New Food Industry 2022年 64巻 3月号

伊藤 敞敏先生 追悼 ミルク—至高の食品がわかる—連載1
第1章 ミルクの科学的特性 —秘められた力

伊藤 敞敏(ITO Takatoshi)

1.ミルクは食糧として作り出される唯一の天然物
2.牛乳,母乳その他の動物の乳はどのように違うのだろう
3.乳はなぜ白いのだろう
4.乳の成分の特性とそのパワー

 

シリーズ: 世界の健康食品のガイドライン・ガイダンスの紹介 第2回

―欧州食品安全機関 (EFSA). ストレス・視力・睡眠に関する機能性評価―

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),波多野 絵梨 (HATANO Eri),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi),馬場 亜沙美 (BABA Asami),野田 和彦 (NODA Kazuhiko),金子 拓矢 (KANEKO Takuya),柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)

Introduction to Guidelines or Guidance for Health Food Products in the World: European Food Safety Authority (EFSA) series
—Functional Assessment of Stress, Vision and Sleep—

Keywords: European food safety authority, clinical trials, health food, stress, vision, sleep
Authors:
Naoko Suzuki1)*,  Kazuhiko Noda1), Eri Hatano1), Takuya Kaneko1), Shunichi Nakamura1),Toshihiro Kakinuma1), Asami Baba1), Kazuo Yamamoto1)
*Correspondence author: Naoko Suzuki
Affiliated institution:
1) ORTHOMEDICO Inc. 
 [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
 
 前回に引き続き,欧州食品安全機関(European Food Safety Authority: EFSA)の発行するガイダンス(以下,EFSAガイダンス)について隔月で紹介する。今回は,EFSAガイダンスの「ストレス・視力・睡眠に関する機能性評価」の中のアウトカムの設定や科学的根拠の説明などの内容を説明する。
1.ストレスに関するヘルスクレーム1)
 EFSAガイダンスでは,気分/感情やその因子(ストレスなど)ごとにアウトカムの種類等が記載されている。そこで,気分/感情やその因子(ストレスなど)ごとのアウトカムの種類,対象者,注意点について以下で説明する。
 

連載解説
グルテンフリー製品について-1

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu)

本論文「グルテンフリー製品について−1」は“Celiac Disease and Gluten” (by Herbert Wieser, Peter Koehler and Katharina Konitzer) 2014 の第4章 Gluten-Free products の一部を翻訳紹介するものである。
グルテンフリー製品は,トウモロコシ,米,モロコシ,ヒエなどのグルテンを含まない穀物や,ソバ,アマランサス,キノアなどの擬似穀物でできている場合がある。さらに,小麦,ライ麦,または大麦からのグルテン含有材料でも,デンプンの徹底的な洗浄,飲料のペプチダーゼ処理,またはグルテン欠乏株の使用などの特殊な処理によってグルテンフリーにすることができる。特にパンやビールの食感や風味の特性を改善することは依然として課題があるが,栄養価の改善においてはかなりの進歩が達成されている。Codex Alimentarius Standard 118-1979によると,グルテンフリー製品のグルテンレベルは20mg/kgを超えてはならない。オーストラリアとニュージーランドを除いた,欧州連合,カナダ,および米国の食品表示法は,主にコーデックスに準拠している。Crossed Grainのシンボルは,セリアック病(CD)患者向けの製品を識別するために国際的に認められている。グルテンフリー製品の安全性を保証するために,グルテン定量のためのいくつかの分析方法が開発された。食品マトリックスからグルテンタンパク質を適切に抽出した後,特定の抗体に基づく酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)が,グルテンの定量に最も広く使用されている。特定のマーカーとしてのグルテンペプチドのポリメラーゼ連鎖反応(PCR),カラムクロマトグラフィー,または質量分析などの非免疫化学的方法は,有望な代替手段である。ただし,さまざまな食品マトリックス中のグルテンの正確な定量は,ターゲット分析物としてのグルテンの複雑さのために依然として課題を提起し,分析方法を較正するための適切な標準物質が緊急に必要とされている。
 グルテンフリーダイエット(GFD)の厳格な生涯遵守は,現在,セリアック病(CD)の唯一の効果的な治療法である。したがって,小麦,ライ麦,大麦,およびパン,その他の焼き菓子,パスタ,ビールなどのオート麦から製造されたグルテン含有食品はすべて避ける必要がある。これは,これらの製品をグルテンフリーの代替品に置き換えるか,グルテンフリーにされた小麦,ライ麦,大麦,およびオート麦からの製品を消費することによって管理できる。
 

