New Food Industry 2013年 5月号

予防医学とヘルスフード
~食育としての「機能性おやつ」の提唱~

矢澤 一良

人類生誕以来,数百万年といわれており,近代に至るまでゆるやかな時の流れの中,地球規模での人類を取り巻く環境の変化に対し,人類は遺伝子を少しずつ変えていくことにより適応して生き抜いて来た。しかしながら,この長い歴史の中での「現代」は極めて短期間での激変があった。すなわち産業革命や日本での文明開化後150年,さらには第二次世界大戦後たった65年間で生じた科学技術や化学工業の発展は著しい。この間,地球上に起こりつつある環境の変化,すなわち物理的および化学的な地球温暖化や,それに伴う気象変化,オゾン層の問題などから,世界中の人間を取り巻く安全性の確保に大きな問題が生じている。海水温の変化や異常気象だけでなく,食にまで影響を及ぼしている。プランクトンや微生物に変化を及ぼし,有害微生物やウィルス等,これまでに人類が経験したことのない生体外環境の変化が押し寄せている。このような短時間での人類を取り巻く環境の激変には,それ以前に適応してきた人類の能力をもってしても,もはや手に負えない,収拾のつかない状況にきていると考えられる。人類は自らの手で首を絞めている,あるいは言い方を変えるならば「便利」になったが,「命」や「健康」を代償として失いつつあるということである。さらに,我々の生体内ではその環境の変化に微妙に反応して内分泌系に作用して全身に伝播し,さらに人間関係やテクノストレス等,人類自らが作り出したストレッサーにも対抗しなくてはならなくなってきている。

プロバイオティクスの抗メタボリックシンドローム効果
(Anti-metabolic syndrome effect by probiotics)

佐藤 匡央、森田 有紀子

メタボリックシンドローム発症の問題には,3つの側面があり,①化学的②生物学的③社会学的側面がある。①化学的側面はエネルギー収支,内分泌撹乱物質による肥満が考えられる。②生物学的側面には,遺伝因子,食行動が挙げられ,③社会学的側面は健康保険料,食糧自給率の問題がある。とくに①の化学的側面は栄養学の問題が多く含まれている。栄養学的には,摂取カロリーの低減と日常の運動により,メタボリックシンドロームの中心的な病因である内臓脂肪の低下は時間がかからずにすぐにおこる。体内の脂肪は異所性,内臓,皮下の順で低下する。近年では,この異所性脂肪が内臓脂肪よりも悪影響を及ぼす可能性が示されている。異所性脂肪とは,本来,脂肪組織に蓄積されるべき脂肪が骨格筋,肝臓,心臓周囲などに蓄積された脂肪のことである。筋肉内の異所性脂肪は10日程度の運動で容易に除去できる1)。しかし,肝臓に蓄積した脂肪は肝臓細胞内にリパーゼが存在せず,低密度リポタンパク質(VLDL)の分泌にトリアシルグリセロール処理をたよっているために,その低減が困難である。さらに,このVLDLの分泌に必要な巨大なアポリポタンパク質(apoB100)を作り出すことによる小胞体ストレスが引き起こされるためであると考えられている2)。メタボリックシンドロームの帰結としておこる脂肪肝および動脈硬化症発症のほとんどは,脂質の摂取によっていることは,長い間,栄養学研究の対象であった。しかし,最近では,炭水化物の摂取量が脂質摂取量よりも肥満を導くことがヒトの介入試験により明らかになり3),低炭水化物ダイエット法が注目されている。同時に,ラットの実験だが炭水化物に対して低いタンパク質摂取は肥満を誘発する4)。しかし,このマクロ栄養素の三次元的バランスをとり,さらに遺伝的背景および身体活動量を加味した五次元的バランスの最善が,いかなるものかの決定は困難を極めている。「最善はこの方法である」というエビデンスはない。

