New Food Industry 2010年 11月号

米加工食品に役立つタンパク質の分析技術

斉藤 雄飛、増村 威宏

米は粒食に適しており,ご飯(炊飯米)として,長年日本の食卓における主食の地位を保ってきた。また,米を原料とする加工食品としては,調理米飯,玄米加工品,蒸米加工品,餅,米菓,米粉利用菓子,日本酒,米麹利用発酵食品,米糠油などが製品化されてきた。最近,日本における食糧自給率の向上を目指して,米粉をパン,麺類,洋菓子などの小麦粉代替品として加工食品へ利用することが推奨されている。しかし,米は主食としては,粒食が基本と考えられてきたため,主食相当の粉食利用に関する加工技術の開発は進んでいなかった。
 一方,小麦は粒食に適さないため,異なる品種における成分組成の違いや,デンプン粒度の違いなどにより,様々な用途に合わせた小麦粉(例;強力粉,薄力粉など)が販売されている。それら小麦粉は,パン類,麺類,菓子類,スナック類などの多様な加工食品へ姿を変え,消費されている。近年の加工技術の進歩に伴い,小麦粉加工食品は高品質化すると共に,その製品内容は益々多様化している。

可食天然素材を利用した遺伝子組換え技術に頼らない食品微生物の改変

井沢 真吾

食品製造に利用される食品微生物(パン酵母・醸造用酵母・酢酸菌・麹菌・乳酸菌・納豆菌など)は,発酵食品の製造において発酵反応をつかさどる重要なプレイヤーである。我々が発酵食品を食べる際には,(場合によっては生きたまま)これらの食品微生物を一緒に体内へ取り込むことになり,多くの日本人は普段の食事を通じてかなりの量の食品微生物を摂取している。
 食品微生物がもつ発酵能力やその培養効率を改良することは,新しい製品の開発やコスト削減などにつながる大きな可能性を秘めている。いずれの菌に関しても,その発酵や代謝メカニズムが研究機関や企業等において詳細に研究され,遺伝子の同定やゲノム全塩基配列の解読が進められている。研究の進展による情報の蓄積や技術の進歩を通じて,遺伝子操作でこれらの菌の発酵能や増殖効率を改変することはそれほど難しいことではなくなりつつある。

ガゴメ含有多糖の特性を維持した食品加工技術の開発

佐々木 茂文、鈴木 まつみ、田中 彰

北海道の沿岸域では多くの種類の海藻が繁茂し,その中でも褐藻類のコンブは生産量が約19千トン,264億円(2008年)1)の北海道にとって重要な水産物であり,主に噴火湾から函館市周辺に分布するマコンブ,礼文島から羅臼以北のオホーツク沿岸に分布するリシリコンブ,新ひだか町からえりも町までの日高沿岸で主に生産されるミツイシカコンブ,羅臼から釧路までの太平洋に分布するオニコンブ,釧路,根室地方に分布するナガコンブなどそれぞれの地域で特徴のあるコンブ2)が生産されている。北海道各沿岸域にはコンブ以外にもスジメ,アイヌワカメ,ヒバマタやホンダワラ,チガイソなどの海藻が多く存在しているがほとんど利用されず,その有効活用が強く求められている。
 近年の健康志向の高まりに伴って,低カロリーで健康イメージの強い海藻類に対する関心が高まってきており,特に海藻に含まれるフコキサンチンの抗肥満効果3)やガゴメ由来の粘性多糖類の免疫賦活機能4)など海藻に含まれる成分の新たな機能が近年明らかにされ,それらの機能を活かした機能性食品の開発が期待されている。

DNAマイクロアレイ法を使った高麗人参(紅蔘)摂取におけるマウス組織の遺伝子発現解析

サン・ファン、和田 政裕、岸 恭正、池田 恵二、渡辺 宏

高麗人参(紅蔘)は,古代から韓国の人々によって使われている伝統的な健康に良い植物である。紅蔘には血糖値のコントロール,ストレス緩和,体力の維持や強化など,多くの作用が報告されている。本研究では高麗人参摂取の作用を分子レベルで評価するために,DNAマイクロアレイ技術を用いた。
本実験では,実験群として雌雄別2群(各群8匹ずつ)のマウスに紅蔘を投与し,対照群として紅蔘非投与の雌雄別2群(各群8匹ずつ)のマウスを使用した。4週間後,皮膚と肝臓の総 RNA を抽出し,DNAマイクロアレイ解析を用いて網羅的に解析し,遺伝子発現レベルを検討した。
 本研究の結果により, コラーゲン合成,糖代謝,組織代謝などに関わる遺伝子が発現増加することがわかった。マウスの体重は,紅蔘摂取の影響を受けなかった。また,リポタンパク質,アクチンなど基本的な身体機能の遺伝子は影響を受けなかった。このように,解析の結果,高麗人参が肌の健康や血糖値のコントロール並びに,癌の抑制などに効果のある機能性食品になり得ることがわかった。

