New Food Industry 2010年 9月号

大豆イソフラボン抽出物サプリメントの閉経期女性の骨密度への影響 ―無作為化比較試験のメタ分析―

卓 興鋼、石見 佳子

骨粗鬆症の有病率は,性・年代別分布から,男女とも年齢とともに増加し,その頻度は,男性より女性のほうがほぼ3倍高いと報告されている(図1)1)。これらのことから,もし有病率に変化がないと仮定した場合,現在のところわが国における骨粗鬆症患者数は約780万~1100万人であると推定できる。
 閉経後女性における骨量減少及び骨粗鬆症は,エストロゲン(estrogen)濃度の急激な減少により引き起こされた高回転骨代謝に起因すると考えられている2, 3)。閉経後女性においては,腰椎及び大腿骨近位部の骨密度(BMD)が1年当たり平均1~2.4%減少する2, 4)。ホルモン代替療法(hormone replacement therapy, HRT)は骨量減少を伴う閉経後女性のBMDを上昇させる効果があるが,ホルモン関連がんのリスクを上昇させたり5-7),望ましくない副作用を引き起こしたりするため,コンプライアンスが低い8, 9)。

高付加価値食品開発のための経口摂取により活性を持つペプチドの同定

佐藤 健司

ミルク・魚介類・ゴマ・ローヤルゼリー等のタンパク質の酵素分解物,すなわちペプチドの混合物を経口摂取することにより軽度高血圧者の血圧の低下が認められている。これらの食品の一部は,特定保健用食品として血圧が高めの方の食品として認可されている。また血中中性脂肪,体脂肪が気になる方の食品としてもグロビンタンパク質の酵素分解物,ペプチドではないが大豆コングリシニン等が認可されている。これらの事実はペプチドの混合物を経口摂取することにより有益な活性が存在することがヒトの集団において証明されている事を示している。これらの血圧降下の作用メカニズムとして,食品タンパク質の酵素分解物中のペプチドが血圧の調整に関わるエキソペプチダーゼ(アンジオテンシン転換酵素: ACE)の阻害活性を持つことから,ACEの阻害に基づくと考えられる場合が多い。そのためACEの阻害を指標とした分画により,ACE阻害ペプチドが同定され,活性ペプチドであると考えられている。

ヨード強化卵長期摂取がインスリン分泌指数へ及ぼす影響

横山 次郎、下川 雅信、冨岡みゆき、井上 肇

海藻などを多く含む高ヨード含有飼料によって飼育された鶏から採卵された鶏卵はヨード強化卵と呼ばれ,脂質異常改善作用,抗アレルギー作用を有することが経験的にも実験的にも確認されている。今回ヨード強化卵の長期摂取に伴う,糖負荷試験に及ぼすインスリン分泌指数ならびに血糖値に対する影響について臨床研究を行った。
 その結果事前の糖負荷試験における検討で,インスリン分泌指数で0.4以下の被験者においてヨード強化卵摂取群は有意にインスリン分泌指数の改善が認められた。さらに,ヨード強化卵摂取により糖負荷後血糖の上昇が有意に抑制された。
 以上の結果より,ヨード強化卵摂取被験者においては,インスリン分泌指数の改善作用が認められ,ヨード強化卵には少なくとも初期インスリン分泌反応性を改善する作用があると考えられた。

納豆菌ファージのネバネバ分解酵素とその利用

木村 啓太郎

“納豆をかき混ぜると,粘りが短時間で無くなってしまう。”一般消費者,回転すし店,総菜メーカー等がこのような経験をしたら,その商品は返品され,納豆メーカーは対応に苦慮するだろう。このような事例は,まれにではあるが実際に起こっている。原因は,納豆菌に感染するバクテリオファージである(バクテリオファージは微生物に感染するウイルスの一種で、ファージと呼ばれることもある)。バクテリオファージは感染した宿主微生物細胞の中で自分のコピーを作り,やがて宿主細胞を破壊して外部へ娘ファージを放出する。納豆菌が全く生育出来ない程バクテリオファージ感染が重症な場合は,そもそも該当商品は出荷されないため問題は露見しない。しかし,バクテリオファージの混入数が極めて少数で,大多数の納豆菌が正常に生育した場合,感染に気付かずに商品は出荷されてしまう場合が多い。バクテリオファージは,単に納豆菌に感染するだけでなく,納豆の粘り物質であるγ -ポリグルタミン酸を強力に分解する酵素を生産する。