無理なくダイエット!〜ボリュメトリクス〜
エネルギー密度(ED)に注目した低エネルギーでも満腹度・満足度の高い昼食の検討

奥村 仙示、足立 知咲、周 蓓、武田 英二

世界保健機構(WHO)発表の2006年度版「世界保健報告」によると,世界人口60億人のうち15歳以上で過体重が16億人,肥満が4億人以上であると示されている。また,2015年までに23億人が過体重になり,7億人以上が肥満になると予想されている。肥満は,私たちの生活習慣や食習慣の変化により消費エネルギーの減少や摂取エネルギーの増加によりエネルギーバランスが崩れたことで引き起こされる1)。エネルギー密度(ED)とは,食品1gあたりのエネルギーkcalである(図12))。エネルギーが高い食品,つまりファーストフードや菓子といった高EDの食品は,低EDの食品と比べて低価格で,手軽に摂取できるため3, 4),摂取の機会が増加している。EDは,その食品の水分含量と脂質含量に大きな影響を受け5),低EDの食品は,野菜や果物,スープが挙げられる6)。また,食事に野菜を使用することでEDを減少させることができる7)。低ED食は,空腹感を増すことなく,エネルギー摂取を低下させる8, 9)。しかし,低ED食は,高ED食より満足度は高いがおいしさでは劣り10),減量手段として低ED食を長期的に摂取し続けることができないという報告がある11)。

ベジタリアン栄養学
歴史の潮流と科学的評価(第1節 背景)1回

ジョアン・サバテ、訳:山路 明俊

この章は,ベジタリアンはどんな人なのか,ベジタリアン食は主にどんな内容なのかを明確にすることです。また,生物医学系文献中でのベジタリアン栄養学の文献に加え,この食事が実際に受け入れられている先進諸国での潮流も紹介しています。

流れ収束型ステンレス鋼製マイクロリアクターによる
オリーブ油の水中油型エマルションの調製

福崎 智司、高橋 和宏、金光 伴積、小野 温子

流れ収束型ステンレス鋼製マイクロリアクターを用いて,オリーブ油の水中油型(O/W)エマルションの調製を試みた。連続相には,食品乳化剤であるデカグリセリンラウリン酸エステルの0.5%水溶液を用いた。O/W液滴の形成を容易にするため,ステンレス鋼製マイクロ流路の底部プレートに対し,梨地加工とシリコン(Si)のイオンプレーティングを施し,超親水性と撥油性を示す表面に改質した。この梨地/Si処理プレートを用いた場合,少なくとも4時間のリアクター運転において平均粒径61.6 μmの液滴が安定して形成された。一方,鏡面加工とSi処理を組み合わせた場合は十分な撥油性が得られず,リアクター運転10分後には液滴の形成が不調となった。マイクロ流路の表面粗さと親水度の制御により,オリーブ油のO/Wエマルションの安定した調製が可能となった。

新製品と特許の係わり

宮部 正明

企業発展の原動力は,技術革新と市場創造だと言われている。
 新技術を出発点として,製品開発,生産技術開発,営業戦略,知財戦略,これらを担う各々の部署が新製品を生むんだという強い意志でもって結集しチーム力として結実したとき,技術革新なり市場創造が生まれる。
 市場として,ニッチな洋菓子業界において,約20年前の話になるが, このチーム力が発揮され,技術革新と市場創造を起こした新製品がある。それは植物性油脂であるパーム中融点油脂を利用した低油分ホイップクリームである。 この成功体験に基づいて,新製品と特許の係わりというテーマで開発と特許を随想し紹介することにする。

