New Food Industry 2022年 64巻 10月号

原著

シークヮーサー抽出粉末含有食品の摂取による認知機能向上効果の確認試験:
ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験

荻堂 裕(OGIDOH Yutaka),照屋 潤二郎(TERUYA Junjiro),鈴木 直子(SUZUKI Naoko),髙良 毅(TAKARA Tsuyoshi)

A confirmation study for improving cognitive function with food containing Citrus depressa extract powder: A randomized, placebo-controlled, double-blind, parallel-group comparison study
Authors: Yutaka Ogidoh 1*, Junjiro Teruya 1, Naoko Suzuki 2, and Tsuyoshi Takara 3**
*Corresponding author: Yutaka Ogidoh 1
**Principal investigator: Tsuyoshi Takara 3
 
Affiliated institutions: 
1 Okinawa TLO Ltd. [University of the Ryukyus Industry-Academia-Government Collaboration Building 3F, 1, Sembaru, Nakagami Gun Nishihara Cho, Okinawa Ken, 903-0129, Japan.]
2 ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1, Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
3 Medical Corporation Seishinkai, Takara Clinic. [9F Taisei Bldg., 2-3-2, Higashi-Gotanda, Shinagawa-ku, Tokyo, 141-0022, Japan]
 
Key Words:
Citrus depressa extract powder, cognitive function, memory, nobiletin, tangeretin
 
Abstract
Objective: This study aimed to confirm the effects of consuming Citrus depressa extract powder (CEP) containing nobiletin and tangeretin on cognitive function in healthy Japanese adults, aged 40 or more, who noticed a memory decline.
Methods: This study included 40 healthy Japanese subjects who met the inclusion criteria. It was designed and conducted as a randomized, placebo-controlled, double-blind, and parallel group comparison study. Subjects were assigned to the CEP group (n = 20) or the placebo group (n = 20) randomly using a computerized random number generator. Each subject took one capsule containing the test food (CEP or placebo) right after breakfast once a day for 12 weeks. The CEP capsule contained 37.7 mg nobiletin and 7.2 mg tangeretin. Cognitrax was used as a cognitive function test at the time of screening and at 12 weeks after intervention. In this study, the composite memory standardized score in Cognitrax was set as the primary outcome. Additionally, the test food’s safety was assessed.
Results: The efficacy analysis dataset as per protocol set (PPS) included 19 subjects per group. In the PPS analysis, we could not find the effects of CEP on either the standardized composite memory score or other cognitive domains in Cognitrax. However, in the analysis of subgroup where subjects with mean corpuscular hemoglobin concentration (MCHC) at the screening equal to or above the average of PPS (31.9%), the standardized score of composite and visual memory at 12 weeks after intervention revealed a significant improvement in the CEP group compared with the placebo group. There were no medically significant changes observed in the safety assessment because of the test food’s continued consumption.
Conclusions: We found that CEP consumption (containing 37.7 mg nobiletin and 7.2 mg tangeretin per day) for 12 weeks improved the composite and visual memory in healthy Japanese subjects aged 40 or more who noticed a memory decline, and whose MCHC was relatively high.
 
抄録
目的:本試験では,シークヮーサー抽出粉末含有食品(ノビレチン37.7 mg/日とタンゲレチン7.2 mg/日を含む)の摂取が記憶力の衰えを自覚する40歳以上の健常な日本人男女の認知機能に及ぼす影響を検証した。
方法:ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施した。適格基準を満たした40名の試験参加者をシークヮーサー抽出粉末含有食品(被験食品群)またはプラセボ(プラセボ群)を摂取させる群に20名ずつコンピュータ乱数にてランダムに割り付け,それぞれ1日1回1カプセルを朝食後に,水またはぬるま湯とともに12週間摂取させた。評価項目はCognitraxを使用した認知機能検査であった。また,安全性評価も実施した。
結果:有効性解析データセットはPer protocol set(PPS)であり,被験食品群19名,プラセボ群19名が解析対象であった。PPS解析では主要アウトカムに設定した総合記憶力の標準化スコアを含めていずれの項目においても被験食品群とプラセボ群に群間有意差を見出すことができなかった。しかし,ベースライン時の平均赤血球色素濃度(MCHC)がPPS解析対象者内の平均以上(31.9%以上)のサブグループでは,総合記憶力および視覚記憶力の標準化スコアは,いずれも被験食品群でプラセボ群と比べて有意に高値を示した。なお,本試験において試験食品に起因する副作用や有害事象は認められず,試験食品の摂取は安全であった。
結論:シークヮーサー抽出粉末含有食品の12週間摂取は,記憶力の衰えを自覚する40歳以上の健常な日本人男女のうち,特に,MCHCが相対的に高い者において総合記憶力や視覚記憶力を向上させることが認められた。
 

