷していた。神津島のSさんと一緒に,島内の小さな加工場で「神津島産天草ゼリー」や「ところ天」を製造し,商品化した。その後,私は大学に移ったが,2013年の春と夏に西伊豆を訪れる機会があり,海辺や道路沿いに干してある天草を目にした時,ふとそのことが想い出された(写真1)。