二枚貝用飼料-1

酒本 秀一、大橋 勝彦

養魚用飼料に比べて二枚貝用飼料の研究・開発は立ち遅れている。これは人とお金と時間を費やして製品を開発しても,その経費を回収出来るだけの需要が未だ無いことが大きな原因であろう。日本で大量に養殖されているカキやホタテ等の水管の無い二枚貝は海で天然の植物プランクトンを食べて育っており,配合飼料は使われていない。一方,アサリやハマグリ等の水管を有して砂に潜って生活している二枚貝は近年著しく生産量が減少し,国内産で需要量を満たせていない。海外からの輸入品で不足を補っているのが実情である。何故アサリやハマグリ等干潟に極普通に棲息していた二枚貝が減少したのであろう。棲息適地面積の減少,棲息環境の悪化,食害生物の増加,寄生虫や病気の蔓延等色々な原因が考えられるが,適切な餌の減少も原因の一つではないかと考えられる。
 自然界では二枚貝は主として植物プランクトンを食べて成長し,再生産を行っている。よって,海藻類を二枚貝が食べられる大きさにし,十分消化吸収出来る様に細胞膜を取り除いてやれば二枚貝の飼料として利用出来るのではないかと考えた。海藻には色々な種類が有るが,飼料の原料として考えた場合,大量入手が容易で,栄養成分の組成が優れていることが最低限必要である。アマノリ属のスサビノリ(所謂海苔である)は日本における代表的な養殖海藻で,年間約40万トンも生産されており,入手が容易である。また,栄養成分も前報1)で説明した様に必須アミノ酸,タウリン,ビタミン類,ミネラル類に富み,脂質は少ないものの脂肪酸組成では海産動物に重要な生理活性を有しているエイコサペンタエン酸(EPA,20:5n3)の占める割合が高い。

“地域密着でキラリと光る企業”
寒天業界を創造する『伊那食品工業株式会社』

田形 睆作(TAGATA食品企画・開発 代表)

伊那食品工業株式会社は1958年(昭和33年)6月18日に設立された。業務用粉末寒天の製造販売からスタートした。現在の資本金は9,680万円,年商は174億円(2011年)である。本社は長野県伊那市西春近にあり,代表者は代表取締役会長が塚越寛,代表取締役社長が井上修である。工場は長野県中心に5工場あり,販売拠点は支店が東京,名古屋,大阪にあり,営業所は札幌,仙台,長野,岡山,福岡にある。社員数は433(男219,女214)名である(2012年7月現在)。売上高は48期連続で伸びてきたが,その年に寒天がマスコミに大きく取り上げられたために大ブームとなり大幅需要増が生じ,その反動により以降4年間は売上高は減少した。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(10)
豚肉の生食のみが感染源でない有鉤条虫に関する総括的認識(ノート)

牧 純、関谷 洋志、田邊 知孝、舟橋 達也、玉井 栄治、河瀬 雅美、坂上 宏

Summary
Jun Maki1), Hiroshi Sekiya1), Tomotaka Tanabe2), Tatsuya Funahashi2) , Eiji Tamai1), Masami Kawase3) and Hiroshi Sakagami 4)
1)Department of Infectious Diseases, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University; 2) Department of Hygienic Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University; 3) Department of Hygienic Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University; 4)Division of Pharmacology, Department of Diagnostic and Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry:Food that needs precautionary awareness for infection in human body (10)- What are responsible for the infection with the pork tapeworm, Taenia solium and the action to be taken for the prevention(note)
The concept of “forgotten or neglected diseases” is important for our planning to take measures against parasites. This paper describes the infection of man with the beef tapeworm, Taenia solium (Taeniarhynchus saginatus).
When the larvae in the raw pork or related ones are ingested by man, they will grow to the adult stage in the intestine. The adult worms excrete eggs in the body segments in feces. The eggs hatch in pigs and so on to become infective larvae parasitizing in their muscles. The life cycle of this parasite is maintained in the intermediate hosts such as pigs, and the final host (man). Man is infected also with the eggs of this parasites as if man is an intermedicate host. The larvae are found near the body surface or invade into the brain with the severe damage. It is hard to eliminate the larvae in man with chemical agents. Though it is nowadays rare for the life cycle to be maintained in Japan, we have to be watchful and careful not to be infected following eating the pork harbouring the larvae imported from poorly hygienic area. The adult worms are readily expelled with praziquantel while no chemotherapeutic strategy against the larvae has yet been established. The treatment solely relies on the surgical removal of the migrating larvae. However, we should not ingest the eggs given the fact that the treatment trial has been often unsuccessful.
The measures should be taken for the prevention. No raw pork should not be eaten. We have to avoid incorporating the T.solium eggs from fresh vegetables and feces containing the eggs through oral sex. 
[key words: Taenia solium (Taeniarhynchus saginatus), cestodes, parasites]