弾性表面波法を用いた果菜類の食感(果肉硬さ)判定技術の開発

池田 敬、崔 博坤、大澤 雅子

スイカは夏の風物詩である。鳥取県の調査によると,消費者がなぜ夏にスイカを食べるのかというアンケートに対し,1番は甘さ,2番はシャリ感を楽しみたいからという結果が出ている(平成13年鳥取県市場開拓局調査)。このことからスイカ果実の甘さやシャリ感を知ることは,スイカの品種改良やマーケティングにおいて非常に重要であることが分かる。ここで果実の甘さに関しては,これまで糖度計など簡便な計測法がすでに開発され,生産や販売現場において作物の品質保証や差別化を行うために活用されているが,シャリ感を判定する技術はこれまで存在していない。
 近年,弾性表面波法と呼ばれる技術が,柔らかいゲルの硬さを判定するために発展してきた1-4)。この技術は物質の表面に沿った弾性表面波により硬さを計測するものである。

消費者の望む商品を開発する

山川 茂宏

今年4月に宮崎県で発生した口蹄疫の拡大が毎日報道され大変な状況になったと被害の大きさに驚いています。食品流通業の中には共に歩んできた畜産産地と長年取り引きしているところも多く,対策に追われている事だと思います。完全に鎮静化されることを祈っています。
 大手乳業メーカーの不祥事以来,食肉偽装,老舗和菓子メーカーの不祥事,老舗料亭の使いまわし,ウナギの産地偽装,輸入ギョーザ,加工米の食品利用など毎年のように事件,事故が続いています。このような中で消費者は「食品」に何を望むのか,そして開発方法を具体例を挙げて案内していきたいと思います。

特許明細書から見た油脂結晶と食品

宮部 正明

特許明細書は,技術文献と権利書の二つの機能を併せ持っていると言われている。これは,技術文献としての価値と権利書としての価値を持つということを意味する。
 本稿では,特許明細書を技術文献情報として位置付けし,筆者の自由意志によって公開公報,国際公開公報から油脂結晶に関連すると思われる公報を選択し,油脂結晶という課題に対して特許明細書は,どのような技術的特徴を提案し,また,どのような考察を加えているのだろうか。
 具体的食品として,チョコレート類,マーガリン/ショートニング類,クリーム類を取り上げて個々の特許明細書について検討を試みることとする。

外食産業と配食ビジネスにおける低塩・高カリウムの重要性

田形 睆作

高血圧予防に関する「低塩・高カリウム」の意義は本誌4月号に『おいしい低塩・高カリウム食品と高血圧予防』1)に,また,6月号に『50歳以上の朝食における低塩・高カリウム"の必要性』2)に記述した。本号では『外食産業と配食ビジネスにおける低塩・高カリウムの重要性』につき記述する。

“薬膳”の知恵(50)

荒 勝俊

中医学における美容の目的は“健康美”を達成することだと述べている。中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)に基づいた独自の整体観から構成されている。即ち,人体も自然界の小宇宙として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが崩れる事で体表に現れる美容上の変化は身体内部の状態を反映している。中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液の状態をこれまで延べてきた診断法にて診断し,そのバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,肌により多くの栄養を供給する事で,健康美を獲得できると考えている。

築地市場の魚たち

山田 和彦

毎度のことながら,暑い日の続く築地。街路樹では,まだセミも鳴いている。でも,真夏ほどに日差しはなく,どことなく秋の気配を感じるようになってくる。空調の効いた都会のオフィスでは季節感が薄れがちでるが,ここ築地市場の中では気候だけでなく,四季折々の魚が見られるので,季節感を失わずにすんでいるように思う。ちょっとした贅沢といえるのではないかと,ひそかに思っている。
 秋といえばサンマである。養殖や輸入される魚が多くなり,魚を見ていても季節を感じることが少なくなっている今日であっても,サンマは秋の魚の代表である。今回はサンマを紹介する。

良薬,口にうまし ー和田萬の金胡麻ー

内田 あゆみ

120年の金胡麻司である和田萬が「金胡麻」を主力商品に据えたのは3代目の栄三氏の時である。あえて,価格競争になる,黒胡麻,白胡麻から離れ,金胡麻に特化したのは昭和40年代である。折しも高度成長期のグルメブーム,健康志向に後押しされ,特に食通家や,著名な料理人にその価値が認められるようになったといわれる。
 和田萬のこだわりは,生産地の選定にも
 胡麻の王様といわれる金胡麻は,トルコの地中海沿岸地方産が最高級とされるため,この地域で 契約栽培をしている。 さらに品質の良い胡麻があると聞けば,中国,スーダン,バラグアイなどの世界を飛び回って指導,交渉 収穫調査に当たっている。日本で消費されている胡麻は99%が輸入であるが,国内栽培にも力を入れており,国内の協力してくれる契約農家を年々増やしている。いまや国内産胡麻の流通の60%は和田萬の栽培指導によるものである。この事業は,胡麻の栽培による食文化の継承,国産胡麻での地域の活性化,また胡麻による「食育の啓蒙」という経営陣の熱い思いに支えられている。