−地域の食資源から抗酸化作用と生理機能の探索−ガマズミ果実の抗酸化成分およびヒトにおける抗酸化作用

岩井 邦久

食品には栄養素をつかさどる一次機能,味に関わる二次機能,生体調節に関与する三次機能がある。食べても安全であるという大前提の元に,生命を営む上でこれらの機能はいずれも重要であるが,現代社会では特に三次機能への注目が高まっている。その背景には,日本人の高齢化とともに生活習慣病の増大が社会的問題となっていることがある。生活習慣病を減らすために,適切な生活習慣を身につけ,食による一次予防の重要性が人々に広く認識されるようになり,その一環として食品の三次機能を有効に利用することが期待されるようになったからである。
 生活習慣病には様々な疾患があり,高血圧など普段の生活では気にならないような病気から脳血管疾患や癌など重篤なものまでその程度も様々である。近年では,高血圧,高脂血症,糖尿病などは内臓脂肪型肥満が遠因になっていることが分ってきた。さらに,これらの生活習慣病が重複すると,動脈硬化症や重篤な循環器系疾患に罹るリスクが高まることも明らかになっている1)。

魚介類の摂取の食習慣が食物摂取状況,血清脂質,血清脂肪酸へ与える影響 −魚介類摂取の介入実験,健康教育から見えてくること−

梅村 詩子

我が国では時代と共に食生活の傾向が著しく変化し,若年者では欧米化の食生活が進み,魚介類や緑黄色野菜,豆製品等の摂取が減少し,肉類や油脂類の摂取が多い傾向にある。特に若者は外食やファーストフードを多く利用したり,朝食の欠食等の乱れも指摘されている1)。生活習慣病予防のためには,魚介類,野菜類,豆類,芋類等いろいろな食品を取り混ぜてバランス良く摂取する適切な食習慣が望まれている。現在では若年者の“魚ばなれ”や成人に比べ摂取量の減少が進んでいる現状にある。魚と循環器疾患の関係においては,グリーンランド地方では魚を多食することにより心疾患の発症が少ないこと2, 3)から研究が始まり,魚に含まれるn3系多価不飽和脂肪酸のEPA(IPA)やDHAが重要であるということは報告されていた。しかし最近の研究では日本人のコホート研究で魚介類の摂取量が高いものほど,冠動脈心疾患のリスクは低い報告4)や,n3-P系脂肪酸を1g/100g以上含む魚の摂取量が高値の場合は,以下の場合より急性冠動脈発症のリスクを低下させる報告5)等が示されn3系脂肪酸の量も重要ということである。現在は2010年からの新しい食事摂取基準6)においてもn3,n6系脂肪酸は,各年代とも“量”で示されている。

地域資源を活用した食品開発

永島 俊夫

食品加工の目的は,保存性,衛生性(安全性),輸送性,嗜好性(官能性),経済性(付加価値),栄養性などの賦与,向上ということが挙げられるが,特に食糧自給率の向上が問われている今,限られた資源を有効利用することが求められる。
 私の所属する東京農業大学生物産業学部(オホークキャンパス)の位置する北海道網走市周辺は,我が国でも有数の大規模畑作農業地域で,主要三作といわれる麦,甜菜,馬鈴薯をはじめとして,大根,ニンジン,ゴボウ,ナガイモなど,多くの作物が生産されており,その品質は高く評価され,全国の消費地へ供給されている。また,オホーツク海やサロマ湖,網走湖などで水揚げされる水産資源も豊富で,網走市ではキンキ,カラフトマス,スケトウダラ,クジラ,ワカサギ,シラウオ,シジミを「活き粋き7珍」として特に普及に力を入れている。さらに周辺地域では酪農業も盛んであり,食の安心安全ということが強く求められている今日,北海道産食材はこれまで以上に注目されている。これらはそのまま全国に送られ,高い評価を得ているが,流通ルートから外れた規格外品や未利用部分などもかなりの量に及んでおり,農作物では,大きさの不揃いや傷,表面の病害など,成分組成も変わらず,十分に食用となるのに規格外品となってしまうものもきわめて多い。水産物では魚介類の内臓や骨,産卵期を迎えた鮭鱒などは肉質が劣るため採卵するだけで,それ以外は飼料とされるか廃棄処理されている。

“薬膳”の知恵(52)

荒 勝俊

中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)に基づいた独自の整体観から構成されている。中医学における治療は,古代帝王の神農が草木の薬効などを記した「神農本草」を基に,医療技術と調理技術を双方修得した食医がおかれ,医療と食事を兼ね揃えた“薬食同源”という観点から食療法としての“薬膳”が形成された。即ち,“薬膳”とは《中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った食養生》のことである。薬膳には①食養生としての薬膳と,②治療補助的な意味の薬膳があり,健康維持を目指す薬膳は“養生薬膳”に属している。

築地市場の魚たち

山田 和彦

築地市場の正門前には,国立がん研究所,朝日新聞,海上保安庁海洋情報部などの重要な施設が集まっている。私は,仕事柄,海上保安庁海洋情報部に足を運んだ。ここには「海の相談室」というのがあって,世界各地の海図や水温や海流といった海洋に関する情報を得られる。また,海図の販売もしているので,何度もお世話になった。風がそろそ冷たく感じられるようになってくる頃,朝日新聞前に植えられたカラマツは,すっかり葉を落とし冬の訪れもまもなくである。
今回も秋の魚。サケを紹介する。