コーヒー博士のワールドニュース

17世紀「コーヒーは痛風に効く」は正しかった

岡 希太郎

 17世紀半ばのロンドンに,ヨーロッパ初のコーヒーブームが起こりました。ブームが起こる前のイギリスで,コーヒーを飲んでいた最初の著名人は,オックスフォード大学医学部の解剖学者で,後に同大総長になったウイリアム・ハーベイでした(写真)。
 ハーベイは近代医学の創始者で,「血液循環論」は医学史に残る画期的な発見でした。そのハーベーがコーヒーと出会った切っ掛けは,エジプトからの留学生がお土産に持参したコーヒー豆が気に入ったからだそうです。ハーベーはコーヒーの虜になり,特に持病の痛風発作の痛みを消すめに,際限なく飲み続けていたそうです。
 やがてハーベイは,ロンドン中心部で開店したコーヒーハウス第1号「パスカ・ロゼ」の主人に頼まれて,客集めのポスターを監修しました。そのポスターが今も大英博物館に残っています1, 2)。
 

伝える心・伝えられたもの

—咸臨丸提督木村喜毅とワッフル—

宮尾 茂雄

 前回は,幕末の蘭方医桂川甫周と娘みねの足跡を訪ねた。今回はみねの母方の叔父,木村喜毅(天保元(1830)〜明治34(1901)年)をとりあげた。喜毅は,安政5(1858)年に締結された日米修好通商条約批准書交換のための遣米使節団の副使として,咸臨丸で太平洋を往復し,帰国後は海軍所頭取など幕府の要職を務めた。
 ところで帰国後の喜毅は公務に励む一方で,自宅に知人を招いて西洋料理やワッフルの作り方などを教えている1)。50日程の短いサンフランシスコ滞在中,どこでアメリカの家庭料理やワッフルを覚えたのだろうか,その謎解きが今回のテーマだ。案内役はみねの「名残の夢」と喜毅の回顧録「奉使米利堅紀行2, 3)」であり,しばしば福沢諭吉「福翁自伝」にも登場願った4)。
 

随想

生態系で果たすLipomyces酵母の役割

兎束 保之(UDUKA Yasuyuki)

 Lipomyces属酵母は日本の土壌から容易に分離でき,視野を世界へ広げても,主たる分離源は土壌と報告されている。研究室で培養に使う培地にくらべれば,土壌は段違いに栄養成分濃度が低いので,この酵母は低栄養環境に適合して増殖できる性質を備えていると推定された。そうした低栄養環境に棲息していながら,日本の土壌からはどこからでも検出できるほど広く分布している。広い分布を示すからには,この属の酵母は土壌生態系(生物環境と無生物環境の総和)に対して何かを働きかける特殊な要素を持っているのではないか,と推定させた。
 
 

母乳の力
第5章 牛乳アレルギーとその治療乳・予防乳

大谷 元(OTANI Hajime)

1.牛乳アレルギー
 わが国では国民の3人に1人が何らかのアレルギー症状をもち,5人に1人はスギ花粉症であると言われています。
 図5-1に示したように,とりわけ都市部において,花粉症の患者が激増しています。アレルギー患者が増加した要因として,食生活の変化,環境汚染,スギ花粉の増加,過剰な清潔志向(衛生仮説)などが取りざたされています。
わが国において,食品アレルギーの中で最も多い原因物質は鶏卵です。しかし,生後1年未満に限ると,最も多い原因物質は牛乳と乳製品になります。
 牛乳アレルギーは,3〜4歳になると自然に治癒します。しかし,牛乳アレルギーを患った乳幼児は,小児期に蕎麦や米が原因の植物性食品アレルギーになり易く,さらに成長すると花粉やハウスダストが原因の吸入型アレルギーになり易いと言います。したがって,乳幼児期に牛乳アレルギーにならないことがアレルギー体質にならないために大切です。なお,図5-2に示したように,アレルギーの原因物質が年齢とともに変わることをアレルギーマーチと呼んでいます。
 本章では,牛乳アレルギーの原因物質としての牛乳タンパク質の抗原構造と牛乳タンパク質を原料にした牛乳アレルギー治療乳や予防乳の開発の実際について紹介します。