New Food Industry 2022年 64巻 2月号

研究解説

コーヒー成分の神経保護作用とその特異性
Neuroprotective effects of coffee components and their specificity

松田 玲於奈(MATSUDA Reona),坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi),田村 暢章(TAMURA Nobuaki),飯島 洋介(IIJIMA Yosuke),佐野 元彦(SANO Motohiko),竹島 浩(TAKESHIMA Hiroshi)
要約
 多発性骨髄腫治療薬のボルテゾミブ(Bmib)は強い神経毒性を示すことが報告されている。我々は,Bmib誘発性神経毒性が,コーヒーに含まれるクロロゲン酸の一つである3-カフェオイルキナ酸(3-CQA),そしてその構成成分であるカフェ酸(CA)により抑制されるが,レスベラトロール,クルクミン,p-クマル酸やフェルラ酸では抑制されないことを報告した。最近,BmibとCAは,ボロン酸とカテコール基が結合して複合体を形成することが報告された。カテコール化合物は,Bmib誘発性神経毒性を,複合体を形成することにより抑制する可能性が示唆された。
 

解説

本格焼酎が持つ血小板凝集阻害能 ―蒸留成分による血液サラサラ効果―

須見 洋行(SUMI Hiroyuki),丸山 眞杉 (MARUYAMA Masugi),矢田貝 智恵子(YATAGAI Chieko)
これまで酒類,キノコ類,ネギ類あるいはエッセンシャルオイル類がヒトの血液凝固-線溶系に対して強く影響することを報告してきた1-5)。酒類では特に本格焼酎に含まれる低分子物質がヒト血球成分(血小板)の凝集をアスピリン並みに阻害することが分かっている1-3)。本著では,この本格焼酎(焼酎,泡盛)の香気成分が持つ血小板凝集阻害能を中心に紹介する。
 

秋田県における保健機能食品開発:
「あきた機能性食品素材研究会」設立により商品化を加速

戸松 さやか(TOMATSU Sayaka),佐々木 玲 (SASAKI Akira),福田 敏之(FUKUDA Toshiyuki),杉本 勇人 (SUGIMOTO Hayato),畠 恵司(HATA Keishi)
 保健機能食品とは,食品の機能性を表示できる食品で,国が個別に許可した“特定保健用食品(トクホ)”,身体の健全な成長,発達,健康の維持に必要な栄養成分の補給・補完を目的とした“栄養機能食品”,事業者の責任において,科学的根拠に基づいた機能性を表示可能な“機能性表示食品”の3種類からなる。保健機能食品の市場は,機能性表示食品が登場した2015年は 5,235億円だったものが,3年後の2018年には 7,376億円まで伸びた。特に,機能性表示食品市場の伸びが著しく,2020年にはトクホ市場を超えるまで成長した1)。これまで,秋田県内で発売された保健機能食品としては,秋田大学とかおる堂が共同で開発したビタミンDを含む栄養機能食品「大学病院の先生が考えたサプリ饅頭®」,また,機能性表示食品として届出が受理された商品は,あきたこまち生産者組合の「GABA(ギャバ)のチカラ 白米」など計6品目(2021年12月1日現在)で,市場の成長性を鑑みても注力すべき分野であると考えられる。
 秋田県総合食品研究センター(秋田県総食研)は,1995年の開所以来,県産食材の生理機能性解明と健康食品開発支援を業務の中心の一つとし,県内企業ニーズに応じて,機能性素材の探索や,機能性評価系の開発を行ってきた。近年では,保健機能食品開発支援に力をいれ,関与成分の定量,賞味期限における安定性の確認および届出申請を支援している。本稿では,これまで秋田県総食研が関わった保健機能食品やさらなる商品開発を目的に設立した「あきた機能性食品素材研究会」について紹介する。
 