解説

口腔の加齢変化と健康

島村 直宏(SHIMAMURA Naohiro),島村 結岐乃(SHIAMURA Yukino),肖 黎(Li Xiao)3

 令和2年の簡易生命表によると,日本人の平均寿命はさらに延び,男性が81.64歳,女性が87.74歳(図1)であり,世界トップクラスの長寿国家といえる1)。反面,令和2年の高齢社会白書によると,日本は全人口のうち65歳以上の人口の割合が28.4%(図2)と世界でも類を見ない超高齢社会(高齢化率21%以上)を迎えた2)。これは周知の事実であると思われる。
 

口腔における真菌感染症

安部 雅世(ABE Masayo),猪俣 恵(INOMATA Megumi),坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi)
Fungal infection in the oral cavity

Authors: Masayo Abe 1, Megumi Inomata 1, Hiroshi Sakagami 2
*Correspondence author: Masayo Abe 1
Affiliated institution:
1 Department of Microbiology, Meikai University School of Dentistry, Department of Oral Regenerative Medicine
[1-1 Keyakidai, Sakado, Saitama, 350-0283, Japan]
2 Meikai University Research Institute of Odontology (M-RIO) [1-1 Keyakidai, Sakado, Saitama, 350-0283, Japan]
Abstract
In recent years, the number of patients with oral fungal infections and periodontitis has been increasing in Japan, a hyper-aged society. Fungal infections have been reported to cause a variety of symptoms, and in India, patients with COVID-19 developed "mucormycosis" and "Candida auris infection" and many people died. This review describes the periodontitis systemic diseases caused by fungal infection, and sources of infection, adhesive function, toxicity and characteristics of fungi.
 
要約
 近年,超高齢化社会の日本において口腔内の真菌感染症ならびに歯周炎の罹患者が増加している。真菌感染症は様々な症状を引き起こすことが報告されており,インドでは,新型コロナウイルス感染症患者に「ムコール症」や「Candida auris感染症」が発症し,たくさんの人々が亡くなった。本総説では,歯周炎と真菌・真菌感染症が引き起こす全身疾患,各種真菌の感染源,接着機能,毒性と特徴について解説する。
  

連載解説

トウジンビエ,Pearl Millet

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUNOSE Chiharu)

 世界の穀物の中で,トウジンビエ,Peal Millet(Pennisetum glaucum)は6番目に重要な穀物である。現在,ほとんどの分類学者が,栽培されているトウジンビエの最も妥当な名称の一般的なシノニム(同義語)はPennisetum typhoidesとPennisetum americanumであると考えている。。この作物は「ブルラッシュ・アワ」とも呼ばれ,インドでは通常「バジュラ」と呼ばれている。西アフリカの野生の草を起源とするこの植物は,4000年以上前,おそらく現在のサハラ砂漠の中心部で家畜化(栽培化)された(図3地図参照)。そして,その原産地から東アフリカへ,さらにインドへと広がっていった。両地域で熱心に採用され,主食となった。
  現在,アフリカで約1,400万ヘクタール,アジアで約1,400万ヘクタール栽培されている。国によっては,キビとモロコシをひとまとめにして統計しているため,正確な数値は不明である。また,トウジンビエは組織的な商業に参入していないため,統計が取れない国も多い。世界の穀物生産量その半分近くをインドが担っている。少なくとも5億人の人々がトウジンビエに依存して生活している。しかし,その重要性にもかかわらず,トウジンビエは「失われた」作物と言われている。というのも,その潜在能力はまだまだ大きいからである。現在,この穀物は重要な穀物の中で“孤児”のような存在である。科学的にも政治的にも支持されていないのである。実際,インドとアフリカの一部以外では,その名を聞いたことがある人はほとんどいない。そのため,モロコシや他の主要穀物よりも遺伝子の発達が遅れている。例えば,平均収量は1ヘクタールあたり600kgにすぎず,ほぼ自給自足の作物である。そのためか,トウジンビエはほとんど研究・産業化されていない。
 

コーヒー博士のワールドニュース

コーヒーノキの葉でコロナを消毒

岡 希太郎(OKA Kitaro)

 話題の新型コロナ治療薬候補ゾコーバ(塩野義製薬)が承認見送りになったその日のNature誌電子版にこんな記事が載っていました。
 軽症の患者が近くのクリニックか薬局で買えて,それを飲んで自宅で静養できるような薬が期待されているのです。でもそれがなかなか出来ません。臨床試験でのリスク調査には,試験期間の限界,限られた人数の被験者,等々の制限があるので簡単ではありません。有効性のデータが出ても安全性は未知のままで審査請求が急がれるのです。緊急時の特例というのはこの辺りを指していると思うのですが,ゾコーバの場合は「有効性を示すデータが不足(新聞による)」とのことなので,新薬としては失格でしょう。TVを見ていると見慣れた専門家が「発熱外来を受診して,検査を受けて,陽性だったら処方箋が出ます」と言っています。でもこれはそう簡単なことではありません。第一に,行列が出来ていること。第二に,検査結果が出るまで3日は掛かること。そしてその間に何をするか,TVは何も教えてくれません。患者は自宅で右往左往するだけです。
 
