New Food Industry 2009年11月号

パラチノース®のメタボリックシンドローム予防効果

奥野 雅浩、水 雅美、永井 幸枝

近年,欧米に限らず,わが国においても肥満や生活習慣病が増加しており,油脂類や動物性食品の摂取率が高い欧米型の食生活や,乗り物や機械の発達に伴う運動不足が深く関係していると考えられている。特に最近では,内臓脂肪型肥満と高血糖,高血圧,高脂血症が一個人に複数集積する症状をメタボリックシンドロームと定義し,メタボリックシンドロームが循環器疾患や二型糖尿病の発症に関して重要なリスクファクターであることが報告されている。
 メタボリックシンドロームに対する意識の高まりの中,「糖質ゼロ」を訴求する食品が市場で目立つようになっている。厚生労働省による平成16年国民健康・栄養調査報告によると,1975年では,砂糖・甘味料類の1人1日当たりの摂取量が14.6 gであったのに対し,2004年では7.1 gであり,砂糖・甘味料類の摂取量は年々減少の一途をたどっている。

ホップ成分「Xanthohumol」の機能性とその利用

佐々木 絵里、小出 醇

Xanthohumol(XN)はビール原料ホップの雌花に含まれる代表的なプレニルフラボノイドであり,植物ホップ;Humulus lupulus L(Cannabinaceae)にのみ産生され,ホップにとっては必須の成分である。構造上フラボノイド中のカルコン類に属し,分子量354の黄色,無味,無臭の物質である。含有量はホップ乾燥重量の0.1~1.0%である。ホップには数多くのカルコンが含まれているが,これらは全てXNの1/10~1/100の含有量である。ほとんどのカルコンは2’- 水酸基を含んでおり,類似のフラボノンに異性化される。図1にホップに含まれる主要プレニルフラボノイドの構造を示す。

食品微生物を用いた有用生理活性物質の生産

高屋 朋彰、田中 孝明、谷口 正之

ヒトは,有史以前から経験的にワイン,ビール,清酒,チーズ,ヨーグルト,味噌,醤油,漬物など数多くの発酵食品の製造に微生物を利用してきた。1600年代の顕微鏡の発明によって微生物の存在が発見されて以来,その性質と能力が多くの研究者によって解明されてきており,19世紀後半からは,特定の微生物が有する優れた生産能力を応用した微生物利用産業が急速に発展を遂げてきた。
 微生物は,乳酸菌や酵母に代表されるヒトの健康に有益な働きをするグループと,腸管出血性大腸菌,ブドウ球菌,サルモネラ菌などに代表される健康に有害な働きをするグループに大別される。一般的には,ヒトにとって有用な特定の生理活性物質を生産する安全な微生物を選択・分離した後,主に純粋培養によってその生理活性物質を大量に生産することが行われている。微生物を用いた有用物質の生産法は,以下の3種類に大きく分類される。

福島県産小麦ゆきちからの性質と中華麺への応用(1)

庄司 一郎

主食として世界中で栽培されている。その起源は古く,エジプトのピラミッドからも見つかっている。小麦は米と異なり,粉にしてから,パンや麺等に加工されて食物として利用される。小麦の主成分は,デンプンとタンパク質であるが,両成分の性質や含有量は品種や栽培地帯によって大きく異なり,このことが長い歴史の中で,同じ小麦粉でも独特の加工法や食文化を形成してきたと考えられている。
 小麦の穀粒は,外皮と胚乳では構造や成分が大きく異なる。特に外皮は硬いため,製粉の過程で外皮と胚乳が簡単には分離できない。穀粒の内,小麦粉となる胚乳の割合は85%であるが,実際の製粉工程では75%程度の歩留りとなる。

非定常プローブ法による熱物性値の測定方法について

村松 良樹、田川 彰男

食品および食品素材の流通・貯蔵・加工・調理などのプロセスには加熱や冷却を伴う様々な熱的単位操作が含まれる。代表的な熱的単位操作としては殺菌,濃縮,乾燥,冷蔵,冷凍,加熱,冷却などが挙げられる。食品の熱物性値は,それらの加工処理装置・設備の設計や合理的操作方法の検討,操作中に起こる熱移動現象の解析・予測の際に必要である。物体内部での熱の伝わりやすさを示す熱伝導率,加熱・冷却に必要な熱量を求める際に必要な比熱,および非定常状態における物体内部の温度プロフィールを知るうえで必要となる熱拡散率は代表的な熱物性値である。これまで多くの食品の熱物性値が測定・報告されており,これらは熱物性ハンドブック1)をはじめ幾つかの書籍2~4)に取り纏められている。