リグニンスルホン酸塩の瞬間的ウイルス不活化作用

坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi),福地 邦彦(FUKUCHI Kunihiko),浅井 大輔(ASAI Daisuke),金本 大成(KANAMOTO Taisei),越川 拓郎(KOSHIKAWA Takuro),竹村 弘(TAKEMURA Hiromu),猪俣 恵(INOMATA Megumi),相見 光(AIMI Hikaru),吉川 裕治(KIKKAWA Yuji)
Rapid virus inactivation by lignosulfonate
Authors:
Hiroshi Sakagami 1*, Kunihiko Fukuchi 2, Daisuke Asai 3, Taisei Kanamoto 3, Takuro Koshikawa 4, Hiromu Takemura 4, Megumi Inomata 5, Hikaru Aimi 6, Yuji Kikkawa 7
*Correspondence author: Hiroshi Sakagami
Affiliated institution:

1 Meikai University Research Institute of Odontology (M-RIO) [1-1 Keyakidai, Sakado, Saitama 350-0283, Japan]
2 Showa University School of Nursing and Rehabilitation Sciences [1865 Tokaichiba, Midori-ku, Yokohama, Kanagawa 226-0025, Japan]
3 Showa Pharmaceutical University,  Laboratory of Microbiology [3-3165 Higashi-Tamagawagakuen, Machida,Tokyo 194-8543, Japan
4 St. Marianna University School of Medicine, Department of Microbiology [2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan]
5 Meikai University School of Dentistry, Department of Microbiology [1-1 Keyakidai, Sakado, Saitama 350-0283, Japan]
6 Nippon Paper Industries Co., Ltd. Research and Development Division [5-21-1 Oji, Kita-ku, Tokyo 114-0002, Japan]
7 Nippon Paper Industries Co., Ltd. Chemical Sales Department [4-6 Kandasurugadai, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0062, Japan]

Key words: lignosulfonates; anti-HIV; anti-HSV; rapid virus inactivation; water solubility; oral applicatio
Abstract
 Very few studies of the antiviral potential of lignosulfonates have been published.  We recently reported that lignosulfonates showed comparable anti-HIV activity with those of AZT, ddC, and sulfated polysaccharides in the long-exposure system, and it exceeded those of hundreds of tannins and flavonoids. When the exposure time was shortened, the chemotherapeutic index of the lignosulfonates for HIV was increased 27-fold. At a physiological pH, lignosulfonate showed higher anti-HIV activity than commercial alkali-lignin, dealkali-lignin, and humic acid, possibly due to the higher solubility and purity (Medicines 2021, 8, 56. https://doi.org/10.3390/medicines8100056). With their rapid virus-inactivation capabilities, lignosulfonates may be useful for the prevention or treatment of virally induced oral diseases.
 民間伝承によると,五葉松の松かさの煎じ液は,消化器系の癌に効果を示すことに興味を持ち,抗腫瘍成分を単離することから研究を始めた。マウスの腹腔にsarcoma-180を移植し,その延命効果を示す多糖体を,DEA E -セルロースカラムにより分画した。 その結果,延命効果を与える物質は,素通り画分(中性糖),0.5 M NaClで溶出する画分(ウロン酸に富む酸性多糖)からは回収されず,0.15 M NaOHで溶出する画分に濃縮された1)。この結果を参考にして,熱水抽出後の残渣を,アルカリ水で抽出すると,さらに強い抗腫瘍活性を得ることができた。これらの多糖画分の糖組成はほぼ同じであり,活性画分を機器分析すると,リグニンと同定できた2)。この結果は,糖部分には活性がなく,リグニンと糖が複合体を形成すると,抗腫瘍効果が発現されることを示す。しかし,リグニン配糖体は, in vitroの細胞傷害試験では,顕著な抗腫瘍活性は検出されなかったため,免疫を活性化して抗腫瘍性を発現すると思われた。リグニン配糖体は, in vitroで強い抗HIV活性を示すことが偶然発見された3)。これが引き金となり,リグニン配糖体の抗ウイルス活性探索を開始することになった。
 

