New Food Industry 2023年 65巻 2月号

原著
サラシア属植物のin vitroにおける皮膚老化抑制作用

芳野 恭士(YOSHINO Kyoji),小關 元気(KOSEKI Genki),芳野 文香(YOSHINO Ayaka),池谷 綾乃(IKEGAYA Ayano),遠藤 大輔(ENDO Daisuke),橋本 雄太(HASHIMOTO Yuta),金髙 隆 (KANETAKA Takashi),古賀 邦正(KOGA Kunimasa)
 

Preventive effects of Salacia plants on skin aging in in vitro study

Authors: Kyoji Yoshino 1*, Genki Koseki 1, Ayaka Yoshino 1, Ayano Ikegaya 1, Daisuke Endo 1, Yuta Hashimoto 1, Takashi Kanetaka 2, Kunimasa Koga 3

*Corresponding author: Kyoji Yoshino
Affiliated institutions:
1 Department of Chemistry and Biochemistry, National Institute of Technology, Numazu College
(3600, Ooka, Numazu-shi, Shizuoka 410-8501, Japan)
2 Seiko Co., Ltd (50-6 Higashino, Nagaizumi-cho, Shizuoka 411-0931, Japan)
3 Japan Wildlife Research Center (3-3-7, Kotobashi, Sumida-ku, Tokyo 130-8606, Japan)
 
Key Words: Salacia plant, skin, aging
 
Abstract
  Anti-aging effects of a Salacia plant, Salacia reticulata, on skin were investigated in in vitro evaluation systems. Aqueous extracts prepared from the leaves and stems of S. reticulata inhibited the activities of hyaluronidase and collagenase activities. Furthermore, these extracts of S. reticulata showed a suppressive effect against the degradation of insoluble elastin fibers caused by irradiation with ultraviolet ray (UV). These results suggest that the extracts prepared from the leaves and stems of S. reticulata could prevent the wrinkles and sagging, and keep the moisturizing capacity in the skin. Though polyphenol components, such as mangiferin, (-)-epicatechin (EC), and (-)-epigallocatechin (EGC), partialy contributed to the inhibitory effects on hyaluronidase and collagenase activities, other active components would be predicted. The extracts of S. reticulata did not strongly inhibit elastase activity. Next, the extracts of S. reticulata also inhibited the formation of Amadori compounds and Advanced Glycation End Products (AGEs) which are procduced from Amadori compounds. Then the extracts of S. reticulata are expected to prevent saccharification reaction according to aging in human body. The polyphenol components in the extracts could contribute to the suppressive effects of the extracts on the degradation of elastin fibers with irradiation of UV and the formations of Amadori compounds and AGEs by their antioxidative activities. The extracts of the leaves and stems of S. reticulata have the potential to prevent various symptoms seen in skin aging.
 
 令和3年の総務省の統計によると,日本の総人口の28.9%を65歳以上の高齢者が占めている。このように高齢化が進む中,老後をより健康に過ごすことは生活の質を向上させる上で重要な課題である。皮膚老化を含む老化の現象を予防するのに,生活習慣の一つである食事を利用することは有効であると考えられる。サラシア属の植物は,東南アジアやブラジル等の熱帯から亜熱帯地域に広く分布するHipporateaceae科のつる性の植物である。Salacia reticulataS. oblongaS. chinensisなど多くの種が知られており,インドやスリランカでは伝統医学を伝えるアーユルベーダに記載されている。これらは,古くから民間薬としてその根あるいは幹が主に糖尿病の予防や初期治療等に使用されてきた1, 2)。また,スリランカではS. reticulataの根などが民間薬として淋病や皮膚病に適用されてきた3)。このような効果には,サラシア属植物の持つ抗菌作用や抗炎症作用が関与しているものと予想される。実際,S. reticulataの根皮には,種々の細菌やカビに対する抗菌作用が認められている4)。一方,S. reticulataの葉にリューマチ性関節炎抑制作用5)が,また,S. oblongaの根にカラゲニン誘発ラット踵浮腫等に対する抑制作用6)があることがわかっている。我々もこれまでに,S. reticulataの葉や幹にオキサゾロン誘発マウス耳介接触皮膚炎7)やアラキドン酸誘発マウス耳介皮膚炎8)に対する抑制作用があることを報告してきた。S. reticulataの葉や幹が示す抗炎症作用の作用機序の一つとしては,炎症の原因となる活性酸素種の消去能といった抗酸化作用が考えられる9, 10)。さらに,S. reticulataの葉や幹にはチロシナーゼ活性阻害作用があり,マウス皮膚のメラニン様物質の形成を抑制することから,これらに美白作用があることも期待される11)。このようなサラシア属植物の作用は,主に皮膚における老化抑制作用に寄与する可能性がある。本研究では,S. reticulataの葉や幹の水抽出物の皮膚における老化抑制作用について,皮膚の伸縮や水分保持に関わる成分の分解,その褐変等を抑制する効果として,ヒアルロニダーゼ活性阻害作用,コラゲナーゼ活性阻害作用,エラスターゼ活性阻害作用,紫外線照射によるエラスチン分解抑制作用,最終糖化産物(AGEs)形成抑制作用をin vitroの系を用いて検討した。
 

