New Food Industry 2010年 4月号

消費者庁の発足に伴う健康産業界の対応

中嶋 茂

消費者庁創設の必要性は,ガス湯沸かし器死亡事故,エレベーター死亡事故,こんにゃくゼリー窒息事故,中国産冷凍餃子中毒事件,事故・汚染米流通事件,食品表示偽装事件など,国民の生命に係る重大情報が迅速に提供されなかったことの反省から,一元的な情報の集約,分析機関の必要性及び迅速な公表,処理体制の整備が指摘された。
 このような状況下で,政府の「消費者行政推進会議」は2008年6月13日最終報告書「消費者・生活者の視点に立つ行政への転換」を発表し,これを受けた当時の福田内閣は9月19日の閣議で「消費者庁の設置」を決定した。また,引き継いだ麻生内閣においても9月29日に閣議決定を行い,消費者庁の設置に向けた準備が進められた。

「食薬区分」見直しで医薬品への変更が予測される健康食品素材について

劉 勝彦

人の健康の保持増進に役立つ食品として,製造・輸入・販売され,通常の食事を補完するものとして健康食品が存在する。その健康食品の原料の多くは既存のものであり,本来誰でも利用できるものである。しかしながら,人が経口的に服用する物が薬事法に規定する医薬品に該当するか否かについて,昭和46年6月1日付薬発第476号厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(以下食薬区分)により判断し,医薬品と判断された成分本質(原材料)については,「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(専ら医薬品リスト)に例示として掲げられている。この通知は,平成13(2001)年3月27日医薬発第243号厚労省医薬局長通知「医薬品の範囲に関する基準の改正について」として大改正がおこなわれ,最近では平成21(2009)年2月20日薬食発第0220001号厚労省医薬食品局長「医薬品の範囲に関する基準の一部改正について」が通知されている。

パン酵母由来β-1.3/1.6-グルカンのもつ機能性

酒本 秀一、糟谷 健二、伊藤 千夏、神前 健

ここ数年の健康食品ブームで,グルカンに関する記事を目にする機会が増えているのではないでしょうか。グルカンの詳細は成書1, 2)に譲るとして,ここではグルカンとはどの様な物で,どの様な食品に含まれているかを極簡単に説明します。
 グルカンとはグルコースがグリコシド結合で長く繋がった多糖の総称で,結合様式によってα型とβ型に分けられます。αグルカンの代表的な物に澱粉やグリコーゲンなどがあります。αグルカン類は栄養学的には重要ですが,機能性についてはそれ程重要視されていないようです。
 健康食品として様々な機能性が調べられているアガリクスやハナビラタケを始めとする茸類のグルカン,パン酵母細胞壁のグルカン,黒酵母由来グルカンなどは全てβ型です。
 当社はパン酵母メーカーで,これまでパン酵母細胞壁グルカンの研究を続けてきました。本報告ではパン酵母細胞壁グルカンに的を絞り,当社が行ってきた研究の概要を説明します。

機能性食品素材としての雑海藻の高度利用

前多 隼人、東 小太郎

海藻は古くから日本をはじめとしたアジア諸国で食されている水産食品である。食用としての用途の他,海藻から抽出したアルギン酸は増粘剤,ゲル化剤,乳化剤などの食品添加物,化粧品の保湿剤,濃厚剤などとしても使用されている1)。また,最近では海藻に含まれる健康維持に役立つさまざまな成分が注目されている。水溶性の成分の多糖類や,タンパク質の酵素分解により調製したペプチドによる血圧低下作用や血漿コレステロール低下作用が報告されている1)。
 さらに海藻類はサザエやアワビ,ウニなどの有用底棲動物の餌となることから,豊かな漁場を保つ上でも重要な役割を担っている2)。一方で食用として利用されている海藻はワカメ,コンブ,ヒジキなどのごく一部の海藻であり,多くの海藻は食用に向かない雑海藻として扱われている。本研究では特に青森県で問題となっている雑海藻であるツルアラメに注目し,それに含まれる機能性成分であるフコキサンチンについて述べる。

おいしい低塩・高カリウム食品と高血圧予防

田形 睆作

多くの人類にとって食品原料として食塩は不可欠な物となった。食塩は食品としての機能として1)食品の味覚向上,2)食品の調理・加工,3)食品の保存性向上などがある。栄養としての機能はナトリウムの補給がある。近年,栄養機能としてナトリウムの過剰摂取が日本人のみならず欧米,中国などでも高血圧の重要な因子として問題になっている。(YSK焼津水産化学工業株式会社)

薩摩焼酎モロミの有効利用

堀田 幸子、有水 育穂、小谷 明司

資源有効利用促進法の趣旨に則り,食品製造に伴う残滓,廃棄物の削減と有効利用の促進のための食品リサイクル法が平成13年から施行されている。また,海洋環境の国際的な保護について1975年に「ロンドン条約」が発効し平成19年以後,日本での海洋投棄が厳しく規制されている。
 このような法規制への適合と資源の有効利用の観点から筆者等は芋焼酎の蒸留後に残留するモロミ乾燥粉末について種々の分析と食品原料としての評価を行なった。以下に薩摩焼酎の紹介と,モロミの乾燥粉末とその利用について記述する。
 なお,この度の開発研究は(有)備南食研と備南ハイフーズ(株)が連携して実施した。

築地市場の魚たち

山田 和彦

春のうららの隅田川…。日毎に暖かさも増し,暖房器具にかじりついていた生活から,屋外の散策が楽しい季節になってきた。築地市場の北の出入口にかちどき門がある。銀座から晴海に向かう広い晴海通りに面している。この晴海通りが隅田川を渡るために掛かっているのが勝鬨橋(かちどきばし)である。その袂にあるため,そのような名称になったのであろう。勝鬨橋から北に向かっては,隅田川沿いの両岸に遊歩道が整備されており,そこここに植えられた桜も見ごろとなれば,いよいよ春本番である。
 春ともなれば海の中も徐々に水温が上がり,春の魚が築地市場を賑わすようになる。前回も春の魚としてメバルを紹介したが,今回は書いて字のごとく春の魚,鰆(サワラ)を紹介する。

“薬膳”の知恵(45)

荒 勝俊

中医学は,中国古代哲学の基礎概念である《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説),という二つの学説から構成されている。即ち,人体も自然界の一部として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが失われると不調が現れたり,病気になったりする。この様に,中医学では人体を一つの有機的統一体と考えており,局所における変化は全身に影響を及ぼし,内臓の変化は五官,四肢,体表などに変化を及ぼす。

スーパーフィッシュまぐろの秘密

伊東 芳則

まぐろは,時速30kmで回遊し,捕食時には120~130kmもの超スピードに達すると言われる海の最速ハンターである。また,大洋を自由に泳ぎ回り,生まれてから死ぬまで一生泳ぎ続けている。本稿ではこのまぐろの驚異的スタミナ・エネルギーの秘密に迫ってみた。