米澱粉の糊化および老化機構

田幸 正邦

澱粉はアミロース(α-1,4-グルカン:17-25%)とアミロペクチン(α-1,4-に加えてα-1,6-に分岐を持つグルカン:83〜75%)で構成されている1-3)。澱粉の物理的性質については多くの研究成果が報告されている4-6)。そして,筆者らは先に,米7,8),馬鈴薯9)および小麦澱粉10,11)溶液の糊化および老化機構を分子レベルで解析した。ここでは,米澱粉について,その糊化および一定条件で保存した老化溶液の非ニュートン流動と動的粘弾性を測定してレオロジー解析を行い,それらの機構を分子レベルで解析した成果7,8)を紹介する。

天与の不思議な魔法の樹液「マスティック」と牛乳・乳製品の日本的組み合わせを探る!

深澤 朋子

「マスティック」は,ウルシ科の低木Pistacia lentiscus var.Chiaの枝や幹に傷をつけて採取した天然の樹液で,ギリシャのヒオス島南部で採取されるものが良質で特別なものとされている。
 そもそも「マスティック」の木は地中海全域に自生している。ヒオス島のマスティックが特別なものとされている理由の一つ目は,ヒオス島の「地形と微気候」にある。ヒオス島は南北に長く,北部は樹木に覆われた高山が湿度を維持し,北風を遮断する。これが南部の丘陵地帯に,冬季は温暖で夏期は乾燥するという特異な気候をもたらすため,高温で湿度の低い夏は,マスティックの乾燥を促進する。二つ目は,「優生」である。ヒオス島の「マスティック」栽培者たちは,古代から良質な樹液を大量に産出する木を選りわけて,繁殖させ,母樹をもった新しい林をつくった。数世紀に及ぶこの体系的な優生保護を行ったのである。三つ目は,「マーケティング力」である。マスティックの木の栽培を体系化し,製品を規格化し,市場を確立してきた古代からのヒオス人の優れた管理にある。

バイオプラスチック

兎束 保之

人類の歴史を,道具を作る素材の種類にしたがって区分することがある。石器時代,青銅器時代,鉄器時代と続き,現在を鉄器時代と考えるべきか,プラスチック時代というべきかで意見が分かれる。それほどプラスチックは人類の生活道具の材料として重要な位置を占めている。現在使われているプラスチックの大部分は,石油を出発点とする石油化学製品である。その石油は,恐竜が生活していた時代の生物からできた有限の資源である。すでに埋蔵量の半ば以上を消費したという見方があり,21世紀の中頃に枯渇するといわれている。そうなれば,将来のプラスチック原料はバイオ資源に求めてゆかなければならないであろう。
 プラスチックの利便性は軽量,加工性の良さ,丈夫さ,経済性等が数えられている。それらの中で,少なくとも経済性は石油の枯渇とともに失われるであろう。過去には腐ったり錆びたりする心配がなく利用できるところが,利便性のひとつに挙げられていた。ところが,社会全体に蓄積された廃棄プラスチックが,消えないゴミとして環境汚染を生み出している。そこから,人工物質ゆえに自然界では分解されない性質が一大欠点である,と見直されるようになった。

連載 薬膳の知恵 (41)

荒 勝俊

“薬膳”を簡単に定義すると,健康を守るうえで「食材は病気になる前に体のバランスの崩れを正すための最高の予防薬(食養)」,「すべての食材には薬効があり,疾病の治療に有効(食療)」という二つの中医学の理論に基づいた考え方を核として,病気の予防・回復を助け,健康を維持するための食事の事である。そこで,薬膳に用いる食材の持つ潜在能力を最大限発揮させる為には,食材の働きを把握し,季節,体調を考えて,組み合わせを工夫することが基本となる。即ち,体の状態を知り,体が望む最適な食材を選ぶ事が薬膳料理の基本であり,こうした体の状態を診断する診断法を知る事が重要となる。

築地市場の魚たち

山田 和彦

11月ともなると,朝の空気がひんやり感じる。築地へ向かう地下道から地上に出ると,なおさらである。寒くても元気なのが市場で働く人たちと,外国人観光客である。海外で発行されるガイドブックにも築地市場が紹介されていて,近年,築地市場に訪れる外国人観光客が増えているのだという。彼らが目当てにしているのは,マグロのセリである。独特の威勢の良いやり取りが,異国情緒を感じさせるのであろう。外国人でなくとも,マグロのセリには惹かれるものがある。近年,築地でも少なくなったセリの姿もさることながら,日本人の好む巨大な魚が並ぶ様子は,圧巻である。世界各国から集まった様々なマグロ。その中でも最も注目されるのが,本マグロと呼ばれるクロマグロである。今回は,クロマグロを紹介する。