解 説

意識と意識障害

窪田 惺(KUBOTA Satoru)
 

意識障害は,救急診療においてよく遭遇する病態であり,一般の人々もテレビ,SNS(social networking service),新聞雑誌などで見たり,耳にしたり,さらに日常言語としてよく用いられている。そこで,筆者は臨床医の立場から医療従事者のみならず一般の人々にも理解できるように,初めに「意識」について,次いで意識障害を述べ,最後に意識レベルと関連して,Vital sign(生命徴候)や瞳孔,対光反射,眼球の診かたについて述べる。
 

納豆の最新情報 ―COVID-19感染から癌予防まで―
Natto in health and disease prevention

須見 洋行(SUMI Hiroyuki)

発酵大豆食品,特に納豆は色々な面で興味が持たれている。2022年11月,水戸で26回目の納豆鑑評会*注1が開催されたばかりであるが,COVID-19感染から癌予防まで,これまで分かっている最新の納豆情報をまとめてみた。
 

連載解説
モロコシ,Sorghum

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu,楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)

失われた作物の本にモロコシを取り上げるのは,一見すると大きな間違いの様に見える。モロコシは,世界の主要作物の中でアフリカが貢献している植物の1つである。モロコシの生産統計は(少なくとも一部の国では)雑穀の生産統計と一緒になっているため,生産量は定かではない。世界の年間生産量はこの2つを合わせたもので1億トンを超えるが,そのうち6,000万トンがモロコシであることは確かである。1985年のFAOの統計によると,モロコシの栽培面積は以下の通りである。アフリカ1,800万ヘクタール,アジア1,900万ヘクタール,北中米900万ヘクタール,南米300万ヘクタールである。主な生産量(単位:百万トン)は,米国(28.70),インド(10.30),中国(推定6.80),メキシコ(6.60),アルゼンチン(6.20),スーダン(4.25),ナイジェリア(3.50)である。実際,この植物は,人間の全エネルギーの85%以上を供給する一握りのエリート植物に属している。世界では,約5,000万ヘクタールの土地から約7,000万トンの穀物を生産している。現在,30カ国以上,5億人以上の人々が主食として食べている。唯一米,小麦,トウモロコシ,ジャガイモの4品目は,人類を養う上でモロコシを上回っている。
 

随想 持続可能な社会における食生活の倫理

橋本 直樹 (HASHIMOTO Naoki)

2020年1月より始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックな流行により,世界中の人々の生活行動が制限され,これまで通りの生活を続けることができなくなった。これを転機として,社会全体として持続可能な社会への移行を急がなくてはならなくなったのである。なぜならば,自然の資源を浪費し,使い捨てて,生産量と生産効率の最大化を求めて地球規模に拡大し,繫栄してきた20世紀の産業社会が,今や地球環境の悪化と資源の枯渇,経済格差の拡大に直面して停滞し始めたからである。 私たちはこれまで世界中から食料を集めて,豊かで便利な食生活を享受してきたが,このような豊かな食生活はいつまでも続けることができなくなってきた。近い将来,世界規模の食料不足が再び起きることが避けられそうにないのである。20世紀の後半,先進国に空前の食の繁栄をもたらした世界の農業が,気候温暖化,環境汚染,農耕地の不足,農業用水の枯渇など農業環境の悪化により,これ以上に食料を増産することができなくなってきたからである。今のままでは今世紀半ばに100億人に達する世界人口を養うことができない。
 

世界のメディカルハーブ ダンディライオン

渡辺 肇子(WATANABE Hatsuko)

強い生命力をもつデトックスハーブ
 セイヨウタンポポとして知られるダンディライオンは繁殖力がとても強く,世界各地に自生することから,インドのアーユルヴェーダ,アラビアのユナニ医学,中国伝統医学,北米の先住民の医学などでナチュラルメディスンとして幅広く用いられてきました。英名の「dandelion」はフランス語の「dent de lion」,ライオンの歯という意味で,これは葉の縁がギザギザしていることに由来するとの一説があります。またダンディライオンの花が咲き終わった後に種子が熟すと白い綿毛が現れます。これが風に乗って飛び散ってしまうと白い花茎の先端部が見えますが,これが修道士の剃髪した頭に見えることから,中世ヨーロッパでは「僧侶の冠」と呼ばれていました。