New Food Industry 2009年12月号

シイタケ菌糸体培養抽出物(L・E・M)のリグニン様活性

河野 みち代、坂上 宏、佐藤 和恵、塩田 清二、金本 大成、寺久保 繁美、中島 秀喜、牧野 徹

株式会社ヒューマラボは,2005年の設立時よりシイタケ菌糸体培養抽出物(Lentinus edodes mycelia:以下,L・E・Mと略す。)を原料とした,健康食品や化粧品の製造・販売を行う傍ら,機能性評価やヒト治験によるエビデンスの収集に努めてきた。2008年にはオリンパス株式会社のグループ企業となり作用機序の解明にも積極的に取り組んでいる。
 L・E・Mの製造工程を図1に示す。先ず,バガス(サトウキビ繊維)を主成分に脱脂米ぬかを配合とした固形培地を滅菌処理した後,シイタケ菌を無菌的に接種する。次に,培地を約7ヶ月間,一定温度,湿度並びに照度で培養する。そして,発茸前に培地を粉砕し酵素処理した後,熱水抽出・精製して製造されている。

植物・ミルクに由来するセラミド関連試薬の開発

松本 恵実、中塚 進一

セラミドはスフィンゴイド塩基に脂肪酸がアミド結合した化合物である。セラミドは細胞膜の重要な構成成分であり,情報伝達・認識に重要な役割を果たしていることが報告されている1)。また,セラミドは皮膚組織に存在し,皮膚の保湿性保持,紫外線やアレルゲンに対するバリア機能の役割を担っていると考えられている2)。
 天然のセラミドには動物由来と植物由来があり,近年,皮膚保湿性向上や美肌効果を期待した機能性素材として利用されている3)。これらの素材を経口摂取した場合の肌の保湿性向上に関するデータが報告されているが,作用メカニズムについてはまだほとんど未解明の状態である。

マンゴスチン果皮に含有されるキサントン誘導体の機能性—アポトーシス誘導活性を中心に—

土佐 秀樹

オトギリソウ科(Guttiferae)植物であるマンゴスチン(Garcinia mangostana L.)(図1)は,東南アジアが起源とされ,現在では高級フルーツとして栽培される。大航海時代に7つの海を支配した大英帝国のビクトリア女王が「我が領土にあるマンゴスチンをいつも味わえないのは遺憾である。」とのコメントを残したとのエピソードもあり,「果物の女王」と呼ばれる所以である。
 古くから東南アジアでは,マンゴスチンは民間薬として様々な用途で利用されており,その果皮は歯痛や下痢の治療に用いられ1),また,樹皮は下痢や赤痢の治療に用いられてきた報告がある2,3)。つまり,マンゴスチンの全果は食用としてだけでなく,伝承薬として重宝されている天然資源であり,現在でも東南アジアでは果実ごと絞った食品や,果皮エキスや果皮乾燥粉末を配合した石鹸類をニキビ治療として用いる商品が販売されている。

レプチンと肥満について

山口 義彦

日本人の死因の第1位は悪性新生物であり,第2位が心疾患,第3位が脳血管疾患である。いずれの疾患もその発症には生活習慣と密接な関係があると推測される。中でも,心疾患と脳血管疾患の主因は動脈硬化によるものと考えられ,この動脈硬化を促進する因子が,糖尿病,脂質異常症,高血圧などの生活習慣病である。
その基本病態となる内臓脂肪蓄積を中核として耐糖能障害,脂質異常症,血圧高値で定義されるメタボリックシンドロームでは,肥満が重要な役割を果たしていると考えられる。よって,肥満の発症・進展のメカニズムを解明することは,生活習慣病,メタボリックシンドロームの治療および予防に非常に有用であり,主要死因である心血管疾患,脳血管疾患の予防に直結すると考えられる。

噴霧乾燥粉末の形態特性と機能評価

吉井 英文、Vita Paramita、Tze Loon Neoh

近年,種々の栄養補助食品や粉末形態の食品が注目を集めている。高齢化の進展や生活習慣病の増加のため通常の食事摂取に困難を伴うことから経口での摂取が不十分な場合に,栄養素のバランスや性状(流動性)を考慮した加工食品は,粉末を溶解させて用いるタイプのものが多く検討されている。栄養補助食品粉末では,動植物や微生物から分離・精製した生理活性物質(生理活性脂質,生理活性蛋白質,抗菌香気物質)やアロマセラピーに用いられる各種フレーバー物質を,糖質などを用いて粉末化し,熱,光,酸素に対する保存安定性の向上,加工中の安定性の保持などを図ると同時に,徐放制御特性などの新しい機能を付与した機能性粉末を作製する研究が行われている。