 

新連載

世界のメディカルハーブ No.1

渡辺 肇子(WATANABE Hatsuko)

 「ハーブと聞いてどんなものを思い浮かべますか」。今から30年以上前,国内でこのように問われたとき,一番多い答えはキャンディーだったと言います。私が思い出すのは缶に入った黒く角ばったもので,爽快感と草っぽい香りがあるのど飴です。同じことを聞かれたら,今は何と答える人が多いのでしょうか。ハーブとは何を指すのか,明確な定義はありません。ある植物に対して人々が持つイメージは,個人によってあるいは国や地域によっても異なります。一般的な食材と思っている野菜でもその成分を知って積極的に摂れば機能性を持つハーブとも言え,その成分を抽出してサプリメント形状にしたものはまた違う印象となります。ゴボウは日本ではスーパーで売られている野菜ですが,ヨーロッパではあまり食用とはされずバードックとして薬草のテキストに登場します。また食べ物以外の身の回りのハーブを考えてみると飲料,化粧品,香料,染料,栽培あるいは祭祀など幅広い分野で利用されていることにあらためて気づきます。このように考えてみると,ハーブは「生活に役立つ香りのある植物」であると言えます。その中でメディカルハーブとは,植物に含まれる成分を健康の維持増進や美容に利用する分野で,薬用植物そのものを指すこともあります(日本メディカルハーブ協会による)。

 

South Africa Communications

Various exchanges between South Africa and Japan

Ghaleeb Jeppie 1

 I arrived with my family in Tokyo, during the rainy season, 29 June 2021 to be exact. The country was still exercising stringent COVID-19 protocols and the airport was deserted. We were accommodated at one of the designated quarantine hotels, where our meals were delivered to our door in small beautifully packed containers and where we were not allowed to exit the room under any circumstances. It was a time when hardly any international travellers were permitted entry into the country because of the border control measures. At the same time, quasi emergency measures were applied so that the Tokyo Olympic Games could continue. Unfortunately, no spectators were allowed.
 
2021年6月29日,私は家族とともに東京に到着しました。日本はまだ梅雨の最中で,しかもCOVID-19への厳しい水際対策により空港は閑散としていました。どんなことがあっても部屋から出ることは許されないといった状況で検疫指定宿泊施設の1つに滞在していました。食事は丁寧に封をされた小さな容器で部屋のドアまで運ばれ,外国人旅行者の入国は非常に難しい時期でした。この時は,「まん延防止充填措置」が適用されており,東京オリンピックは開催されましたが,残念ながら観客としてスタジアアムで観戦することは許されていませんでした。
 

エッセイ

故小柴特別栄誉教授とニュートリノの話

安住 明晃 (AZUMI Akiteru) 

ノーベル賞を受賞された元東京大学教授の小柴特別栄誉教授はご存知の方も多いだろう。では,どんな研究で受賞されたのか。となると首を傾げる人もあるかと思う。そこで今回は小柴教授が発見されたニュートリノと岐阜県のスーパーカミオカンデ見学の話しを書くことにする。ニュートリノは超新星の爆発から飛んできた素粒子を岐阜県神岡鉱山内に設置されたカミオカンデ(神岡核子崩壊実験)で検出したのである。何故鉱山か?というのには理由がある。陽子崩壊時に放出されるニュートリノ以外のラドンなどの粒子の影響を避けるためである。ニュートリノは物質を構成する原子よりももっと細かいもので,電荷を持たず貫通する能力が高いため,他の物質と反応することなく簡単に地球を抜けていってしまう。我々人間の体も1秒間に1〜10兆個もすり抜けているらしいのだ。しかし,水中ではまれに他の物質と衝突することがある。チェレンコフ光という微弱な光を発することがある。そしてこの光を捕まえることで,間接的に陽子崩壊を実証することを目的としたものである。(後述)1987年に大マゼラン星雲で起こった超新星1987Aからのニュートリノという素粒子の初検出に成功した。地球に光とニュートリノが届いたのが87年であり,実際に超新星爆発が起こったのはそれよりも15万年以上過去の爆発である。そしてニュートリノ天文学を開拓したこの業績によって小柴先生は2002年のノーベル賞を受賞された。