要約
 形状が真田紐に似ていることが語源の真田虫(サナダムシ)は学問的には「条虫」という。扁平で長いと3mにも及ぶ条虫のひとつである有鉤条虫Taenia soliumは,主として海外で豚肉(ポークpork)の生か不完全調理食材により感染する厄介な寄生虫である。この成虫がヒトの腸管に寄生すると当然消化管障害をもたらす。排便時には切れた虫体の部分が排出される。中間宿主であるブタはその中の虫卵を含む人糞を食するか,それで汚染された食餌を摂取すると,虫卵内幼虫がブタ筋肉内に移行し,被嚢した幼虫(専門用語では囊尾虫,またはシスティセルクスcysticercus)を有するところとなる。ヒトはそのような豚肉の生か熱処理が不十分なものから感染を受け,その腸管に成虫を宿す。ヒトへの感染ルートはこの生活環以外にもある。ヒト糞便中の虫卵は,同一患者の大腸で自分自身に再感染することもありうる。もしくは,非衛生的な生野菜の摂取や性行為などを通して他のヒトに感染する。その結果,皮下や悩などに,成虫でなくて幼虫が寄生して,皮膚表面のいたるところに腫瘍のようなものを作り大きな病害作用をもたらす。その予防には,豚肉,イノシシ等の肉の生食を慎むことが絶対的に重要である。レアのポークステーキも避けるべきである。非衛生的な生野菜も警戒せねばなければならない。性行為で感染性ある虫卵(肛門周囲に存在)を口にすることも危険である。早期発見・早期治療のポイントは,成虫感染の場合はそのような生食歴の有無と肛門より出た体節を持参した上で,出た時の様子を診察医に伝えること,幼虫感染の皮膚疾患であれば,その病状と非衛生的な野菜の摂取や性行為歴を率直に述べることである。駆虫は優れた駆虫剤プラジカンテルの投与により行なわれるのが普通である。成虫が駆出されるが,その際虫体の一部が崩壊してはみ出た虫卵が同一の患者体内で孵化し幼虫の感染が起こることがある。この幼虫は体内,体表の各所へ移行,脳への侵入もある。その結果,豚肉の中の幼虫に相当するものが出来上がる。その予防策としては穏やかで完全な駆虫を心がけて虫体の崩壊を伴わないようにすることが肝要である。皮下や悩などに寄生して大きな病害作用をもたらす幼虫に対する治療はまだ確立されていない。一応プラジカンテルやアルベンダゾールの投与を試みるが,完治は困難である。

築地市場魚貝辞典(マトウダイ)

山田 和彦

 春。といっても近頃は季節が早くなったような気がする。桜の咲く時期も,20年ぐらい前は,今より1週間以上遅かった。桜が咲き終わると,木の芽が伸びるのも早く,新緑があっという間に芽生えてしまうような印象さえ受ける。今のところ,海の中の春が早まっているのかどうか,よくわからない。なにしろ陸の上からは海の中は見えず,海中の季節に大きな影響を及ぼす潮の流れも,年によっておおきく流れを変えるので変化をつかみにくい。今回も春の魚,マトウダイを紹介する。

“薬膳”の知恵(76)

荒 勝俊

女性特有の月経に伴う心身の不調を,中医学では“月経病”と呼んでいる。これまでに述べた様に,中医学では,“月経病”を細かく分類した上で,更に一つ一つの病気を体質によって分類し,一人一人の状態に最も適した治療を選択する。
 現代医学は,身体の細部を細かく診断し細胞レベルで捉えるが,中医学では身体を大きく(小宇宙)捉え,身体の臓腑が互いに影響しあい,バランスを保ちながら大自然の法則に従って健康を維持していると考える。このバランスが崩れた状態を“病気”と考え,治療の基本は身体のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,食生活を正常化する事で改善できると考えており,月経病改善にもつながる考え方である。
 最近,医療先進国において《理論的体系を持ち,科学的視点からの研究も進んでいる中医学》への期待が高まっており,中医学が持つ「未病先防」(病気になる前に予防する)の概念が大きな魅力と考えられる様になった。即ち,中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳”や“薬膳茶”を日常的に飲食する事で,人が本来もっている臓器の機能を回復させながら身体の内部を整える事で,月経病の予防ができると考えている。
今回は,月経病予防に効果が有ると報告されている様々な“薬膳茶”に関して述べてみたい。