シリーズ:機能性表示食品

最終製品臨床試験(ヒト試験)によるヘルスクレームの紹介 第1回
―体脂肪を減らす・脂肪の代謝をサポートする―

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),野田 和彦(NODA Kazuhiko),波多野 絵梨 (HATANO Eri),金子 拓矢 (KANEKO Takuya),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi),柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),馬場 亜沙美 (BABA Asami),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)

Foods with Functional Claims: 
Introduction of Health Claims from End-Product Clinical Trial #1
—Reduction of body fat and Regulation in fat metabolism—

Keywords: clinical trials, health food, Foods for Specified Health Uses (FOSHU), Foods with Function Claims, body fat, visceral fat, fat metabolism
Authors:
Naoko Suzuki1)*,  Kazuhiko Noda1), Eri Hatano1), Takuya Kaneko1), Shunichi Nakamura1), Toshihiro Kakinuma1), Asami Baba1), Kazuo Yamamoto1)
*Correspondence author: Naoko Suzuki
Affiliated institution:
1) ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo,  112-  0002, Japan.]
 機能性表示食品制度において最終製品の届出を出すことを目的とした臨床試験(ヒト試験)を実施する際,対象者や摂取期間,評価指標をはじめとした試験デザインの設計を悩む者は多い。そこで我々は,機能性表示食品制度における届出業務を支援することを目的に,「機能性表示食品 最終製品臨床試験(ヒト試験)によるヘルスクレームの紹介」として,隔月でヘルスクレームごとに臨床試験(ヒト試験)の特徴を紹介することとした。
 食の欧米化に伴う脂質の過剰摂取や身体活動量の低下などによって,肥満が問題になっている。肥満の予防には食生活の改善と適度な運動が必要とされるが,現代社会では定期的に運動する時間を設けている人は少ない。そのため,安静時や運動時のエネルギー消費が効率化される機能を表示する機能性表示食品が多く販売されている。本シリーズの第1回目では,『体脂肪を減らす』,『脂肪の代謝をサポートする』という2種のヘルスクレームに着目し,『脂肪』に関連する最終製品を用いて臨床試験(ヒト試験)を実施した届出における2021年10月29日時点の調査結果を紹介する。

 

連載解説
セリアック病の治療

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu)
 理想的なグルテンフリーダイエット(GFD)は,現在セリアック病(CD)患者の健康を完全に回復させる唯一の安全で効率的な治療法である。したがって小麦,ライ麦,大麦,場合によってはオート麦に基づく製品はすべて避ける必要がある。これらの製品をグルテンフリーの代替品に置き換えるか,グルテンフリー穀物からの製品を消費することによって管理できる。診断されたCD患者を,臨床的改善,食事療法の順守,および栄養状態を監視する医師と栄養士を含む医療チームに紹介する必要がある。グルテンフリーの代替品の入手可能性が制限され,コストが高く,品質が悪く,「隠れた」グルテンによる汚染があるため,生涯にわたるGFDを維持することは困難である。したがって,食事療法へのコンプライアンス(法令遵守)は,ほとんどの場合不十分である。多くのCD患者は,GFDを生活の質を低下させる実質的な負担と見なしているため,彼らの最も顕著な要望は,グルテンを含む食品を食べることを可能にするピルまたはワクチンの開発である。近年,代替療法のための多くの新しい戦略が開発されている。それらには,グルテンの酵素分解,腸透過性の阻害,免疫応答の調節,およびワクチン接種が含まれる。いくつかの新薬や栄養補助食品に関する研究は,すでに臨床試験のステータスに達している。入手可能になる最初の医薬品は,代替品ではなく,GFDのサプリメントとして販売される可能性が最も高い。
 

母乳の力
牛乳タンパク質の生体防御機能に着目した食・飼料の開発の実際

大谷 元(OTANI Hajime)
 母乳中のカルシウム感受性カゼインの消化により生じるカゼインホスホペプチドは,マウスやウサギの脾臓細胞やパイエル板細胞培養系において,IgA産生を促進することを,前章において紹介しました。本章では,牛乳カゼインホスホペプチドの動物への経口投与が,生体防御機能に及ぼす影響と,その産業的利用の実際について紹介します。