米国における5-HMFの長期毒性試験結果

我藤 伸樹、岡 希太郎

5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)は糖類の熱分解産物として多くの食品に含まれている。例えば,砂糖を焼いたカラメルの香りの成分は5-HMFであるし,キツネ色に焦がしたトーストの香りも同じである。厚労省は5-HMFを食品添加物として承認している。そのような5-HMFに発癌性があるという1994年の論文1)は衝撃的であった。これとは別途に,食品の着色を防止する品質管理の目的で,水飴,果実ジュース,蜂蜜などに含まれる5-HMFを定量分析する方法2)が開発され,食品の鮮度維持と合わせて発癌リスク軽減にも役立つと考えられている。
 5-HMFの発癌性について,肝心な1日摂取量との関係が明らかになっているわけではない。今から20年ほど前に行われた小規模短期の動物実験1)が今も漫然と伝承されているに過ぎない。

ポリアミンによるアンチエイジング(その1)

早田 邦康

日本は,国民が最も長く生きることの出来る国のひとつである。地域の中にいる多くのヒトが長寿を享受するためには,必要な食料が供給されて飢餓がなく,良好な衛生状態の下で感染症が蔓延しない環境にあり,病気の早期発見のシステムや医療資源が整い,的確で質の高い医療技術が供給されることなどが条件となるであろう。しかし,このような条件は,先進工業国の多くの国で整っており,日本だけが特別によい条件に恵まれているわけではない。それどころか,喫煙率は先進工業国のなかでは群を抜いてのトップで,労働時間は恐ろしく長い。それにも関わらず,日本は世界のなかでも最も長寿の国である。
 日本のような先進工業国の死因の上位には,心筋梗塞や脳梗塞などの病気が占めている。そして発展途上国においても,心筋梗塞や脳梗塞の増加が深刻な問題となりつつある。梗塞とは,心臓や脳の組織に分布する動脈が閉塞する事によって,血液とともに運ばれる酸素や栄養が供給されなくなり,細胞や組織が壊死することを言う。

新しい米粉とデンプンの調理性

楠瀬 千春

米は,小麦と並ぶ世界的に主要な穀類である。この2つの穀類の調理上の相違点は,小麦が粉にしてから食されるのに対し,米は粒のままで食される点である。小麦は粉にすることで,粒では得られなかった多種多様な調理形態に利用することが可能となったため,世界中でその土地の食文化を反映した様々な食品に利用されている。
 米の粉は古くから団子や米菓子などに一部利用されてきたが,近年は,従来の利用方法とは異なる新用途への利用拡大の取り組みが行政を含めて進められている。農林水産省の「21世紀農政2008」では,米粉の積極的な利用が明記され,その翌年の2009年4月24日には,米穀の新用途(米粉用・飼料用等)への利用の加速化を目的とした「米粉の新用途への利用促進に関する法律」が成立している1, 2)。

非 木 材 紙

兎束 保之

木材から紙を作るようになったのは今から約170年前である。多くの人達が読み書きできる教育基盤の発達と,印刷技術が発達して多数の書籍を出版できる技術的背景が整ってからである。それまでのヨーロッパでは,衣類に使った麻や木綿が老朽化したら裁断して紙に抄(=漉)いていた(抄紙)。日本ではコウゾ,ミツマタ,ガンピなど,成長が早い木の若枝を切りとり,セルロース繊維が密集した組織である靭皮を剥ぎ取って精製し,和紙を作っていた。現在は世界の多くの国々で,木材繊維から作る“洋紙”を主として使用している。

薬膳の知恵 (42)

荒 勝俊

“食材”は,病気になる前に体のバランスの崩れを正すための最高の予防薬(食養)であり,また薬効による疾病の治療に有効(食療)であるといった二つの機能を有している。こうした食材の持つ機能を中医学の理論に基づいて活用し,病気の予防や回復を助け,健康を維持するための食事を“薬膳”と定義できる。こうした薬膳に用いる食材の持つ潜在能力を最大限発揮させる為には,食材の働きを把握し,季節,体調を考えて,組み合わせを工夫することが基本となる。即ち,現在の自分の身体の状態を知り,身体が望む最適な食材を選び料理する事が薬膳料理の基本であり,こうした体の状態を診断する診断法を知る事が重要となる。

築地市場の魚たち

山田 和彦

師走は,築地市場が1年で最もあわただしい時期である。市場の中も外も,たくさんの人が行きかい,活気に満ち溢れている。テレビに映し出される年末用品を買い求める人は,年末の風物詩であろう。
 最近は,スーパーやデパートなど,元旦から開いている店が増え,生鮮食料なども簡単に手に入るので,おせち料理への依存度は低くなったように思う。それだけではないのであろうが,築地市場でも以前に比べて年末の売り上げが少なくなっている。場内に設けられた運送業者の特別集配所,普段の数倍の山になっている発泡スチロールのトロ箱。仲卸店舗の通路は,人が行きかうのも困難なほどの人出。そんな築地市場を見ることは,もうないのであろうか。
 12月の冷たい風が吹くと,「寒」の付く魚貝類が目に付くようになる。今回はその代表でもあるブリを紹介する。